口数の少ない銀髪少女が何故か俺に懐いてる件

時計

第0章:或る兄と妹

第−1話 前日譚。

◇ ──1日前── ◇



 私こと、空木うつぎ みおには二つ年の離れた兄がいる。

 二つとは言っても私は3月、兄さんは4月生まれなので一年のほとんどは三歳差ということになるが。


 そんな兄さんは現在、リビングのソファーにもたれながらネオバター◯ールをそのまま食べている……CMで焼いているのをよく見るが、私は兄さんがこれを焼いている姿を見たことがない。まぁ、好みだろう。


 特筆すべきは、兄さんが日曜日の朝に自発的に起床したということにある。

 私は朝にめっぽう弱い兄さんを毎朝部屋のドア越しに起こしているのだが、今日はなんと自分から起きてきたのである。

 別に部屋に入って起こしたって良いのだが(実際、少し前まではそうやって起こしてきた)、友人たちに「流石に中3にもなってそれはちょっと……」と引かれたので、試験的にドア越しで起こしている。

 これで兄さんの遅刻癖が悪化すれば、実害が出たということにかこつけて部屋に入って起こしても良い……はずだ。


 隠すことでも無いため、ここで明記しておこうと思う。

 私はちょっぴりブラコンだ。

 

 そして兄のことを少しだけいている。



「おはようございます、兄さん。今日は朝早いですね……彼女でも出来るのでしょうか?」


 テーブルの上に置いてあったメロンパンを手に取って、兄の座るソファーの隣に腰を下ろした。

 このリビングにはこのソファー以外に座れるものが無い、椅子も座布団も。

 これは私が『このソファー以外は要らない』と言い続けているからなのだが、それは別に密着して座れるから……とかいう不純な理由は1ミリしかなく、あくまで金銭的な理由だ。

 だけでやりくりするにはそういう面でも節約したほうが良いというだけのことだ。


「妹よ、何故『───明日は槍でも降るのか?』みたいなニュアンスなんだ? 俺に彼女は出来ないってことか?」


 兄さんは眉を八の字に曲げて困ったように笑っている。

 こんな顔を見れるのは私だけが良い。無意識に「出来てほしくないです」と小さく呟いてしまう。我ながら蚊の鳴くような本当に本当に小さな声だったが、兄さんには届いたらしい。


「ん? 『ないです』? な、ないのか!? 可能性はないのか!?」


 どうやら一部分、しかも可哀想な部分だけが聞こえてしまったようだ。


 涙目のようにも見える兄さんが顔をこちらに向けると、当然すぐ隣に座る私と呼吸が聞こえてしまうほど近づく。

 瞬間、顔が熱を帯び、咄嗟にまだ封を切っていないメロンパンで顔を隠す。


「やっぱり『出来ない』って言ったんだな!? そういうことだよな!?」


 兄さんは絶望というのにふさわしい顔をしながら、私の顔を隠しているメロンパン最終防衛ラインを奪おうとしてくる。


「(メロンパンを取るのを)や、やめて、兄さん! (メロンパンを取られること)それだけは嫌! これを取られたら大切なところ(顔)、全部見えちゃうから!」

「っ!? 待て待て待て!!! その言い方は不味いだろ! ご近所さんに聞こえたら、また警察に通報されるって!!!」


 ちなみに今までで計3回、警察が家に訪問している。

 なぜって? 近所の人が私たちの会話を聞いて勘違いするからである。


 私はまだ子どもだから、何と勘違いしているのかは分からない。

 私は純粋無垢なJ Cなのだから。


 焦った兄さんは私の口を手で押さえる。一見、乱暴に見えるが、兄さんなりの配慮なのか私の唇には一切触れていない。本当に変なところで器用な人だ。


「どうだ、黙る気になったか?」

「(コクコク)」

「……なぁ、何で目尻に涙を浮かべてるんだ?」

「…………」

「そしてなぜ顔が赤くなっていく?」

「…………」

「おい、涙を流すな。本当に間違いを犯しているみたいじゃないか」

「………………」


 間違い、という言葉に私の体がほんの少し反応した。


 やはりこれは兄を想う気持ちとは一線を超えるものなのだろうか? 間違いなのだろうか?


「……間違い、とはどういうことですか?」

「え? そうだな、エッチなことを兄妹でする、とか。無理やり、とか。そんな感じ?」


 そこははぐらかしたりするものじゃないの? と疑問がよぎる。それに、口に出すくらいなら実行して欲しいものだ。もちろん私が相手である。


 チラと窓の外を確認してから、ゆっくりと口を開く。


「兄さん───今私たちはどんな状況ですか? ついでに外を見てください」


 兄さんは頭の上に『?』を浮かべながら、自身を取り巻く状況に目を向け、窓の外を確認すると……即座に逃げようとした。


 兄さんは心の底から焦っている。


 なぜって?

 実は兄さんが私の口を押さえた時、私はソファーの上で横に倒れた……つまり兄さんは状況なのだ。

 こんな所をまた近所の人に見られたら、4回目となる警察訪問は想像にかたくない。


 つまりはたから見れば、先ほど兄さんの言っていた───

・エッチなことを兄妹でする。

・無理やり。

 ……というダブルパンチの状況に見える訳だ。


 兄さんはそれに気付き、近所の人に見られる前にこの状況から抜け出そうとしているのだ。


 ちなみに窓の外に近所のおばさん2人がいることは既に確認してある……あ、こっち見た。おぉ、流れるような通報110だ。


(ふん、鈍感な兄さんへの罰です)


 既に手遅れとは知らずに逃げようとする兄さんの服を掴んで引き寄せた。


「おい、誰かに見られる前に早く……てかお前、力強いな!?」


 最後に聞き捨てならない言葉が聞こえた。私だって乙女であって、そういう言葉には敏感なのだ。

 八つ当たりを含めた力も込め、兄さんの体をさらに引き寄せる。


「ちょ、ち、近いって」


 ほとんど密着した状態で兄さんの耳元に空気を含んだ声で囁く。


「私は好きですよ、……兄さんのこと」

「あ、ありがとう……?」


 なんとも拍子抜けした顔を見せる兄さんは何とも可愛かった。

 たぶん兄さんはただの家族愛───に向けるべき、だと思っている。しかし私のそれは、家族への愛ではあっても、への恋感情なのである。


 突然、兄さんは迷ったような顔をして、おずおずと口を開いた。


「そういや、言おうかずっと迷ってたんだけど……お前、寝癖すごいぞ」

「……え? み、見ないで、見ないで兄さんっ!!!」


 いつの間にか落としてしまっていたメロンパンで髪を隠しながら、スルスルと兄さんの拘束(原因:私)から抜け出し、鏡のある洗面所まで走る。


「あれ? 寝癖ないけど」


 肩甲骨あたりまで伸ばした黒髪に指を通しながら、首をかしげる。


 あ、私から逃げるための嘘……やられた……




◇ ──亜純あずみside── ◇


 なんとか咄嗟の嘘で難を逃れたが、あれ以上は俺の兄としての沽券と社会的立場が音を立てて崩れてしまう可能性があった。ガラガラと。


 贔屓目に見ても見なくてもみおはバチクソ可愛い。

 絹糸けんしのように細くしなやかな黒髪、整った眉、遠目で見ても分かる長いまつ毛、黒の中に微かな青みを感じる優しげな瞳、そして幼さが残る鼻と口、控えめな胸としなやかな肢体…………最高やん。


 ソファーに座り直し、背もたれに体重をかけると大きなため息が漏れた。


「妹じゃなければ、もう襲いたいくらいなんだけのなぁ。まぁ、別に妹でも……いや、流石にまずいか」


 問題発言である。

 外にいるご近所さんに聞こえるような声量では到底ないが……万が一、億が一にも聞こえてしまっていたら問答無用で詰みである。


『ピンポーン』


 そんな事を考えていると不意にインターホンが鳴った。


 あぁ……、と思いながら重い足取りで壁に取り付けられたテレビドアホンのボタンを押す。


『度々すみません。◯◯駐在のものです。先ほど近所の方からまた通報を受けまして……』


 パネルにはいつもの男性警察官……そしてその横には緊張のせいか、はたまた怒りからか(おそらく後者)、二重にも三重にも眉間に皺の寄った若い婦警ふけいさんが居た。その面持おももちは凶悪犯罪者に立ち向かおうとする覚悟を決めているようにも見えた。


「はい、今行きます」


 さて事情聴取戦争を始めよう……


─────────

──────

───


 余談だが、この事情聴取は2時間半にわたった。









◆ ――あとがき―― ◆


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