1 『恋愛の理想と現実』
『クリスマスは一緒にいようね』
小さな約束。守れなかった約束。
簡単なことが、どうしてこんなに自分たちには難しいのだろう。
「優人」
彼女に出逢ったのはバイト先だった。
付き合うまでに、そう時間はかからなかったと思う。
男性には人気があるものの、女性からは嫌がらせを受ける彼女の名を
「ん?」
三兄弟の末っ子で姉と兄に可愛がられていた優人は、自然と人付き合いが得意でバイト先の同僚とは老若男女関係なく仲良くなってしまう。
結愛にとってそれは不安要素の一つだったのか。
それは高校三年の秋のこと。
その日も結愛があがるのを待っていた優人は、同僚たちとお喋りをしていた。ふくれっ面の彼女の姿を視界に入れた優人は、肩を竦める。
「お疲れ」
労いの言葉をかけ、近寄ればむぎゅッと胸の中に納まった。
いつでも生意気で、独占欲の強い彼女のこんなところを、優人は可愛いと思ってる。
惹かれたきっかけは、彼女がその性格とは不釣り合いなほど愛に溢れた詩を書いていることを知ったから。
彼女書く詩は温かくて愛があって、切ない。
きっととても好きな相手がいて、その彼に放っておかれているのだろうと感じていた。
いつしか自分が彼女を幸せにしてあげたいと思い始めていたのだ。
結愛に出会う前、優人には喧嘩別れをしてしまった同級生の彼女がいた。
塾で出会った他校の生徒で受験生だったこともあり、デートは塾の帰り道程度。優しくて可愛らしくて、ちょっと頑固。
居心地の良い相手ではあったが、彼女の両親が不仲となり、不安からか愚痴が多くなった。
優人は家族仲のよい環境にいて、受験生と言うこともあったため、それを受け止めることが出来なかった。
推薦で行き先が決まったころ、心に余裕ができ、彼女に悪いことをしてしまったと思ったが後の祭り。
消してしまった連絡先。彼女は塾をやめてしまっていた。
当然、連絡先を教えることはできないと塾の講師に言われ、気晴らしにバイトを始めたのだ。
結愛との出会いがその彼女とのことに、ケジメをつけるきっかけになったと言えるだろう。
「なんでいつも女と一緒なの?」
バイト先の裏口から出ると、さっそく結愛の不満が爆発する。
「なんでって、バイト先の人たちだろ?」
手を繋ぎながら駅に向かうのが恒例だ。
「優人はさ、女にも男にも愛想良すぎなの!」
「そんなことを言われてもねえ」
『結愛だって男友達にはニコニコしてるじゃないか』と言いそうになって、優人はやめる。ヤキモチ妬きだなんて思われたくなかった。
わがままな彼女を優しく包んであげられる恋人でいたいと思っていたから。
そう優人も初めは自制して大人でいたのだ。
なにが間違って、こうなってしまったのか。今となっては分からない。
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