8 『別れと現実と』
翌日。
手紙をくれた彼女に会うと、案の定”やり直したい”と言う話であった。
「無理だと思う」
それ以上、言えることがない。
「嫌なところ、直すから」
彼女が頑張ってくれていることは分かっている。
努力家で美人だし、性格だって可愛らしいと思う。
だが叶わなかった想いを今更、消化することはできない。きっと二人は好きになるタイミングがずれていたのだろう。
ちゃんとこちらを見て欲しい時にそっぽを向いていた彼女。
我慢して、結局諦めてしまった自分。
消えてしまった火はもう、着くことはない。
「ごめん」
謝る以外に何が出来るというのか。
「じゃあ、友達としてなら?」
彼女の言葉に驚いて顔を上げる優人。
そんなことをしたら、また平田に小言を言われるのだろう。それでも、罪悪感を拭うには、ここで頷くしかないのだ。
「うん。いいよ」
どんなにバカだと言われようが。
『呼べば来る、便利な男』
平田に言われた言葉が脳裏を過る。
自分にあるのは彼のいう通り、間違った優しさなのだろう。
「やっぱり、あの子のことが好きなの?」
彼女には捨て台詞を吐いたことがある。
『元カノなら、傍にいてくれたのに』と。
それは言ってはいけないことくらい分かってた。あの時は言ってダメなことを言ってしまうくらい寂しさを感じ、追い詰められていたのだ。
彼女はその時、
『他の子と比べないで!』
と
「どうかな」
彼女に酷いことを言ってしまったことを思い出した優人は、曖昧な返事をする。
やっと連絡を絶ったというのに未だに引きづっていて、それどころか再び振り回されていることを知られたら、なんと言われるかわからない。
「ごめん、電話だ」
タイミング悪く、尻のポケットに入れていたスマホがぶるっと震えた。取り出して画面を見ると、これまたタイミングの悪い相手。
「急用で送っていけないけれど、大丈夫か?」
と言う優人の問いに、
「バイト先?」
と首を傾げる彼女。
嘘をつくのは嫌だったが、背に腹は代えられない。曖昧に頷くと一歩後づさる。早く出ないと煩いんだよなと思いながら踵を返す彼女を見送って、スマホの画面の通話を押す。
「なんだよ。今日は忙しいって言っただろう?」
意味がないと知りながら、通話口に手を当て小声で相手に抗議する、優人。
『なによ! 結愛、まだ何も言ってないじゃない』
「そのままずっと、黙ってていいから!」
すると、むくれる通話の相手。
優人は笑顔を張り付けて、こちらを振り返った彼女に軽く手を振る。
『どうせ、女と一緒にいるんでしょ? 優人はいつもそうだもんね!』
「勝手に決めんなよ」
大当たりだなと思いながらも、反論した。
『こんな男の何処が良いの?』
ムッとしながらそう口にする相手に、”お前が言うか?!”と思いつつ、
「さてねえ」
と誤魔化したのだった。
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