第2話 野菜ジュースジャンキー

 その次の日、買い出しに行くからと食べたい物を聞くと。


「野菜ジュースとアワビとローストビーフ」


 どうやら、野菜ジュースだけでいいらし。


「ああああ、野菜ジュースとソーセージだけでいいです」


 何か感づいたらしくしょげてしまった。うむ、わかりの早い居候だ。


 出かけるにしても、今日は雨の予報だ。自転車ではキツイな。


 仕方がない、歩いて行くか。三月ももう終わり。昨日の寒波が噓のように暖かい。

 しかし、雨降らないな。


 カサは面倒だ、置いていこう。適当にカップ麺と安い肉を買いスーパーを出る。


 そうそう、買った、野菜ジュースも買った。


 そこで、お約束の土砂降りである。まだ、三月、濡れるならまだ早い。神様にお祈りでもするか?


 ここで亜利亜が本当の天女なら飛んできてくれるはずだ。そう言えば、亜利亜が何故か持っていた。スマホに電話してみる。


『はい、こちら、和風同盟』


 誰かと間違えているのか?


『わたしだ』

『お前、誰だ?詐欺電話ならお断りだ』

『野菜ジュースがどうなってもいいのか?』

『おおお、友恵か、要件は何だ?』


 などと会話をして亜利亜がカサを届けてくれることに。


***


 明日は始業式で二年生の始まりである。一つだけ謎なのは亜利亜がわたしのクラスに転校にしてくることだ。まだ、クラス発表されて名前一覧表を手にしたばかりで小首を傾げている。


 そして、謎の財力で制服も買って、今、届いた。


 軽く問いただしてみると。


 フリーで日本舞踊の営業で稼いでいたとのこと


  それから何でも亜利亜は法術が使えるとか。わたしはそれも良かろうと深くは詮索しない。大体、昨日五科目の小テストがあってそれを元にクラスが最終的に決まるのだ。

 昨日は一日中、亜利亜はアパートに居たはずだ。天女か……少し羨ましい。


「さて、明日の始業式を前に部活を決めないとな」


 と言って、亜利亜は制服に着替える。基本制服を着ていれば校内の出入りは自由である。亜利亜は校内を案内してと、頼んでくる。渋々、高校に向かう。わたしはアパートに一人暮らしだったので高校まで歩いて数分である。校内に入ると運動部が春休みだと言うのに練習をしている。別棟に吹奏楽部が音出しの練習もしている。


 この高校はスポーツが強く有名だったので選んだのである。しかし、昇降口は鍵がかかっている。仕方がない、体育館の方に向かおう。バスケ部とチアリーダー部が居た。

 

 チアか……。日本舞踊ができるとか言っていたな。亜利亜に合うかもしれない。少し声をかけてみる。


「こんにちは……」

「ああ、何ようだ?」

 

 しっかりしているな。流石部長である。しかし、部員たちは暗く下を向いている。


「わたしは東間だ、要件は?」


 ホント体育会系である。チアリーダー上下関係が厳しいのか。


「少し、見て欲しいものがある」


 亜利亜、日本舞踊を披露するのだ。


「はい」


 扇子を取り出すと亜利亜は流れる様に舞うのであった。バックミュージックも無いのに一同が沈黙するほど綺麗であった。


 東間部長が背筋を伸ばして「師匠と呼ばして下さい」と大声で言う。


 はい?師匠?


「うむ、いい心かげだ」

「はい、師匠」


 この天女は凄いらしいが。いまいち、理解が出来ない。わたしは普通のはずと。自分に言い聞かせるのであった。


***


 始業式も終わり、新しい教室に入る、23ホームがこれから一年間のクラスとなった。新しい担任が挨拶をすると、わたしは席替えを提案する。何故に亜利亜が隣なのだ?それもあるが、勿論、カッコイイ男子の隣に座りたい。


 しかし、その提案は簡単に却下された。


 ま、決まった事をグダグダ言っても仕方がない。大人しく席に座っていると。


「師匠、同じクラスになれて光栄でございます」


 あれ?チアリーダー部の部長の東間だ。凄いな、一年で部長していたのか。


 そこら辺は何やら事情があるらしい。東間も苦労してきているのかと少し同情する。さて、今日はこれで終わりだ。帰るだけなのだか。東間が師匠、師匠とうるさいので、体育館に向かい。チアリーダー部に顔を見せる事にした。


「師匠、来てくれたのですね、是非、日本舞踊を教えて下さい」


 しかし、亜利亜は乗る気でない。


「わたしはフリーで営業しているプロだ」


 要は金が欲しいとな。


 これではチアリーダー部が可愛そうである。わたしはスクールバックから野菜ジュースを取り出す。


「歩合制だ、チアリーダー部に日本舞踊を教えた数だけ野菜ジュースを与えよう」

「むむむ……よかろう」

「よし、契約成立だ」


 今日の分として、亜利亜に野菜ジュースを与えて。亜利亜は何やら基礎を語り始めるのであった。


『壱、弐、参、壱、弐、参』


「あーーー、ダメだ、ギブ」


 日本舞踊を指導する亜利亜は、わたしにも参加を求めていた。基本的に集団行動が苦手なわたしは体育館の隅に行き。


 あーカリカリする。


 わたしはスルメを取り出すと、噛みしめるのであった。


「わたしも疲れたわ、今日のお稽古はこれぐらいで終わりましょう」

「師匠、ありがとうございます」

「うむ、ご苦労様です」


 このエピソードは間違っている。わたしは亜利亜の胸を後ろから揉む。


「うーん、いい感じの柔らかさだ」


 なんだ、この気分は戯言で後ろから亜利亜の胸を揉んだだけなのに。亜利亜と一つになりたい……。


「ハゼ、ハゼ、愛おしいの」


 わたしは惚れてしまったのか?ここはスルメを更に噛みしめる。あー冷静さが戻ってくる。わたしは東間を体育館から連れ出して聞いてみる。


「亜利亜は上級女子なのか?」

「はい、かなりの上級女子です」


 わたしはただの、野菜ジュースジャンキーだと思っていたのに。

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