第7話 黎明譚
小さな身体は漆黒の光に包まれる。
「一体なにが・・?」
堯之は目の前で起きている事が理解出来なかった。
「この・・。何をしたっ?」
劉が身体を起こすと沙羅に視線を向ける。
「お父さんいじめる、わるいひと。」
沙羅を包む光がより大きくなる。金色の瞳が妖しく光る。
「クソガキがっ!!」
劉は拳銃を取り出すと沙羅に向けて発砲した。
「やめろっ!!」
堯之が劉の腕を掴んだが一瞬遅れる。
ーバチッー
沙羅に向けられた銃弾は光に弾かれる。
「さらっ!大丈夫だから、落ち着きなさい。」
倉橋が叫ぶが沙羅には聴こえていない。
「どうなってる・・?」
沙羅が腕を上げ手の平を劉に向けると、何処からか大量の蝶が現れ劉を取り囲んだ。
「うわぁぁぁぁ、やめろっ!!」
払っても払ってもキリがなかった。
その隙きに倉橋が沙羅に近付く。
ーバチッー
手を伸ばしたが光に弾かれてしまう。
「っ・・・。さらっ、もういいんだ!」
「・・・。」
「くっ・・。」
倉橋は懐から
『数多の精霊よここへ集い力を貸し給えーー彼の者の魂を鎮めよーー
倉橋から白い光が放たれ、沙羅を包む漆黒の光とぶつかり合いせめぎ合う。
次第に漆黒の光を飲み込んでいく。
倉橋は沙羅を思いっきり抱き締めた。二人を白い光が包み込む。
「沙羅。」
何時もの様に優しく穏やかに大切な娘の名前を呼ぶ。
「大丈夫。大丈夫だ。」
「お・・とう・・さん・・。」
光が消えた瞬間ガクッと沙羅の身体から力が抜ける。倉橋は沙羅を抱き上げると劉に視線を移した。
さっきまで劉を取り囲んでいた蝶は跡形もなく姿を消していた。
「劉さん。貴方は手を出してはいけないものに手を出した。傲慢や執着は身を滅ぼしますよ?」
息も絶え絶えになった劉はガクリとその場にへたり込んだ。
「堯之さん。行きましょう?もう、ここに用はありません。」
「あ、ああ。」
✡✡✡✡✡✡✡✡
堯之は倉橋と一緒に別邸に来ていた。
倉橋は、沙羅を布団に寝かすと額に手をかざす。
『我が名において命じるーーこの者の力を封じーーこの者を護り給えーー』
沙羅の身体は真っ白い光に包まれる。
そして、波が引くように光が消えていった。
「これで大丈夫。」
倉橋は心からホッとしたように呟いた。
一部始終を黙って見ていた堯之に向き直る。
「巻き込んでしまって申し訳ない。」
「・・・いや、俺は何もできなかった。」
「そんな事はありません。沙羅を守ろうとしてくれました。ありがとうございました。」
倉橋が頭を下げた。
「堯之さん、この後お時間ありますか?」
「えっ?ああ、大丈夫だけど?」
「今日の事についてご説明させてください。」
「・・・。」
「お茶を入れます。どうぞ、こちらに。」
沙羅を寝かせた隣の部屋に案内される。倉橋は手際よくお茶を淹れてくれた。
「何からお話したら良いですかね?」
「・・封印って一体何なんだ?」
「沙羅は強力な霊力の持ち主なんです。ですが、まだ幼い。強力すぎる霊力を上手くコントロール出来ないのです。ですので私が沙羅に封印を掛けたんです。今日の様に暴走しないように。それに、恐怖や怒り、憎しみといった負の感情は闇の力が作用するんです。沙羅が漆黒の光に包まれましたよね?あれは、闇の力がはたらいた証拠です。」
「あんたの霊力より強いのか?あんたの力も十分強いと思うけど?」
「ふふっ、遥かに沙羅の霊力の方が上ですね。今日の沙羅は本来の力の半分も出していなかった。私は精霊の力を借りてやっと封じたんです。沙羅の左目が金色になりましたよね?本当の瞳の色は金色なんです。それは、強力な霊力の持ち主の証なんです。正直、その瞳を見た時戸惑いました。」
「どうして?」
「堯之さんも見たでしょう?私のように力があると色々な事に巻き込まれる。命を危険に晒すこともあります。私は沙羅を守りたかった。」
「それで封印を?」
「はい。封印した事によって沙羅の瞳の色は深い瑠璃色になりました。ですが・・封印も永遠ではありません。効力が弱くなるんです。それが今だったんです。」
「だから、力が暴走したのか?」
「ええ。でも、先程もう一度封印を施しました。出来ることならば沙羅には危険な思いをさせたくはないんです。このまま平穏に暮らして欲しい、そう思ってるんです。」
「・・・。」
倉橋は沙羅の眠る部屋を優しい眼差しで見つめた。
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