折り紙の件
端役 あるく
前半
冬
親戚と言っても遠い親戚。
血縁関係の有無を問われればほぼ無いに等しいようなその関係の親戚が、ある用事で私たちに連絡を寄越した。
その内容を簡潔に記す。
「親戚の某君が病気になりました。親戚一同で千羽鶴を作っています。お宅の娘さんとお兄さんは高校生という歳ではありますが、ぜひ参加しましょう。」
ざっとこんな内容だった。
「寒」
急な風に首元を撫でられて、私はつい声を出してしまう。
自分の声を横の人物に受け取られていたら、少し面倒だと思い。足取りを緩ませず、ゆったりと横を向く。
兄、特にこっちを気にしている様子はない。
それにしてもものすごい恰好をしている。
大きめの黒いダッフルコート、緑色のニット帽を深々とかぶり、首にはモフモフのマフラー、さらにはイヤーマフまで装備し、コートと手袋だけの私と比べればその恰好は、重装備が過ぎるとも思われる。
さらに奇妙なことに、その重装備にして手袋はつけないのだ。こだわりらしいが絶対に付けない。
聞いてみると、自由が利きづらいというものらしいけど、はっきり言ってよく分からない。
ここまで言うと手に防具をつけないのかと思うかも知れないけれど、否、防具こそつけないが武器を持っている。それを彼は時折取り出し、両の手で握るのだ。
握って、潰すようにはさむ。
カイロだ。
生粋のカイロ人間である兄は手袋を使わずにカイロを用いる。
何て考えているうちにそこにたどり着いた。
マンションの一階の一室、その扉の前にたどり着いた。
すかさず、玄関チャイムを鳴らす。カメラがついているからモニターフォンの方が正確か
数秒待って、扉が開かれた。
ほんの少しだけ。
小さい子供が隙間から顔を出す。その子の力では扉を開けるのはこれがいっぱいいっぱいのようでそれ以上は開けてはもらえなかった。もちろん、それを見てどうもしないような人間でもないので、ドアを握り引き寄せる。
その小さい子供に案内され、中に入る。
特に変わったものなどない。一般家庭のようだが、不思議なことが一つあった。
「大人の人はいないのかな?」
率直な疑問だった。
「いないよ。お父さんはお仕事に行ってて、お母さんは買い物に行ったの。にーにはサッカーに行った。お母さんはすぐ帰るからその間に、人が来たらドアを開けてあげてって言ってた、から開けた。」
つまりはお留守番だ。
小学生にも満たないような、目の前の小さな男の子は今もお母さんとの約束を忠実に遂行しているのだ。
感心しつつ、リビングにたどり着く。
中央には、テーブルが備え付けられ、椅子が片面に二つずつ並んでいる。椅子にはクッションが取り付けられており、半分は子供用、半分はそれ以外の人間用のデザインのものだ。
おそらく、家族の母と父の側と子供二人の側と言うことだろう。
そのテーブルの上、そこにあった。
今日の目的物 千羽鶴
言っても、まだ紐は通しておらず、バラバラの状態の一羽鶴の大群が箱にぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「これで、いくつあるの?」
「半分くらいって、お母さんが言ってた。でも今日は、お兄ちゃんとお姉ちゃんに手伝ってもらえるからずっと進むって言ってた。あっ!ありがとうございます。」
何かを言われていたのか、思い出したように、子供は感謝の言葉を述べる。
その言葉に簡単に形式的に言葉を返し、さっと席に着く。
兄には奥の椅子を促す。
その瞬間だった。
「ぶっ!」
兄のお尻あたりから、音が鳴った。
何が起こったのか唖然とする。私だったがその瞬間だった。
兄はその状況を理解したのか、もう一度椅子に腰掛けなおした。
「ぶっ!」
また同じ音。それを兄はまたと繰り返す。
繰り返す。繰り返す。
そのうち、状況を変えたのは男の子だった。
けたけた、きゃっきゃと急に笑い声をあげ始める。
「お兄ちゃんが、おならしたー」
体をくねくねとさせながら、可愛らしさを強調させて、兄をからかう。
続けて、状況を説明する
「それ、にーにがお母さんに仕掛けてる、ブーブーだよ。乗っかったらおならが出たみたいになるん。にーに、いたずら好きなんの。」
屈託なく、笑顔で語った。
それを聞いてなお、兄はまたそれを踏みつける。また子供は笑い始める。
~~
折り紙なんて、いつ振りだろうかと思う。
男の子の持ってきた折り紙入れ、横には彼の名前だろう物が書いたシールが張り付けてある
その中から紙を一枚取り出す。
折り鶴と言えば、折り紙の有名なひとつだろうけど、折り方ははっきりとは覚えていない。
間違えてもなんだし、しかもモデルは目の前に五万とある、訂正五万は無い。
あればもう用もない。
その紙箱の中を簡単にまさぐり。奇麗なものを探す。
と、一見して急に目に留まる物を発見した。
それをすっと抜き出す。
それは異様に黒い折り鶴だった。
変な黒み。他とどうこう違いがあるとは何か言葉にはしづらいけれど、変だ。
そして、小さい。
折り紙を四等分にして作っている千羽鶴よりもやや小さい。
なんだろうこれはと眺めていると、声が掛けられた。
「それ、おこられがみだよ。」
少年は屈託なく言った。
私はおよそ、はたから見たら屈託があるように見えるだろう。
それくらい、違和感を感じていた。
「さぁ、それは何だろうね。」
兄も屈託ない様子で、にんまりとこちらを見ていた。
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