4 『君の中に自分がいたなら』
「あーあ。連れてきちゃって」
玄関を開けると、平田が壁に背を預け腕組みをしていた。
部屋からはWAITが流れてる。透き通るような、爽やかな音楽には不釣り合いな嫌味を彼に言われ、優人は斜めに視線を送る。”なんか文句あるのか?”と言うように。
しかし、結愛は、
「優人の彼氏? 優人の元カノの結愛です、よろしくね!」
とニコッと笑う。
「おい。こいつは、ただの友人だ」
と優人は本気で嫌な顔をする。
誰彼構わず愛想を振りまきやがってと思っていると、平田が一瞬驚いた顔をした。
彼が何に驚いたのか、優人にはわからなかったが、
「ふーん、そっか」
と悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「結愛ちゃん、俺と付き合わない?」
と言い始める。
──は? ふざけんな!
何か一言、いってやろうとすると、
「うーん。彼氏と別れたらね」
と結愛が笑う。
──んだよ……それ。
優人は、拳を握りしめ怒鳴りたいのを我慢すると、
「ああ、そうかよ。じゃあ、二人でよろしくやってろよ、クソが」
と吐き捨て、靴を脱いでリビングへ。
「おい! 優人。冗談だって」
と平田。
「優人、冗談通じないから」
と結愛。
彼女の寂しそうな声音に、胸が痛んだ。
**
定位置から外を眺めつつ、Nobody's Loveを口づさむ。
結愛は先ほどから、 傍でマグカップを両手で抱えこちらを見降ろしている。板張りのリビング。カフェにありそうなホワイトウッドの丸テーブルでは、そんな二人を平田が頬杖をついて見つめていた。
先に口を開いたのは、平田。
「結愛ちゃんさ、座ったら?」
「いい。優人、怒ってるし」
”なんだよ、俺のせいかよ”と思いながら彼女に視線を移すと、口を真一文字に結んでじっとこちらを見ていた。
今にも泣き出しそうな顔で。
──泣きたいのは、こっちなのに。
「俺のこと、好き?」
無意識に、口をついて出た言葉。平田が息を呑んだのが分かった。
言ってしまってから後悔する。付き合っていた時でさえ、まともに返事を貰ったことがないのに。
『うん、みんな好きだよ』
みんな?
特別な好きが欲しかったのに。
その為に努力したつもりだったのに。
違う。
行動に不安を感じで、言葉を求めたのは自分。
彼女は、あの時確かに自分のことを好いていてくれたはずだ。
「あ、いや。人として?」
と慌てて取り繕ろうとする優人。
言葉を遮るように、
「好きだよ」
とはっきりと言葉にする彼女。
優人は落胆した。
──自分の求める好きは、君の中には存在しない。
出口も答えも要らないと思っていた、いつか昇華されれば。
しかしその機会さえ失ってしまった自分には、ただ闇が拡がっているだけで何処へ行くことも叶わないのかもしれないと優人は思うのだった。
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