高校生に戻って死んだあの子を助けよう
@makinoda
第1話 は じ ま り
はあ
上司がため息をつく。悲しいような、もう諦めたかのようなため息だった。
「明くんさ、、、もう少しさ、、、んー」
部長はすごく人間のできた人だ。俺が傷つかないように言葉を選んで話そうとしてくれる。
しかしそんな感謝ももうあまり感じなくなってしまった。この感覚はなんだろう。 日々物事への感情。やる気、感謝、安心、不安、怒り。それらが日に日に消滅していくような感覚。
「君が入社して1年ぐらいか?大きなミスはないし、不真面目な態度もない。、、、けどさあもう少し愛想良くっていうか、周囲との連携が取れるといいと思うんだよね。」
部長は入社してからあまり周囲と馴染めておらず、浮いている俺をとても気にかけてくれている。はじめのころはそれがとても嬉しくて、言葉にするのは難しくても感謝していた。
「すみません。」
今では感謝ではなく申し訳ない気持ちしかない。そしてもう自分を見放してほしいとさえ思ってしまう。
感情の種はあるのだ。しかし心の表面に分厚い壁があり、その壁に阻まれ日の目を浴びることはない。
鍵を開け暗い部屋に入る。
カップ麺を作り、食べる。
それから壁にもたれかかりぼうっと天井を眺める。
俺の人生は変わった。あの日に。
「明!明!雪ちゃんが車に轢かれたって今雪ちゃんのお母さんから電話があったの!一緒に病院行くよ!早く準備して!」
母親の声に飛び起きる。
雪は高校でできた友達だった。俺たちはどんどん仲良くなりお互いの家に遊びに行くようになった。そしてお互いの気持ちにも少しずつ気づき始めたころだった。
「嘘だろ!どういうことだよそれ!雪は大丈夫なのか!なあ!」
母親に怒鳴りつけるように問いかける。
「あんまり良くないかもしれないって、、、早く行くよ。」
母親は苦しそうに言った。
その後病院に向かい雪の母親と話をした。図書館に行った帰り道で車にはねられたらしい。どうやら運転手は飲酒をしていたようでブレーキも踏まずに突っ込んだそうだ。
その2時間後、雪は死んだ。
それから俺は現実から逃げるようにして、高校卒業後、実家を出て東京で一人暮らしを始めた。
それからだ。感情が薄くなって行ったのは。
「実家、帰るか。」
明日から4連休が始まる。
正直実家に帰るのは、あの出来事と向き合うのは怖くて上京して1年、1度も帰っていなかった。俺もそろそろ折り合いをつけて生活しなければならないと感じていた。帰省して気持ちに折り合いをつけよう。
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