〈天の磐戸〉

 ――盛岡で暮らしていたころだ。


 2019年の岩手日報に、こんな記事が載った。

「岩手県議会は七月から会議録作成に人工知能(AI)を活用!」

 AIが文字化した会議録を県庁職員がチェックするそうだ。当然だと思う一方、いつかチェックが形骸化するのでは? との心配もある。

「間違いないはず」と手抜きをしたがるのが人間の悲しい性(さが)だ。


 AIを〈Amano Iwayato〉のイニシャルだ、と思ってはいないが……。


  AIは磐戸の陰におはします天照らす知とまで言ふ人さへ居る


 もう一つ懸念がある。政治家が原稿の漢字を読み間違えた場合だ。

〈云々〉を「でんでん」とか。

〈背後〉を「せいご」とか。

〈踏襲〉を「ふしゅう」とか、挙げればきりがない。

 そんなとき、AIはどんな議事録を作るのだろう。意地悪だが、ちょっと楽しみでもある。


 リスクマネジメントの観点に立てば、読み間違えをなくすためには原稿を読まなければいい。あらかじめ質問書も答弁書も作られているだろうから、これをAIがやり取りすれば、ヤジのない上品な議会になるだろう。


 議員の成り手がない、と心配される地方議会。近未来的に発想を飛ばせば、自宅にいながらネットで議論する〈仮想議会〉の時代がくるかも。


 日本が目指す社会の姿として〈五次社会:Society 5.0〉が提唱された。

 サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより実現するらしい。いわゆるビッグデータを解析して、AIが人間の世話を焼くということか……。

 ちなみに、狩猟社会が〈一次社会〉で、農耕社会は〈二次社会〉、工業社会は〈三次社会〉だそうな。現在の情報社会は〈四次社会〉というらしい。

 便利に使っているつもりのAIが、いつの間にか人間の立場と逆転しないよう願う。


  AIに取り仕切らるるか五次社会 われら二次あたりが相応と思ふに

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