最終話 みんなと一緒


「がっはっは、酒じゃ酒じゃ!」


「今日は飲みまくるぞ!」


 日の暮れ始めたキャンプ場、そこにはいつもの営業日と同じくジョッキを掲げたダルガたちドワーフがいた。


「本当にダルガたちはいつも通りですね」


「そういうソニアもいつも通りだけれどな」


 俺の目の前にいるソニアはアウトドアチェアに座りながらスタンピードによる魔物の料理を食べている。今は従業員も他のみんなと一緒に楽しく飲み食いをしている。


 シセロさんたちのエルフ村のためにスタンピードと戦ってから3日が過ぎた。今日は誰一人大きな怪我をすることなく無事にスタンピードを撃退することができた祝勝会である。


「初めて参加するエルフの方々はいろいろと驚いているようですね」


「その辺りはオブリさんたちが教えてくれそうだな」


 今回の祝勝会にあたって、シセロさんたちのエルフ村で祝勝会をするか話したが、大勢をエルフ村に招待するのは少し難しいのとキャンプ場で待っているみんながいたので、わざわざキャンプ場まで来てもらった。


 みんなが到着するまでに俺はオブリさんたち収納魔法を使えるみんなと一緒にサンドラの背中に乗って一瞬でキャンプ場へと帰ってきた。そして今日まで従業員のみんなと一緒に祝勝会の準備をしていたというわけだ。


 やはり空を飛べるというのは反則だよなあ……ちなみにめちゃくちゃ気持ち良かったから、今度またサンドラにお願いして乗せてもらいたい。


「……それにしてもジルベールの鼻は本当によく効きますね。ちゃっかりと今日の祝勝会にも参加しております。スタンピードの魔物は多少他の魔物と異なっていて、コレクターもいるそうですよ」


「変異種やらスタンピードやら悪趣味なコレクターもいるもんだよな。まあジルベールさんに頼めるのはこちらとしてもありがたいからね」


 相変わらず商業ギルドマスターのジルベールさんはちゃっかりと今回のスタンピードの素材の買い取りをしにキャンプ場へやってきている。まあこちらとしても大量のスタンピードの素材の処分に困るからとても助かった。


 今回のスタンピードの規模はかなり大規模だったらしく、大量の魔物の素材が手に入った。まあ、その大半はこちらの討伐部隊のとんでもない攻撃によってボロボロだったらしいがな。


 とはいえ最後らへんは魔物の肉や素材を確保するために手加減するくらい余裕があったし、多少の肉や素材は確保することができた。肉の方は祝勝会で使用し、素材は討伐部隊とキャンプ場に残ってくれたみんなで均等に分ける。


「それにしてもサンドラとアンネルさんの魔法はとんでもなかったよ。スタンピードの半分くらいはあの2人だけで倒した気もするね」


「ええ。オブリ殿やエルフの方々の魔法もすさまじいものでしたが、やはりあの2人は群を抜いておりましたね。本当に世界は広いものです……」


「本当に2人が味方で良かったよ。それにオブリさんたちの魔法もとんでもなかったからな」


 今回の討伐戦の最大の功労者であるサンドラには今回の祝勝会で余った肉を、アンネルさんにはストアで購入した寝袋を贈呈した。あれだけの働きで数万円の寝袋で良いのか聞いたが、魔物の素材よりも寝袋の方が良かったらしい。


 基本的にキャンプ場の物は売らないと決めていたけれど、さすがにあれだけの働きを見せてくれたアンネルさんにはしっかりとお礼はしないければいけない。アンネルさんは早速渡した寝袋できっかり3日間寝ていて、ちょうどさっき起きたばかりだ。ぐっすりと眠れたようなので何よりである。


 それにオブリさんたちエルフの魔法もとんでもなかったもんなあ。魔力に限りがあるとはいえ、あんな極限魔法とかを魔法による一斉掃射なんかされたら、マジで一国くらい簡単に落とせそうな気もする……


「ユウスケさん、ソニアさん、お疲れさまです」


「ああ、サリアもお疲れさん。あんまり気を遣わずにサリアも楽しんでくれていいからな」


「ええ、とっても楽しませてもらっているので大丈夫です!」


 ソニアとまったり話していると、ケーキとジュースを持ったサリアがやってきた。


 先程からサリアはエリザさんたちや、エルフ村のみんな、サンドラたちがいるあちこちのテーブルを回ってくれていた。相変わらず優しい良い子である。ちなみにスタンピードの討伐戦ではエルフのみんなと一緒に魔法を放ってスタンピードの魔物を倒していた。


 さすがに他の熟練のエルフの魔法よりは劣っていたかもしれないが、前に見せてもらった魔法よりも遥かに強い魔法を撃てるようになっていたし、キャンプ場の火や水も以前より多く確保してできるようになっていたので、これからさらに成長していくことだろう。


「それにしても、皆さんとても楽しそうですね!」


「冷静に考えてみると、本当に様々な種族の者が集まっておりますね」


「言われてみると本当にすごいな」


 ソニアに言われて辺りを見渡してみる。


 向こうにはうまそうにビールや蒸留酒を飲むダルガたちドワーフ、ネコ獣人のアルジャとアルエちゃんに魔物の変異種であるアリエスも一緒だ。その奥ではオブリさんとシセロさんたちエルフ村のみんながワインを飲みながら料理を楽しんでいる。


 あっちではハーフリングのジルベールさんとザールさんたち商業ギルドのみんな、こっちには常連の冒険者のみんなやソニアの元パーティメンバーであるゴートたちや4本腕のウドと青い肌のイド、そっちには第三王女のエリザさんとその護衛のベレーさんと執事のルパートさん。


 奥の方では古代竜のサンドラと吸血鬼のアンネルさんと一緒に犬獣人のランドさんとバーナルさんがものすごい勢いで料理を食べている。


 今更ながら、種族に関係なくこれだけの人たちがこのキャンプ場に集まってくれたものだよ。初めは街の外れにソニアとサリアとたった3人で営業を始めたキャンプ場も今では大勢の従業員とお客さんに囲まれている。


「……3人でこのキャンプ場をオープンした時からもうだいぶ経ったんだよな」


「あのころは人手が足りなくて本当に忙しかったですからね。今ではだいぶ楽になりました」


「それにキャンプ場に来てくれるお客さんもいっぱい増えましたよね!」


「ああ、あの頃に比べたら従業員もお客さんも増えてくれたな。おかげで毎日が充実していているよ」


 ソニアとサリアの言う通り、あの頃に比べたらこのキャンプ場もだいぶ変わったものだ。温泉施設や訓練場などの設備も増やしたし、いろいろなトラブルもあったがみんなで乗り越えてきた。


「さて、それじゃあみんなが酒を飲み過ぎてないか見回って早めに寝るかな。さすがにオープン初日みたいになるのは勘弁だ」


「ちゃんと学習しているようで安心しましたよ。あの日は本当に忙しかったのですからね」


「今思うと懐かしいですね」


「あの時のソニアとサリアには感謝しているよ。明日は休みにしたけれど、明後日からは普通に営業を再開するから頑張らないとな」


 このキャンプ場がオープンした時にはお客さんたちと一緒に酒を飲み過ぎて翌日は完全に二日酔いだったからな……


 さすがにあの過ちは俺や他のみんなに繰り返させるつもりはないぞ。


「それでは私もそろそろ管理棟に戻ります。ここ最近忙しくてろくに漫画が読めませんでしたからね」


「私はもう少し村のみんなと話してきます」


 ソニアの方は本当に相変わらずである。サリアも久しぶりにオブリさんや両親と話せて嬉しいのだろう。


「それじゃあソニアもサリアもおやすみ」


「ええ、おやすみなさい」


「はい、おやすみなさい!」




 明日からもまた忙しくも楽しい日々が待っている。


 最初はソニアとサリアと3人だけで始めたこのキャンプ場だけれど、ありがたいことに今ではたくさんの従業員と一緒に働いて、これだけのお客さんが来てくれている。


 この国の第三王女様やら古代竜やらとんでもないお客さんがまた来るかもしれないし、変異種やスタンピードなどのトラブルがまた転がり込んでくるかもしれない。


 だけど今の俺なら大丈夫だ。最初に異世界へ来た時ならいざ知らず、神様からもらった能力だけでなく、頼りになるみんながいてくれる。そして酒を飲み交わし、うまい飯を一緒に楽しんでくれる仲間も大勢いる。


 神様からチート能力をもらったはいいけれど、異世界へやってきて不安だった俺だが、今では元の世界にいたころの夢であったキャンプ場を作って毎日楽しく過ごすことができているのは本当にありがたいことだ。


 あとはもう一人か二人従業員を雇って、日々の半分くらいはのんびりとキャンプ場のお客さんと一緒に楽しむ生活を楽しんでもいいかもしれない。まあ、ソニアにはまた怠惰だと言われてしまうかもしれないがな。


 俺の理想とするスローライフまでもうあと少しだ。


 さあ、明日からも頑張ってスローライフを目指すとしよう!



 ―終―




――――――――――――――――――

【あとがき】


 こちらの作品はちょうど2年前くらいから書き始めた作品で、投稿サイトであるカクヨムやアルファポリスで初めて高評価をいただけた作品となります。また、初めての書籍化作品としてとても思い入れのある作品です。


 元々キャンプが好きで、異世界とキャンプを合わせようとしたらこのような作品となりました。もしも異世界へ行くことになったら、自分もキャンプをしながらのんびりと過ごしたいものです。


 書き始めてからすぐの作品だったこともありまして、最初に出てきた豚貴族の伏線を回収せずに終わってしまったのは少し失敗でしたね。温泉に現れた貴族のところで豚貴族を出そうと思ったのですが、もう少し後で出そうとしてしまい、結局相手にならないくらいキャンプ場の味方が増えてしまいました(笑)


 新しいキャンプギアやキャラを出したり、個人的にはもっともっとこの作品を書き続けていきたかったのですが、いろいろと事情もありまして、それもなかなか難しいものです。


 こちらの作品はこちらで完結となりますが、数話ほど後日談か番外編を書こうと思っております。また、他のキャンプ作品もございますので、そちらもご覧になっていただけますと幸いです。


 最後になりますが、この作品を最後まで読んでいただきまして、本当にありがとうございました。心からの感謝を皆様に!



【宣伝】

『異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!』アルファポリス 1〜2巻発売中


『アウトドアショップin異世界店 冒険者の始まりの街でオープン!』アース・スター 1巻発売中

https://kakuyomu.jp/works/16817330650158848934


『チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜』書籍化進行中

https://kakuyomu.jp/works/16817330668132495758

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