第2話 黎明譚
不思議な男性との出会いから数日後。
堯之は父親の家を訪れていた。
玄関を入ると、佐々木に声を掛けられた。
「堯之さん。ちょうどいい所に。旦那様がお呼びです。」
「親父が?」
佐々木は最近父親の部下になったばかりだった。
歳は堯之と然程変わらない。何でも卒なくこなし父親の側近として働いていた。
堯之とは歳も近いこともあり何かと接点があった。
佐々木が応接室のドアをノックする。
「旦那様。堯之さんをお連れしました。」
「そうか。入れ。」
佐々木がドアを開けると、来客中だった。
「お呼びですか?」
「ああ、来たか。ちょうど堯之に紹介しようと思ってたんだ。こちらは倉橋さんだ。」
振り返った和装の男性を見て呆気に取られた。
「また、お会い出来ましたね?」
「あんた、あの時の・・?」
「何だ?二人共知り合いだったのか?」
「えぇ。数日前にちょっとした事で。」
「何で、ここに?」
「自己紹介がまだでしたね?私は倉橋黎といいます。」
あの夜と変わらない、穏やかな笑みを浮かべた。
「ああ、俺は藤堂堯之だ。」
「堯之さん。お守りはちゃんと持ってますか?」
「お守り?」
(そういえばそんな物を渡されたな。)
すっかりお守りの存在を忘れていた。
「ああ、あれ?本当にお守りなのか?どうみても、ただの紙切れにしか見えないが?」
「堯之。失礼な事を言うんじゃない。」
すかさず、父親に嗜められる。
「すまないね、倉橋さん。こいつはまだまだ未熟者だ。無礼を許してやってくれ。」
「あはは。良いんですよ、藤堂さん。確かに紙切れにしか見えませんから。」
「・・・。」
堯之は倉橋と父親のやり取りを見つめた。
「何をぼぉっとしてる。お前も座りなさい。」
父親に促されソファーに腰掛けた。
「堯之さん。騙されたと思って身に付けてて下さい。お守り。」
「あ、ああ。わかった。」
「倉橋さん。堯之の事宜しくお願いします。これでも、一応私の跡継ぎなんでね。至らない所があったら遠慮せずに叱ってやって下さい。」
「そんな。堯之さんとは歳も近いですし良い友人になれたら嬉しいですよ。」
相変わらず、にこにこしながら言った。
堯之は困惑した。政財界や官僚トップなどに絶対的な権力を持ち合わせた父親が、自分と歳の変わらない若造に気を使っていることが。
「そうだ、今度東京の家に遊びに来てください。妻も娘も喜びます。もうそろそろ桜も満開になりますから、花見でもしましょう。堯之さんも是非いらしてください。」
「それは良いですね?娘さんも大きくなったでしょう?」
「ええ。」
倉橋が帰った後、堯之は父親に聞いた。
「あの男、何者なんですか?」
「違う意味で、裏社会の権力を握ってる人間だ。」
「違う意味で?」
「そのうちお前もわかる。倉橋さんから貰ったお守りはちゃんと肌見離さず持っていなさい。その意味が解る時が必ずくる。わかったな?」
「・・・。はい。」
堯之には訳がわからなかった。しかし、父親が倉橋という人間を信頼しているのは嫌と言うほど理解できた。
応接室から出ると、佐々木が立っていた。
「佐々木。ちょっと聞きたい事がある。」
「はい。何でしょう?」
「さっきの男はよく来るのか?」
「ええ、時々旦那様とお会いになってますよ。」
「何者なんだ?あいつ。」
「申し訳ありません、詳しくは知らないんです。」
「そうか・・。わかった。ありがとな?」
「いいえ。お役に立てず申し訳ありません。」
あの親父と対等に話してる時点で、カタギではないのだろうと結論付けた。
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