第236話 シダープランクと溶岩プレート
「よし、十分に水が染みこんでいるな」
水を張った桶に入れていた複数の木の板を確認すると、十分に水が染みこんでいた。これは昨日から仕込んでいたシダープランクというものだ。
「えっと……これをどうやって使うんですか?」
一緒に料理を手伝ってくれるサリアが疑問を口にする。確かに知らない人へこれを料理に使うと説明したところで、すぐに使い方が分かる人はなかなかいないだろうな。
「これはウッドプランク、あるいはシダープランクといって、この木の板の上に食材を載せて、この板ごと蒸し焼きにするんだ」
「ええっ、板ごと焼いちゃうんですか!?」
そう、このシダープランクは調理器具として使用する。シダーとは針葉樹、プランクとは板の意味があり、合わせて針葉樹の板という意味になる。
使い方は簡単で、水に浸したこのシダープランクの上に食材を載せ、蓋をするかアルミホイルをかぶせた上で火にかけて蒸し焼きにするのだ。木の板が燃えてしまわないのかとも思うが、しっかりと水を浸していれば燃えることがないらしい。
らしいというのは実際に俺もこれを使うのは初めてだからだ。直接火にかけるわけだから、当然一度使えば木の板は真っ黒になる。繰り返し使える他のキャンプギアとは違って1回でなくなってしまうのは勿体ないなあと思って、元の世界ではやってみたことがなかったんだよね。とはいえ今はお金に余裕があるし、迷わずストアで購入して試すことができるわけだ。
「木ごと焼いて蒸し焼きにすることで、この木が燃えることによって出る木の香りが食材についてくれるらしいんだ。燻製料理と少し似ているといえば似ているかな」
「なるほど、面白そうですね!」
サリアに火を起こしてもらっている間に食材を載せてアルミホイルで蓋をしていく。アルミホイルは木の板の底まで覆わないように注意する必要がある。載せる食材はヴィオの街で購入してきた魚をソニアの収納魔法から出してもらった。
さて、この料理はしばらくの間火にかける必要があるから、その間にもうひとつの料理の準備をするとしよう。
「今日のお昼はバーベキューですか?」
「ああ。だけど今回はちょとだけいつもと違うんだよ」
ソニアからの質問に答える。昼食の準備ができたので、みんなを集めた。
「まずはさっき焼いていたシダープランクのほうの料理を試してみよう」
「これはいい香りですね」
「ブルルル」
アルミホイルの蓋を外すと針葉樹の木の香りが一気に広がり、それにアルジャとアリエスが反応する。
うん、どうやらいい焼き加減みたいだ。ちゃんとシダープランクが残っている。あんまり焼きすぎてしまうと木の板が真っ黒こげになって、食材も焦げ付いてしまうらしいからな。
「せっかくなら木の香りを味わえるように味付けは少しにしてあるんだけどどうだろうな」
今回用意した食材は3つだ。ひとつ目はヴィオの街で購入したスライプサーモンの切り身に軽く塩コショウを振り、ローズマリーとスライスしたレモンを載せてみた。
ふたつ目はヴィオの街で購入してきたリッキム貝だ。貝の殻から剥いた状態で木の板の上にのせる。こちらはシンプルに塩を少しかけただけになる。
最後は骨がついたままのスペアリブだ。アウトドアスパイスで下味をつけたスペアリブの上にスライスしたニンニクを載せてある。
「うわあ、お魚に木の香りがあわさっておいしいですね! 脂の乗っているスライプサーモンの身がとってジューシーです!」
「こっちの貝もおいしさがいっぱい詰まっていておいしいニャ!」
「こちらのお肉もとてもおいしいです! 確かに木の香りが十分に感じられるので、燻製に近い感じかもしれませんね」
イド、アルエちゃん、ソニアがそれぞれの料理を試すが、どれもうまくいったらしいな。そもそも燻製とか蒸し焼き料理って失敗しにくい料理だからね。
「うん、どれも本当にうまいな。それでユウスケ、このコンロの上に載っている黒い石はなんなんだ?」
ウドが指差す先にはコンロの上に載っている黒い石がある。そう、これが今日のもうひとつの料理だ。まあ、料理とはいっても、この石の上で焼くだけなんだけどな。
「これは溶岩プレートという特別な石だ。この上で肉を焼くと普通に焼くよりもうまくなるらしいから、前からちょっと試してみたかったんだ」
溶岩プレートとはその名の通り、溶岩を加工したプレートとなる。溶岩は遠赤外線効果が非常に高く、表面はこんがりと焼けて中は柔らかくふっくらジューシーに焼き上げることができる。
また、プレートの表面には溶岩が固まる際に細かな気泡によってできた小さな穴が無数に空いている。肉を焼いた際に、余分な脂がその穴に入っていくので、脂っぽくならないという利点や、調理中に煙が出ないなんて利点もある。
しかし、溶岩プレートは高価なのと重くて持ち運びが不便という欠点もあったりする。まあ、お金とストアの能力がある今の俺には問題ない。
「そうですね、普通に焼くよりもおいしいかもしれません……?」
「いつものと同じくらいおいしいニャ!」
「……うん、正直俺もそこまで違いが分からないかもな」
まあこっちの方はそこまで味の違いが分からないかもしれないな。とはいえ見栄えはいいし、元の世界だったらばえること間違いなしである。
キャンプ飯はおいしさだけでなく、見た目も非常に大事なのである。それにこういった一手間の積み重ねが料理をおいしていくものなのだ。
さあ、明後日からはこのキャンプ場も通常営業に戻るし、頑張るとしよう!
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