第285話 戦闘開始

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「村長、来ます!」


「うむ、すでに視界に見えておるわい」


 連絡係のエルフの人から連絡が入り、それを村長かつ今回の戦闘の総指揮者のシセロさんへと伝えるが、実際にもう俺の目には広々とした草原の奥から、一面の様々な色をして動く物体とそれが巻き起こす土煙が見えてきた。


「とんでもない数ですね……」


「一面が魔物で一杯です……」


「うむ。さすがにあの規模のスタンピードはそう起こらないじゃろう。しかも味方がどれだけやられても、一切引くことなく襲ってくるのはさすがにきついわい」


 俺の両隣にはソニアとサリア、そして今回の戦闘の第二指揮者のオブリさんがいる。


 まだ距離があるというのに、その数はまだ視界に収まりきらない。後方からも続々と魔物の群れが続き、もはやひとつの巨大な魔物にまで見えてきた。イノシシ型の巨大な変異種を相手にした時には魔物の大きさは力だと思ったが、魔物の数も立派な力である。


 そして味方がどれだけ倒れても、そのまま怯むことなく向かってくる凶暴化した魔物の群れであるスタンピードは魔力を武器に戦うエルフという種族とはあまり相性が良くないのかもしれない。


「くっくっく、有象無象が集まったところで、妾には傷ひとつ付けることはできんのじゃ!」


「サンドラは張り切り過ぎて私に攻撃を当てないように注意して」


「そうだぞ、サンドラ。みんなで作戦を立てたんだから、ちゃんとみんなと合わせてくれよ。それにアンネルさんの言う通り、こっちに攻撃を当てないように注意してくれよな」


「わ、わかっているのじゃ!」


 そして俺の上空には赤いメイド服を着た古代竜のサンドラと、吸血鬼のアンネルさんがいる。


 ……ちなみにアンネルさんはこれから戦闘ということで、元の大人の姿に戻っている。前回見た時と同様にセクシーでダイナマイト過ぎるスタイルとその際どい格好によって視線が吸い込まれそうになるのを気合で我慢する。


 さすがに今はそんな状況でないことくらい俺にも分かっている。


「よし、偵察部隊も無事に土魔法による砦の中に入ったようじゃ。予定通りもう少しスタンピードを引き付けてから、儂の合図で魔法による一斉攻撃じゃ! 初撃ですべてを終わらせるくらいの気持ちで撃つがよい!」


「「「はい!!」」」


 シセロさんの指示に返事をするエルフのみんな。まずはエルフの魔法による遠距離攻撃だ。


「わ、私も頑張ります!」


「サリアも頑張り過ぎて無理はしなくていいからな。命なんて懸かっていないんだからもっと気楽に行くといいぞ」


「は、はい!」


「何があってもユウスケの結界があれば安心ですからね。逆を言えば、何かあったら責任はすべてユウスケが取ってくれるから大丈夫ですよ」


「初耳なんだけど!?」


 サリアとソニアとそんなやり取りをするのもいつものこと。


 そうだな、俺たちは命なんて懸ける気はこれっぽっちもない。想定外のことが起これば、地下に土魔法で掘った避難用の地下通路を通って逃げるだけさ。


 だけどその方が俺たちらしいじゃないか。前回のとんでもない変異種だって、誰ひとり傷付くことなく乗り切れた。


 さあ、今回も誰ひとり怪我をすることなく完勝といこうぜ!




「……総員、撃てえええええ!」


「ファイヤーストーム!」


「ストーンエッジ!」


「ウインドバレット!」


「アースクエイク!」


 ガガガガガガガッ


 シセロさんの合図によって放たれた魔法に長けたエルフという種族の100名にも及ぶ魔法の一斉攻撃。


 それはもはや一面の絨毯のように前面を覆い尽くす魔物の群れを蹂躙した。


 ある魔物は四肢をもがれ、ある魔物は頭部が失われ、ある魔物はその身体すべてが魔法によって消滅した。


 ……これが魔法による戦闘か。こんなものを使って人同士で戦争をしたらと考えると気分が悪くなってしまう。


「どうじゃ?」


 奥の方まで放たれたとんでもない威力の魔法による攻撃によって舞い上がった土煙が現在の状況を隠す。


「……っく、やはりまだ奥から続々と湧いてきおるか」


 土煙が収まった場所に見えたのは真っ黒に焼け焦げた草原と魔物の血や肉片が飛び散る酷い光景であり、そしてその奥からその光景をものともせずに向かってくる魔物の群れがそこにあった。


 今の魔法による攻撃により、ざっと数百体もの魔物を戦闘不能にしたと思われるのだが、その魔物の屍を何事もないように軽々と踏み越え、先ほどと変わらぬ速度で進行してくる狂気のスタンピード。


 普通の戦いであれば、初撃でこれだけの被害を出せば即時撤退を期待するところだが、スタンピード相手ではそれも期待できないようだ。


「サンドラ、アンネルさん、頼む!」


「任せておくのじゃ! 今ので終わってしまったら、また妾の出番がなくて怒るところであったぞ!」


 そう思うのは心の中でだけにしておいて!


 たぶんサンドラ以外のみんなが今ので終わってほしかったと思っているから!


「さっさと終わらせてのんびりと寝る!」


 アンネルさんはアンネルさんで本当にマイペースだな……

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