第2話 考察
「ふむ、発情団長エルフ殿を
ヴァールハイトが声を一段下げると、部屋の空気が張り詰め、温度が数度低くなったように感じられた。
先ほどまでと同じようにただソファーに座っているだけにも関わらず、ヴァールハイトが纏う雰囲気は明らかに冷たく、鋭くなっていた。
「……停戦に至った
団長は急に態度を変えたヴァールハイトに一瞬目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻す。
「不自然、としか言えまい。150年続いた大戦が何の前触れもなく停戦だと? 良い話とも言えるが、一周回って不気味の方が
2日前の朝、〖王国〗からある一報が戦場に届いた。たった一言だけ、『停戦』と。
確かに正直なところ嬉しさよりも、不気味の方が強い。
「団長殿は数刻前まで王城に居たのだろう? 何か聞かなかったのか?」
ヴァールハイトの言う通り、団長は酒場に来る前まで王城に居た(酒場から徒歩30分ほど)。
戦場に残っていた〖帝国〗の兵数やおおよその戦力。国境線の進退について……などなどの報告をするためだ。
本来ならわざわざ傭兵に聞くことではないのだが、正確に状況を把握するためにはそうも言ってられない。もしかしたら生き残った正規の兵士が
「顔馴染みの傭兵にも尋ねてみたが、確実なことは何も」
「ふむ、そうか」
首を横に振る団長を見て、ヴァールハイトは顎髭を触りながらそう答えた。
確実なこと……ね。
「ってことは、不確実なことは何か聞いた感じ?」
「
団長は指を折りながら一つずつ挙げていったが、挙げれば切りが無いほどの量であり、どれも信憑性は皆無だった。
「
突然、ヴァールハイトが
「……砦? あの国境に建ってる要塞都市のことか?」
ちなみにこの戦争は〖王国〗と〖帝国〗、両国の砦の間にある国境が曖昧な地域を奪い合って起きたものである。
団長の言葉にヴァールハイトは静かに頷くが、直ぐに首を横に振った。
「あぁ……いや、何でもない。気のせいだ」
「気になるじゃないか。言ってみろ」
ヴァールハイトは幾らかの
「───団長殿は一夜で2つの砦を落とせるか?」
「不可能だな」
団長は間髪入れずにそう言った。
剣と魔法の世界なら砦の1つや2つ落とすなんて簡単だろ? と思った人もいるかもしれないが、そんなことはない。
だって、そんな砦の1つや2つを落とせなくて、この戦争は150年続いたのだから。
「アレンならどうだ?」
「絶対に無理」
ブンブンと首を振る。団長に出来ないことは俺も出来ない。まして戦闘におけることなら
「そうか、ならばこの話は
ヴァールハイトは口ではそう言っているものの、どこか得心がいっていない様子だった。
「ヴァールハイト、お前は確かに脳筋だが、世にも珍しい知恵の回る脳筋だ。私たちは仲間なんだぞ? 何かあるなら相談してくれないか?」
「そうそう、『人は考える
「……お前たちの目に我はどう映っているんだ?」
ジト目で団長を睨んでいるヴァールハイト……何で俺も睨まれてるの?
ヴァールハイトはため息を吐きながら、少しだけ口角を上げて笑った。
「まぁ、良いか。あくまで可能性の話だが───」
コンコンコン、と扉をノックする音がヴァールハイトの言葉を遮る。
「グレイシャル様、アレン様、ヴァールハイト様。
ドアの向こうからは酒場のマスターの声が聞こえてきた。
声自体は落ち着いているが、どこか焦っているようにも感じられる。
「どうかしたのか? さては誰か酒の飲み過ぎで倒れたか?」
団長は椅子から立ち上がり、明らかに物理法則を無視した速さで鎧を着る。
ドアを開けると、そこには額の汗をハンカチで拭っているマスターの姿があった。
「いえ、実は数分前に王城からの使者を名乗る方が5名ほどいらっしゃいまして……」
「王城から? 分かった、直ぐに行く」
「それが……」
団長は鎧の重さを感じさせない足取りで部屋を出て行こうとするが、マスターに呼び止められる。
「御三方に用があるらしくて」
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──────
───
「傭兵団[クラウ・ソラス]、団長グラス・グレイシャル、副団長アレン・オー、同じく副団長ヴァールハイト・ケーニヒ=ツヴェルク……〚法具〛の不法所持の疑いで王宮まで連行します」
「「「はぁああああああああああ!!!???」」」
今回の収穫:逮捕状。
────Tips────
国境の砦は砦そのものが一種の都市であり、一種の
国ができたから砦を作ったのではなく、砦があったところに国を
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