第7話 早すぎる再会②
─────────
[クラウ・ソラス]のみんなへ。
ごめん、酒場には戻れません。いま、どこかの草原にいます。
どこの国に属しているのかすら分からない土地を今、私は歩いています。
本当は、あの頃が恋しいけれど……でも今はまだもう少しだけ、食料がないという絶望に気づかないふりをします。
私が歩くこの道も(道なんてないけど……)、もしかしたらさっき歩いていた道かもしれないから。※意味不明
アレンより
─────────
風が吹き渡り、その風に合わせて草がさざ波のように揺れる。俺たちはその緩やかな波打ち際を黙々と歩いていた。
太陽(らしきもの)は頭上高く、微動だにせずに空の真ん中に居座っているようにも思える。だが、その日光は思っていたよりも厳しいものではなく、むしろ心地良いと感じるくらいだった。
気温はおそらく27℃くらいで、湿度もちょうどいい。悪路でもない。
つまりはかなり快適な旅路だ、ということである。
強いて文句を言うのでならば、先が見えないということだけ。
別に霧で視界が悪いとかではなく……未来が見えない、という意味での先が見えない、だ。
なんて言ったってここは見渡す限りの草原。
地平線にすら木の1本、建物の1棟すら見えず、緑一色なのだから……
「ホントにここは
「・・・・・・」
俺の後ろからもう一つ重なって聞こえる足音の持ち主に問いかける。半身だけ体を後ろに回し、俺の後ろを付いて来る少女に視線を送った。
「無視はやめて欲しいな……」
「・・・・・・」
俺が立ち止まると、少女も自然と立ち止まる。俺が歩き出すと、少女もまた歩き出す。
「真面目な話さ、本当にここは何処なの?」
中腰になり、少女の灰褐色の髪の奥にある無機質な碧い瞳を覗く。
「・・・・・・」
少女は相変わらずの無表情を貫き、口を開こうともしない。
思わずガックリと
「なんなら俺を連れて〖王国〗に転移してくれると、嬉しいんだけど……」
「・・・・・・」
少女はボー、とただただ俺の目を見るだけで口を開く気配は一向になかった。
俺は再びガックリと肩を落とす。
先に進もうと重い腰を上げようとした時……
掠れた声が鼓膜を微かに叩いた。
「……ん、」
視線を少女の方に向けると案の定、少女が俺に両手を伸ばしていた。
はぁ、と大きな溜息を吐きながら、両手で自身の顔を包み隠すようにして覆う。
(、、、ダメだ、可愛い)
長い間、血みどろな戦場にいたせいか……小さな子どもの行動一つ一つが、えらく可愛らしく思えてしまっていた。思わず顔を隠してしまうほどに。
いやいや、待て待て。冷静になるんだ……地下牢で俺たちを殺そうとしてきたヤツだぞ?
いくら戦う気が無くなっていたとしても、前世でも今世でも彼女の1人も出来ない俺にハグをせがんでくれる子だとしても……警戒した方が───
「ん、」
さらに限界まで両手を伸ばす少女。
「うぐっ……」
「───」
無表情なのに、じわ、と少女の碧い瞳が涙で潤んでいく。
「ちょ、泣かないで……」
さほど時間もかからずに決壊し、ボロボロと大粒の涙が重力に従って草に落ちていく。なおも少女は両手を伸ばしていた。
「俺と協力関係になること! それが守れるなら……だ、抱っこする」
「(コクコク)」
「!?」
少女が初めて俺の言葉に反応をした。
ただ首を縦に振っただけだったが、何とも言えない気持ちになる。
正直なところ、言葉が通じてない説が濃厚になりつつあったので、これは大収穫と言っても過言ではなかった。
『《転移魔法》を使ってくれたら……』と提案しても良かったが、転移した瞬間に殺されでもしたら洒落にならない。
協力関係になれば〖王国〗にだって容易く帰れるだろうし、いきなり殺される心配も無くなる!
「ぜ、絶対だからな! 今の俺じゃ、冗談抜きでホントに死んじゃ───」
言葉を切る。
すぐに約束が履行されないためか、少女がこれまで以上の大粒の涙を
「分かった、分かったって」
そっと抱き寄せると、少女の小さな体は俺の胸にすっぽりと収まった。
俺の腕の中で少女の小さな体が僅かに
呼吸は浅いが、痩せた胸が微かに上下しているのが伝わってきた。
(こんなのが楽しいのかねぇ。まぁ、俺は役得だから良いけども……)
一応、言っておくが俺は断じてロリコンではない。
10秒ほどが経過し『どうやって終わればいいのだろう?』と思案していると不意に、ケホと乾いた
明らかに咳払いや風邪などの咳ではなく、喉が乾燥した時のそれだった。
「……最後に水を飲んだのはいつくらい?」
少女は俺の腕の中で小さく小首を
(……喋れはしないのか?)
「えーと、じゃあ……水飲む?」
「……(コクリ)」
少しの
少女の背中に回していた手を離し、ベルトからウェストポーチを取り外す。
革製のフタを開け、そのまま逆さにするとウェストポーチから『ドバー』という効果音を
その滝のような水の勢いに驚いたらしく、少女は一歩だけ後ずさった……キミはこれの何百倍もの質量の氷を蹴り砕いてたけどね。
「おっと、すまんすまん」
ウェストポーチの傾きを穏やかにしていくと、流れ出る水の勢いが少しずつ弱くなっていく。
水道くらいの勢いになったところでキープする。
「飲んでいいぞ」
「・・・・・・」
どうすれば良いのか分からない、といった様子だった。
「普通に口をつっこめば───」
いや、最近の子はそんな飲み方をしないのか? 蛇口から出る水を直接飲むとか……
俺はほとんど無意識のうちに魔力を使ってウェストポーチをその場で浮かせる。
(……やっぱ杖なしじゃキツイな)
ゴリゴリ減っていく魔力を尻目に服の裾をまくる。
まずは手をきれいに洗ってから、両手を使ってお椀の形を作り、水を
「ほら」
水の溜まった両手を少女に差し出す。
……ん? なんか俺、やばいことしてないか?
何で俺は自分の手に溜めた水を飲ませようとしてるんだ?
すぐにその水を捨てようとするが、すでに少女は俺の指先から垂れる水を舐めていた。
念の為もう一度言っておくが、俺の指を舐めてるのではなく、俺の指先から垂れる水を舐めているのだ。決して俺の指を舐めているのではない。
ちょっとずつお椀に角度をつけていくと、少女は自身のカサついた唇を俺の指先に触れさせて喉を鳴らしながら、ゆっくりと水を飲んでいく。
何故だか背中がゾクゾクした。
……再度、断っておくが、俺は特殊な変態ではないし、ロリコンでもない───はず。
「……おかわり、いります?」
「(コクコク)」
今回の収穫:少女とちょっとだけ仲良くなれた?
────Tips────
〈魔術師〉が杖を持つ理由は魔力を操作する際の効率を上げるためである。
ある〈魔術〉の行使に必要な魔力を100とすると……
杖あり:魔力70でOK
杖なし:魔力100必要
こんな感じである。
そこら辺に売ってる杖でも3割減になるため、全ての〈魔術師〉は杖を持っていると言っても相違ない。
無論、良い杖だとより燃費が良くなる。
アレンの〚
逆を言えばアレンは〚
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます