エピローグ

 この事件をきっかけに、結愛の束縛は激しくなっていった。

 『異性と話してはいけない』なら仕方がないなと思えたが、同性と話していても怒る始末。嫉妬なのだと喜ぶことが出来たなら、もっと楽観的にいられただろう。

 電話はすぐに出ないとヒステリーを起こすし、メッセージの返信はすぐにしないと催促がくるようになった。

 それにも関わらず、結愛は相変わらず異性に媚びを売る。


 理不尽だなと思いながらも同じことをしなかったのは、彼女の境遇を考えたから。


 家に居場所のない結愛。

 そんな彼女を束縛すれば、寂しい想いをするに違い。

 しかし優人のそんな気持ちは、結愛に伝わることはなかった。

 そんな彼女の言動は日に日にエスカレートしていく。

 クリスマスは直前だというのに、限界を感じ始めていた。


 たった一か月程度で人も関係も変わってしまう。

 優人は苦悩していた。


──このままでは、良くない。

 大学へ行けば、環境は変わる。

 就職したら就業中は相手なんてできない。


 自分がちょっとでもいないだけでヒステリーを起こすほど不安になるのは、正常とは言えない。

 ちょっとでも他の人と関わっただけで、精神が不安定になるなんて良くない。


 少しでも快方に向かうだろうと思い、辞めたSNS。

 しかし彼女の反応は良いものとは言い難かった。

「なあんで辞めちゃうの? 結愛、優人の日記楽しみにしてたのに。どうして結愛から取り上げるの?!」

 優人は泣きじゃくる彼女を抱きしめながら、切ない気持ちになる。

 どうして上手くいかないのだろう?

「結愛とだけ関わっていればいいだろ?」

 どうすれば彼女を安心させてあげられたのだろう?

 自分は無力だなと思った。


 自分と付き合うよりも、もっと大人で安心させてあげられる相手の方がいいのではないか?

 そう思うまでに、時間はかからなかった。

 彼女の気持ちを無視し、一人で下した決断。


 クリスマスイブの夜、優人は意を決して問いかける。

「結愛、俺のこと好き?」

 それは最後の希望。

 もし、好きと言ってくれるならもう少し頑張ってみよう。

 クリスマスの奇跡に縋るような、たった一つの願い。

 

──君は、俺を何だと思っているの?

 ただの愛を与える道具?


 返事をすることのない彼女に、優人の心は限界に達した。

「ごめんね。さよなら、結愛」

 返事も聞かず切った通話。

 そのままメッセージアプリをブロックし、バイト先を辞めたのである。


 それから半年間、彼女と会うことはなかった。


**


 世界で一番愛しい君に振り回されてきたけれど。

 それでも良いと思えたのは、君が好きだったから。

 君を安心させてくれる人の傍で、どうか幸せになって欲しい。


    ────『世界で一番愛しい君に』

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