第197話 馬車


「おお、実物を見るとだいぶ大きいな」


 ダルガとセオドさんについていくとそこには立派な馬車があった。簡単な設計図は事前に見せてもらっていたが、10人が乗れる馬車というものは実際に見るとかなり大きい。


 外見は俺の注文通り、車輪以外は木で作られたそれほど目立たない馬車に見える。


「まずはアリエスの身体に馬車を引く金具を付けてみるぞ」


「ブルルル!」


 まずは馬車を引くアリエスに馬車を固定するための金具が装着できるかを確認する。馬車から伸びた棒から、アリエスの肩と胴体へ荷重を分散できるように左右2か所ずつの金具が固定される。


「ブルル」


「そのまま前に進んでみてくれ」


「アリエス、こっちに来られるか?」


 アリエスの目で見て分かるように手を招いてアリエスを呼ぶ動作を見せると、馬車を引きながらアリエスがゆっくりと俺のほうに進んできた。誰も乗っていない馬車だが、問題なく前へと進んでいく。


「ふむ、若干金具のほうにも調整がいるようだ。ユウスケ殿、アリエスを止めてくれ」


「はい、セオドさん。アリエス、ストップだ」


「ブルル」


 両手を目の前に出し、アリエスに止まってほしいという合図を出す。本当はアリエスは俺達の言葉を理解しているが、キャンプ場の従業員以外には秘密にしておきたいからな。


「おお~よしよし、賢い子だな。金具を調整するから、少しの間そのままじっとしておれよ」


「ブルルル」


「金具の調整はセオドに任せて、次は内装を見てもらうとしよう。ほれ、こっちに来てくれ」


 馬車とアリエスを繋ぐ金具の調整をセオドさんに任せて、ダルガと一緒に馬車の後ろにあるドアから馬車の中へと入る。


 馬車には横の壁や天井のないシンプルな馬車もあるが、雨に降られる可能性もあるため、この馬車は横の壁と天井を作ってもらった。


「これは素晴らしいですね!」


「とっても綺麗だニャ!」


 ソニアとアルエちゃんの言う通り、この馬車の内装はとても綺麗なものであった。


 外見は木でできているように見えたが、中は真っ白に塗装されており、天井も思ったよりも高い。馬車の左右には柔らかそうな長いソファがある。


「外見は木製だが、実際には非常に軽くて丈夫な金属でできておって、弓矢や槍などは一切通さん。それに加えて魔法にも耐性のある金属じゃから、よっぼどの魔法でなければ、外装の木の部分以外はビクともせんはずだ」


「お、おう……」


 この馬車の外装の下は特別丈夫な金属製である。ダルガが言うには、弓矢や槍などの物理的な斬撃や衝撃に非常に強く、魔法耐性もある丈夫な金属らしい。


 さすがにファンタジーで出てくるミスリルとかオリハルコンなどの伝説級の金属ではないが、それでもかなり高価な素材だ。ぶっちゃけ、今回頼んだ馬車の金額のほとんどがこの素材の代金となる。


「この椅子もふかふかだニャ!」


「どれどれ……お、本当だ。これなら身体もそれほど痛くはならないだろうな」


 以前商業ギルドで乗せてもらった馬車の椅子は木製であった。というよりこの世界の馬車の椅子はそのほとんどが木製でできている。


 この世界の柔らかいソファは魔物の羽毛でひとつひとつが手作りで作られているため、結構なお値段がする。貴族や大きな商店などの馬車でもなければ、馬車の椅子は固い木製だ。


「それに加えてユウスケの故郷のサスペンションの技術も取り入れておるから、馬車が走る際の衝撃はほとんどないだろう。いやあ、相変わらずユウスケの故郷は凄まじいわい。料理だけでなく馬車の技術までここまでとはな」


「魔法はまったくだけど、そういった技術はだいぶ進んでいるかもしれないな」


 さすがに元の世界の最新の情報までとはいかないが、こちらの世界の一歩先の技術であるバネを使ったサスペンション機能の概要を教えておいた。


 この短い期間でその技術を再現しているのだから、やはり大親方達の技術は本当にすごいものだ。


「重量はだいぶ軽く作っておるが、あとで大人数で乗っても大丈夫かどうかは確かめておいたほうがいいだろうな」


「そうだな。あとで実際にアリエスが馬車を引けるかどうかは確認しておかないといけないな」


 想定では10人ほどが乗ったまま、アリエスが馬車を引くことができる計算ではあるが、あとで実際にみんなが乗って引っ張れるかを確認してみるとしよう。


「馬車の中から開けられる窓もいくつかあるから、盗賊や魔物たちに囲まれても、こちらから有利に攻撃ができるぞ」


 日本の城にある狭間さまみたいなものだな。馬車の内側から上下に窓を開けられるので、窓から弓矢や魔法を放つことができる。向こうが攻撃してきたら窓を閉めればいいだけだ。


「……まるで小型の要塞ですね。馬車の中に戦闘が可能なものがいれば、さすがにこの馬車を落とすのは一苦労ですよ」


「そうじゃろう、そうじゃろう!」


 ソニアに褒められてダルガも嬉しそうである。


「じゃが、普段はそれほど戦闘が可能な従業員は乗っておらんのじゃろ。それについてもいろいろと考えておる」


 確かに普段は御者であるアルジャだけしかいない。だけどアルジャも元Bランクの冒険者だし、よっぽどのことがなければ魔物や盗賊を退けられると思うんだがな。


「実はオブリ殿に頼んでいくつかの魔道具を馬車に仕込んでおる」


「おい、ちょっと待て! その話はきいていないぞ!」

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