第172話【間話】とあるハーフリングの1日②


「ようこそイーストビレッジキャンプ場へ! ジルベールさん、ルフレさん、いらっしゃいませ!」


「サリアさん、またお世話になります」


「やっほ〜サリアちゃん。今日もそのメイド服が似合っていて可愛いね!」


「ありがとうございます。今日はお泊まりですか?」


「うん、2人1泊でお願いするね」


「かしこまりました。それではこちらにどうぞ」


 ……サリアちゃんもだいぶ仕事に慣れてきたなあ。最初の頃は可愛いって褒めてあげたら、恥ずかしがって良い反応をしてくれたのにね。


 おっと、あんまり変なことを言うとセクハラになっちゃうか。こんなの街の酒場じゃよくあるけれど、ユウスケくんはそのあたりに厳しいから気をつけないといけないんだよね。




「それではこちらにメニューを置いておきますね。テントと寝袋はすぐに別の者が持ってきますので」


「はいは〜い。いつもありがとうね」


「サリアさん、ありがとうございます」


「それではごゆっくりどうぞ!」


 サリアちゃんと一緒にいつもの場所にイスとテーブルを持ってきて組み立てた。テントや寝袋は大きくて僕達だと持てないから、あとで別の従業員が持ってきてくれるみたいだ。


「今日は何にしようかなあ」


「いつものカレーも美味しいですが、たまには別のものを食べてもいいですね」


「う〜ん、でもここに来たら一回はカレーを食べたくなるんだよねえ。あんな色をしているのに、なんであんなに美味しくてあとを引く味なのか、本当に理解できないよ!」


「ギルドマスターは本当にカレーを気に入ってますね。それじゃあいつも通り、昼はカレーにして、夜はお酒と他の料理をいただきますか?」


「そうだね、そうしようか」


「お待たせしました、テントと寝袋をお持ちしました」


「ウドさん、ありがとうございます」


「ウド、ありがとうね! いつもみたいにテントを建てるのを手伝ってもらっていいかな?」


「ああ、もちろんだ」


 4本腕を持つ亜人のウド。街で亜人が働いていることは少ないけれど、このキャンプ場では普通に従業員として働いている。


 僕もハーフリングだから分かるけれど、人族は能力とかを見ずに、外見で差別するようなことも多いんだよね。僕達からしたら本当に馬鹿な考え方だよ。あの4本の腕だって、僕からしたら便利そうで羨ましい限りだね。


「いつも悪いね。僕の身長だと、テントを建てるのも一苦労なんだよ」


「気にする必要はない。俺も頼られるのは少し嬉しい」


 ウドも最初の頃はあんまり喋らなかったけれど、最近では向こうから話しかけてくるくらい、よく喋るようになったね。ウドは真面目で良い青年だし、商業ギルドでも働いてほしいくらいだよ。


「それじゃあ注文もお願いするね。カレーライスとミルクをふたつずつ、それとサラダと燻製たまごと燻製ベーコンをひとつずつお願い」


「カレーライスとミルクをふたつずつ、サラダ、燻製たまご、燻製ベーコンだな。かしこまりました」




「お待たせしました。ご注文の品をお持ちしました」


「アルジャさん、ありがとうございます」


 注文をしてからすぐにネコの獣人のアルジャが両手にたくさんの注文した料理や飲み物を持ってきてくれた。


 ……それにしてもアルジャはここの格好いい服がよく似合っていて羨ましいよ。


「いやあ良い香りだね。それにここは注文してから本当にすぐに料理が出てくれるから助かるよ。ここに来るまでにお腹はいつもペコペコだからさ!」


「ありがとうございます。燻製料理やサラダはあらかじめ用意しておりますから。それにカレーライスも温めるだけですので。それではごゆっくりどうぞ」


「うん、ありがとうね!」


 アルジャはそういうと管理棟へと戻っていった。


「それじゃあいただこうか」


「ええ、いただきましょう」


 早速スプーンで茶色いカレーと白い穀物をすくう。口の中に入れると何種類もの複雑な香辛料の味が口いっぱいに広がって、食欲を刺激する。


 このカレーだけだと明らかに辛いけれど、この味の薄くて少しだけ甘味のあるライスと合わせるとちょうど良い塩梅になるんだよね。それからしばらくすると口の中が少し辛くなってくるけれど、その辛さがあとを引いて、またもう一口と食べたくなってしまう不思議な味わいだ。


「やっぱりカレーライスは少し辛いけれど美味しいね!」


「ええ。不思議と1〜2週間に一度は食べたくなる不思議な味ですよね」


 カレーライスと一緒にサラダや燻製料理を食べていく。サラダは上に掛かっているドレッシングという液体が美味しいし、燻製料理の独特の香りもたまらなく美味しい。おっと、こっちはあとで少しずつつまむ予定だったんだ。お腹も膨れたし、あとは漫画を読んでゆっくり過ごすとしよう。




「ユウスケくん、今大丈夫?」


「ジルベールさん、いらっしゃい。ええ、今は落ち着いているんで大丈夫ですよ。なにかありました?」


「大したことじゃないんだけどさ、前におすすめしてもらった漫画を読み終わったから、新しいおすすめの漫画を教えてよ」


「ええ、もちろんいいですよ。……ってかもう読み終わったんですね。この前おすすめした漫画も30巻近くあったのに」


「うん、この漫画もとても面白かったよ! 魔法じゃなくて錬金術っていう不思議な力のある世界って発想がすごく面白かったよ!」


「なるほど。バトルものもいいけれど、ジルベールさんには頭脳バトルものもありかもしれませんね。となるとあれか、それともこっちか……」


「ジルベール、こちらの漫画はもう読みましたか?」


「おわっ、ソニア!? いきなり出てくるなよ、ビックリするだろ」


 ユウスケくんと管理棟にある本棚の前で話していると、いきなりソニアが現れた。僕もちょっとビックリしたよ。


「こっちの漫画はソニアのおすすめなの?」


「ええ。いろんな能力を持った人間が戦うのですが、熱い戦いだけでなく、仲間との絆に出会いや別れが鮮明に描かれていておすすめですよ!」


「……ソニアがそこまで熱心にすすめてくれるなんてよっぽどなんだね。ユウスケくんはどう思う?」


「ああ、確かに人気はすごくあるし、本当に面白いからおすすめできるよ。唯一の欠点はまだ完結していないから、次の巻が出るまで悶々と待たないといけないことかな」


「ユウスケ、それは言っては駄目です! 私のように次の巻を待つ同志を作ろうとしたのに!」


「鬼か!? まあ、そのことを伝えずに最初にその漫画を見せたのは悪かったとは思っているよ……」


「なるほどね。それじゃあ今回はユウスケくんのおすすめしてくれたほうにするかな」


「………………」


「ソニア、悪かったってば!」


 ……まったくユウスケくんもソニアも本当に呑気だねえ。こんなに面白い漫画というものが存在すると分かれば、暇な貴族達はいくらでも群がってきそうなのに。


 ユウスケくんがどうやってこの漫画というものを新しく手に入れているのかはとても気になるところだけれど、それについて言及する気はないよ。


 僕にとってはお金を儲ける仕事なんかよりも、休日をどう過ごすかのほうが大事だからね! さあ、ユウスケくんのおすすめの漫画を読んで、晩ご飯は何を食べるかをのんびりと考えるとするかな!

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