第7話帝明会最高権力者ー1

閉店中のお店のドアを開き、改めて久しぶりに帰ってきた東京の外の様子と空気を全身で感じ取る。東京を離れてまだ1年ほどしか経ってないとはいえ、何だか10年ぶりに帰ってきたような懐かしい空気と初めてやってきたような新鮮な空気が入り混じった不思議な気分だ。


「なんだか久しぶりだな。1年しか経ってないという感覚と、もう1年も経ったという感覚………両方感じるよ」

「ここが日本の首都、東京か~。初めて見たけどすごい人! 大阪も中々だったけど東京はそれ以上だね!」


カリアはどこを見ても人だらけの東京の姿に子供のような輝いた目をしている。

まぁ人生で初めて東京に来た人は大体、こんな感じで少年時代の心を取り戻したかのように目を輝かせる。東京も大阪も見てきた俺からすればそんなに違いなんてない気もするが。

とはいえ東京に観光しに来たわけではなく、しかも帝明会の大総裁から直々に来てほしいと話があったのもあって、悠長に時間を過ごしている余裕があるわけではなかった。


「あまり余韻に浸っている時間はないぞ。とりあえず先に帝明会の本部に向かう。行き方の地図は佳奈が俺の携帯にアップロードしてくれているものを辿って行けばつくはずだ。佳奈の奴、本当に仕事が早いな」

「了解で~す」


軽い返事が聞こえると同時に、俺たちはカリアと共に帝明会本部へと向かって歩き始める。

佳奈の言う道を辿っていくと、そこは普段、そこら中人だらけの都心部から少し離れた静かな場所へと続く道だった。


「さっきまであんなににぎわってたのに少し離れただけでこんなにも違うのね」

「そうだな。一口に東京と言っても全部が全部、都会なわけではない」


俺も長い間、東京には住んでいたが帝明会へと続くこの道を歩くのは初めてだ。東京に住んでいた頃は見渡せば常に誰か人がいる状態だったが、ここのような都会から少し離れた静かな場所は初めて来たかもしれない。


 しばらく歩いていると、俺は背後から不穏な気配を感じ取る。


「カリア、お前もわかるか?」

「うん。私も感じる。間違いなく敵の気配だね」


俺とカリアが互いに敵の気配を察したと同時に周りを囲うように刀や銃を持った灰色のフードを被った男たちが姿を見せた。パッと一目見ただけで明らかに普通じゃない奴らだということをすぐに察せるほどだ。


「お前ら、何者だ? 少なくとも俺たちの味方って言うわけではなさそうだが」

「貴様らに名を名乗る必要はない。今ここで我々の前に生き途絶えるがいい!」


どうやらこいつらはまともに俺たちの話に聞く気はないようだ。しかも、明らかに俺たちを捕まえるのではなく、本気で殺しに行く気満々の様子だ。


「覚悟しやがれー!」


何の躊躇もなく、俺に向かって一人の男性がナイフで斬りかかる。

だが、俺には襲い掛かってくるナイフに対する恐怖心という緊張は微塵もなかった。

斬りかかられるナイフを余裕で回避する。そして握られたナイフを右手で掴み、左手で首を気絶させるほどの力加減でチョップした。襲い掛かってきた男性は気を失うように倒れた。

一連の流れを近くで見ていたカリアは感心した顔つきで拍手をしている。


「おぉ~! 流石は元殺し屋。やっぱり腕はそれなりなだけはあるね」

「これでもかなり加減はした方だ。下手に敵を殺していたら面倒ごとが増えるだけだからな」

「だね~! じゃあこの人たちは殺さずに倒すってことでいいんだね?」

「あぁ。それで構わねぇよ」


俺とカリアはゆっくりと謎の敵勢力から一定の距離を保つ。灰色のフードを着た男たちは容赦なく俺たちに襲い掛かってきた。数では圧倒的に不利ではあるが所詮は数が多いだけに過ぎない。俺とカリアがいれば何の造作もなく対処できる。

休む暇もなく灰色のローブの男たちが手段を選ばずに攻めてきても、鮮やかに全ての攻撃を難なくかわし、殺さない程度にうまく気絶させていく。

一方でカリアも、お気に入りの鎌を振り回すことなく、傷つけないように的確に気絶させていく。

そしてあっという間に灰色のローブを着た集団を蹴散らして見せた。ほとんどの人が気絶して身動き一つ示さない中、俺は間一髪気絶するのを回避した一人の男に目を付ける。ボコボコにやられた影響なのかまともに襲い掛かってくる様子も立ち上がる様子もないので俺は堂々とした様子で駆け寄る。

そして、男の胸ぐらをグッと掴み、顔を近づかせながら問い詰める。


「正直に答えろ。お前ら、雇われ部隊だな? 誰から雇われた?」

「…………し、知らねぇ」

「知らないはずはないだろ! わざわざ結構な人数を用意させてまで俺を襲撃させてきたんだ。ここへきて、知らないで突き通せると思うなよ?」


半ばほぼ脅しに近い言い方にはなるが、殺しに来た連中相手に配慮なんてする必要はない。

それに、こいつらから引き出す情報は帝明会か狼角、もしくは死神に関する情報の可能性が高い。


「だから知らねぇって! 我々が雇われた部隊なのは認めるがそれ以上は本当に何も知らねぇ!」


俺の強気な言葉にも頑なに話そうとしない。口止めはされているものだとは想定していたがやはりそう簡単には情報を引き出せないか。

俺と男が話していると、一人、気絶から目を覚ました男が怒りの感情を露わにしながら地面に落ちていたナイフを手に取り、俺に刺しにかかった。


「花巻君! 後ろ!」


相手の捨て身の攻撃に気づいたカリアが俺に大声をかけるが既にナイフを持った男が俺の背後の数メートルまで近づいていた。普通ならば、確実に背中を刺されて人生終了になるに違いない。

俺を除いては。

俺は待ってましたかと言わんばかりに立ち上がり、まずは右足でナイフを持つ手を蹴り上げてナイフを離させる。そして、がら空きになった男の体に肘で強烈な一撃をくらわせた。

さっき気絶させた時よりも当然、力を込めて攻撃したのでほとんど抵抗なくその場に倒れた。

その様子をあっけにとられた様子で見つめる男。さっきまでの頑なに話そうとしない姿勢から明らかに弱気な姿勢へと変わっていた。


「これが最後通告だ。これでもなお、話す気はないんだな?」

「…………ろ、狼角だ」

「狼角だと?」

「あぁ。我々の正体は明かしただろ! 頼むからもう見逃してくれ!」


さっきの不意打ちが全く効果なしだったことで観念したのかあっさりと自分の存在を明らかにした。

薄々そうだろうなとは思っていたがやはり狼角からの刺客だったか。反応を見るにかなり下っ端の刺客の可能性が高く、狼角に関する具体的な情報は得られないだろう。


「そうか。自分たちの正体を明かしてくれたことを感謝する」

「ぐはっ!」


俺は顔を近づけて軽く感謝の言葉を述べ、顔を挙げた男を右足で蹴り飛ばして気絶させた。


「もしかして、花巻君って中々性格悪い方なのかな?」

「性格が悪いも何も、名前を聞いたら狼角って自白していたからな。相手が犯罪組織なのだから別に手加減する必要もないって思っただけだ」

「元々自分も殺し屋だったのにそんな風に思ってるんだ。意外だな~!」

「それは俺に対する皮肉ってことで受け止めておくよ」


俺は元殺し屋。この手で多くの人間を殺してきた俺が今になって犯罪組織に手を加えているのは複雑かつ偽善でもある。自分が汚してきた手を犯罪組織に制裁することで正義ずらしようなんていう気はない。

それでも、ここにいるカリアのように、俺のような腐った心を持つ人間だと知った上でも気軽に話しかけてくれるきれいな心を持つ死神を絶対に守り切らなくてはならないという使命感に変わり始めていた。


「カリア、ここで立ち往生していたら後々面倒になる。帝明会の大総裁も待っているはずだから早いうちにここを去るぞ」

「はーい」


元気な女の子のような声で答えるカリア。

俺はカリアを率先して導くように帝明会本部へと再び歩き始めた。


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