落下天女

霜花 桔梗

第1話 雪の日に拾った天女

 寒い、三月末の事である。


 その日は都心にも雪が積もり、わたしの住む川崎の街でも真っ白であった。


 わたしの故郷である小笠原の島国には雪は降らないので新鮮な思いがした。


 何故、高校生で一人暮らしかと言うと、町に高校が無かったのだ。


 よーし、近くの公園まで散歩だ。歩く街並みは雪かきをする人、雪に戯れる子供たち。島国にはない思いが出来た。


 公園に着くとわたしが一番乗りらしく。足跡がない。


『一番』と言って、走り込む。


 むむ、何か動いた。


「肉、肉……」


 それはおとぎ話に出てくる天女であった。


「どうしたの、お嬢さん」

「お腹が空いたの」

「それで、肉、肉ともだえているのか?」

「はい、焼肉が食べたいの」


 この天女、雪の中に埋もれているのだ、寒さは関係ないらしい。


「焼肉、一緒に食べる?」

「はい、はい、お願いします」


 わたしは天女に肩を貸し自宅のアパートに向かうのであった。



 アパートに着くと亜井亜はこたつに入いる。


「ぬくぬくだ!」


 ご機嫌な亞利亜はまったりしていた。わたしもコートを脱いでこたつに入る。それは至福の時であった。慣れない雪景色は体の芯まで冷え切った。


「ぬくぬく、焼肉、ぬくぬく、焼肉」


 ホントに素直な亜利亜であった。少し温まったし、仕方がない。わたしはこたつを出て。冷蔵庫から豚肉バラ肉を取り出してフライパンに火を付ける。


 そして、肉を焼き始める。


 わたしが焼肉のたれを入れると……。


 辺りに焼肉のたれの香りが立ち込める。


 さて、完成だ。二つの皿に焼肉を乗せてこたつに運ぶ。それは肉だけのシンプルなモノであった。


「いっただきまーす」


 幸せそうな亜利亜であった。さて、わたしもと食べ始める。


「ところで、野菜ジュースはあるか?」

「一つあるが、それがどうした?」

「おおおお、友よ、是非ともわたしに下さいな」


 わたしが野菜ジュースを与えると。どうやら、食事に野菜ジュースが必要らしい。


 天女なのにえらく庶民的だな。

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