おかしなオカルト研究部~二宮金次郎の像が動き出す!?~
おとさらおろち
第1話 二宮金次郎のオカルト!?
古い店と新しい店が混ざった商店街を抜けた先には、すぐに
(友達、たくさんできるといいな……)
期待の中にも、マイには大きな不安があった。
(きっと自己紹介することになるんだろうなぁ)
初対面の人と話したり、人前で話したりするのが、大の苦手なのだ。
人前で話すことを考えるだけで緊張して、昨夜はなかなか寝つくことができなかった。
期待と不安を胸に、切り株に腰をかけて本を読む二宮金次郎の横を通りすぎようとしたその時、校舎が「ミシミシ」という音をたてた。
「ゆ、揺れてる!?」
地震だ。かなり大きい。
転ばないように、足に力を入れてふんばっているので精いっぱいだ。その時!
「危ないっ!」
誰かに腕をつかまれて、強く引っ張られた。
「わっ!」
思わず引っ張られた方に倒れてしまった。
ドーン!
自分が転んでしまったのにも驚いたが、それ以上に、自分の近くの大きな音にびっくりした。
土ぼこりがおおいかぶさってくる。
「な、なんだったの!?」
顔をあげると、先ほどまでマイの横にあった、二宮金次郎の像が、台座だけ残してなくなっている。
そして、二宮金次郎の像はというと、マイの足元に、切り株にお尻がくっついたパーツと、手に持った本に目を落としているパーツの二つに割れて、横たわっている。
「だいじょうぶだった?」
見ると、手を引っ張ってくれた女の子が心配そうにマイを見ている。
吊り目で少し怖い印象のセミロングの女の子は、制服の赤いリボンの色から、マイと同じ新一年生だと分かった。
「あ、えーと、その、あ、ありが……」
お礼を言おうとしたが、あまりのことに驚いてしまっていることと、初対面の人と話すのが苦手なこともあいまって、うまく言葉が出てこない。
「立てる?」
女の子は、マイに手を差し伸べてくれている。
マイは、その手をつかんで、立ち上がらせてもらった。
「わたし、
「うん、あ、わたしは、渡島マイです」
なんとか、自分の名前だけは言うことができた。
「ほんとうにびっくりしたよね」
マイとリンは、あらためて、倒れた二宮金次郎の像を見る。
腰の部分から体が二つに割れているのは、痛々しい。お尻に切り株がくっついているだけのパーツは、いびつだ。でも、上半身のパーツは、本を手からはなさず、いまにも書いてある文字を声に出して読みだしそうな気がした。
(もし、石狩さんに引っ張ってもらわなかったら、ぶつかってたよね……)
そう考えると、ぞっとする。大けがをしていたかもしれない。
「でも、残念……」
ふとマイが言うと、リンが不思議そうにマイの顔を見る。
「あ、えっと、校門の前を通るたびに、この二宮金次郎の像が見えてたから」
マイはあわてて言った。
「そうだね。富詩木中学校のシンボルみたいな存在だったから、残念だよね」
しばらく、マイとリンは、倒れた二宮金次郎の像を見つめていた。
すると、後ろから、
「ふっふっふ、興味あるのね?」
不敵な声とともに、呼びかける声がする。
「え、三年生!」
三年生用の緑色のリボンをつけた、長い髪の女子だ。
「知っているかしら? この二宮金次郎、夜な夜な本を大声で読んでいるってことを」
「えっ、大声で本を読む?」
マイはびっくりして、思わず聞き返す。
「そう! そして、その声を聞いた人は、なんと呪われてしまうのよ!」
「ええっ!! 呪われる!?」
思わず大声をだしてしまい、あわてて口を手でおさえた。
三年生の女子は、声をあげたマイを見て、目を輝かせた。
「そう! この二宮金次郎の像には、とてもおそろしいオカルトがあるのよ! 気になるわよね! オカルト!」
ただでさえ、初対面の人と話すのが苦手なのに、いきなり、三年生の先輩がグイグイ顔を近づけてくることにひるんでしまう。
それに、オカルトって? なにがなんだか分からなくなる。
「わたしは
「え、えーと」
「それとも、もう入る部活決めてるの?」
「部活は、特に決めていませんけど……」
顔を近づけてくるスズから目をそらして、あいまいな返事をする。
「よーし、じゃあとりあえず入部してみよう! ものは試しってね。さっそく入部届にサインよ! 部室へゴー!」
そう言うとスズは、マイの腕をギュッとつかんでくる。
腕をつかまれるのは、リンにつかまれたのに続いて、今日二度目だ。
でも、今度のつかまれ方は、痛くて、なんだか、嫌だ。
「あの、わたしまだこれから教室に行かないといけないんです。新入生だからまだ何も分からなくて」
「いいからいいから!」
このまま、どこかに連れていかれてしまいそうだ。突然のことで、どうしていいか分からない。初対面の人にまくしたてられるのは嫌だし、こわい。
「あの、腕、引っぱらないでください」
「えー、そんな遠慮しなくていいから」
「わたし、まだ入るって決めたわけじゃありません、はなして!」
そんな悲鳴のような声をあげた時、スズの手を引きはがしてくれた人がいた。
「やめてください! マイが嫌がっています!」
見ると、リンがスズの腕をがっちりとつかんでいた。
「三年生の先輩が、勝手すぎます!」
上級生にもはっきりと意見を言えるリンはかっこいいと思った。そして、吊り目で怖い印象のリンがにらむと、迫力がある。
スズは、たじろいで、困った表情で次の言葉を探している。
「なんだなんだ?」
いつしか、大きな音を立てて倒れた二宮金次郎の像と、その前でさわいでいるマイたちのところに人が集まってきていた。
(なんなの、これ。注目されてはずかしい。それに、石狩さんと、天塩先輩のケンカが始まっちゃう!? 入学式の日に、こんなのってないよ!)
どうしてよいか分からなくて、思わずぎゅっと目を閉じる。
「いたっ!」
急にスズが声をあげたので、マイは目をあけた。
スズが、リンに握られている手とは反対側の手で頭を押さえている。
「スズ先輩、なにをやっているんですか! 新入生が困っているじゃないですか!」
スズの後ろには、長い髪を後ろで一つに結んだ、胸には青色のリボンをつけている二年生が立っていた。
厚めの本を持っていて、それでスズの頭をたたいたようだ。
「べ、別に困らせていたわけじゃないわよ。勧誘していただけで」
「怖がってるじゃないですか、まったく」
そう言って、その二年生はマイとリンに向き合った。
「ごめんね。わたしは二年生でオカルト研究部の
センナに言われて、リンは警戒をといたようで、スズの腕をつかんでいる手をはなした。
「スズ先輩、部室に戻りますよ! 戻ったら説教ですからね! それと、ちゃんと謝る!」
センナにうながされて、スズがマイとリンの方を向いて頭を下げた。
「ごめんなさい、グイグイいきすぎました」
センナが、スズの手を引いて校舎の方へ引きあげていく。マイとリンから少し離れると、センナがさっそくお説教をはじめたようで、スズはしゅんとして聞いている。
あっけにとられて、マイとリンはポカンと二人を見送っていた。
「おーい、生徒は早く学校に入らないと遅刻になるぞ。新入生は、クラス分けをちゃんと確認するんだぞ」
倒れている二宮金次郎の像のまわりにあつまっている生徒たちに向かって先生が声をかけたので、マイとリンは我に返った。
「そうだった。早くいかないと。いこう、マイ」
「う、うん……、えっ?」
マイは、下の名前で呼ばれたことに気づいて、とまどった。
そういえば、さっきスズに腕を握られた時にも、リンは下の名前で呼んでくれていた。
「あ、急に名前で呼ぶのはなれなれしかった? わたしの小学校、みんな下の名前で呼び合っていたから」
「ううん、じゃあ、わたしも、リンちゃんで」
名前で呼び合うことができたのはうれしかった。
リンは、マイの手をひいてくれる。
まだ、二宮金次郎の像が倒れたことや、スズに腕をつかまれたことで、動揺している。
でも、リンと手をつないでいると、不思議と気持ちが楽になっていくのを感じた。
(とっても、優しい子なんだな)
最初は吊り目で怖い印象だったが、リンに対して親しみがわいた。
(リンちゃんと、同じクラスになれるといいな)
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