山神様への嫁入り
みぃか
第1話 嫁入り
「俺が怖いか?」
「………い、いえ……。」
「……本当に?」
「…う、嘘ではない……です……はい。」
「なら、なぜ逃げる?」
「………いや、ちょっと…………ごにょごにょ………。」
「………正直に言え。怒りはしない。」
「…ほ、本当に?ほんとーーーに、怒りませんか?」
「あぁ、怒らない。」
「………本当に?」
「しつこい!怒らんって言ったら怒らん!」
「………ぃ……に……む……。」
「はっ?聞こえん!!ハッキリ言え!」
「だから、生理的に無理!怖いんじゃなくて気持ち悪いの!!」
「……ハッキリ言い過ぎじゃないか?」
私は数年前に両親を亡くし、妹と2人で貧しいけどなんとか生活してきた。ここは山の中で他の村とも全く行き来がなく、少しばかりの畑を耕して細々と暮らしてきた。村民30人ほどの小さな小さな村だ。
昔は、沢山の村人がいたらしく山の中なのにかなり広い開けた場所に村がある。
隣の村までは歩いて10日はかかると言われていて、迷った人が来る事もなければ、この村から出た人もいない。
私は、妹と2人で毎日畑の世話をしたり、他の家の手伝いをして米をわけてもらったりして生活していた。
このまま村で妹と2人、ずっと暮らしていけると思っていた。
ある日爺様が私1人の時に家にやってきた。
「おぉ桃、元気にしとっか?」
「はい。」
「そうかそうか。妹の小梅は?ごんの所で子守か?」
「稲刈りの間、ややを見てほしいって頼まれて出て行った。」
「そうか………、桃、実はな、明後日が山神様への嫁入りの日なんじゃ。」
「……そうですね。」
「うむ、それでな、今年は百年に一度の特別な嫁入りの日なんじゃ。」
「特別?……いつものように食べ物をお供えに行くんじゃないの?」
「うむ、この村の守り神でいらっしゃる山神様に毎年同じ日に食べ物や着物を持って行くのが、いつもの嫁入り。百年に一度、本当に嫁を山神様に捧げるという大切な大切な日が明後日なんじゃ。」
嫌な予感しかない!嫁って事は年頃の娘って事で、年頃の娘だと私と妹の2人だけだ。他の女の子は産まれたばかりの赤ん坊や、やっとよちよち歩けるようになった子、他は村の中で嫁に行った人しかいない。
「桃、幾つになった?」
「………15歳。」
「うむ、そうじゃな。……それでな、ありがたくも山神様の嫁に行く事が決まった。」
「……嫌です。」
「………嫁を連れて行かねば、この村は消えてしまうと言い伝えられている。他におらんのじゃ。」
「……小梅は?小梅はどうするの?13歳で1人ぼっちになる。」
「それは安心してくれ。桃が山神様の嫁になってくれるなら、わしの家で大切に育てる。約束する。」
「……本当に山神様っているの?」
「わしも言い伝えを聞いただけじゃが、百年前の嫁様が嫁いだ次の日、嫁様の家族が心配で見にいったらしいのじゃ。嫁様が居た場所には何もなく、その辺りを必死に探したが何も見つからなかったそうじゃよ。さらに百年前、嫁入りを嫌がり逃げ出したら、山神様の怒りで村に嵐が吹き荒れ、雷が次々に落ち家は焼けて大変な事になったそうじゃ。嫁様が村を見て、急いで山神様の元に戻ると嵐はピタッとおさまったと言われている。」
「………でも……。」
「すまない桃。お前しかおらんのじゃ。小梅は必ずわしが大切に育てる。小梅の為にも、村の為にも山神様の嫁様になってくれ。」
深々と頭を下げる爺様。
他には年頃の娘がいないし、親もいない。確かに他に嫁入りする人がいない。私だってそれくらいわかる。
でも、私だって怖い。本当にいるのかわからない山神様に嫁ぐ事も、嫁入りと言ってるけど、もしかしたら食われるのかもしれない。嫁入りじゃなくて生け贄だ。
「爺様、もし山神様がいなくて待っても何も来なかったら村に戻って来てもいい?」
「……うむ、もちろんじゃ。わしらも、桃が憎い訳じゃない。出来れば誰も嫁になんぞやりたくないんじゃよ。」
「わかった。嫁入りするよ。」
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