いつかの親友へ。

家々田 不二春

いつかの親友へ。

 俺の書いた物語は、稚拙だった。

 誰のために書いてたのか、最近はわかんなくなってた。

 でも、とりあえず書かなきゃ、ダメな気がしてた。


 俺が小説を書き始めたのはいつだったかな。

 ああ、思い出した。小二の頃だ。

 あの頃は、お前と競い合うように、互いに高め合うように書いてた。

 楽しかったな。


 お前と会ったのは、確か映画がきっかけだった気がするな。

 八十年代の映画が好きだった、今も好きだ。

 お前と俺をつないだ映画は、マーティって高校生が車に乗って未来と過去に行く話だった。

 今さ、俺はジェームズ・ボンドを見てるんだ。

 面白いぞ、今度お前にも見せてやりたい。


 お前は、ゲームが好きだったな。

 核が落ちた後の世界の話だった気がする。俺もハマったよ。

 俺は相変わらず、レトロなゲームが好きだ。お前はどうだ?


 お前と俺は、妙に共通点が多かったよな。

 お互いにピアノを習ってて、銃が好きだった。ゲームも映画も好きだった。

 お笑いグループも同じ奴が好きで、二人で見て馬鹿みたいに笑ってたよな。


 お前は目が悪かったよな。いつでも眼鏡かけてた。

 いつでも、俺についてきてた。俺もお前について行ってた。


 互いに背を預け合ってた。お前以上に信頼できる奴は過去にも未来にも、きっといないだろうな。


 お前は俺を真似て小説を書き始めたんだっけな、逆だったか。

 二人で読んでみて、ダメ出ししあって、褒め合って。

 最高な日々だった。


 ああ、最高「だった」よ。




 お互いに変わったな。

 お前は眼鏡を外してコンタクトにしてた。髪も伸ばしてた。

 小説も書くのをやめてた。

 行く高校も違った。思い描く未来も違った。


 しょうがないことだと思う。俺とお前は違う人間だからさ。


 俺だって変わった。中学の頃までは鉛筆で小説を書いてたんだ。

 お前以外にも自分の小説を見せるようになった。


 俺もお前も、社会も時代も変わった。ただそれだけなんだ。

 それなのに寂しいんだ。

 俺は今でも、叶うわけのない小説家なんて夢を追いかけてる。

 妙に冷めたお前の言葉を待ってるんだよ。「やめとけ」って、そう言ってくれよ。


 俺は今、小説を書いてる。あの時とは違う、まるっきり違う小説を書いてる。

 あの時のお前に見せたら、なんて言うだろうか。

 きっと、「つまんねえ」って、一蹴してくれただろう。


 なあ、俺は今でもお前の為に小説を書いてるんだ。

 俺は今でも、あの日のお前を見たいんだ。


 いくら酷評されようと、どれだけ批判されようと、止まれないんだ。

 後先考えずに進む俺を止めてくれよ。今だって、いつだって、俺のそばにいてくれたお前を俺は探してるんだ。


 気取って、背伸びして、お前にいい所見せようとしてるんだ。

 そんな俺を笑ってくれよ。諫めてくれよ。


「面白い話を思いついたんだ。」

 お前がそう言ってくれるのを俺は今でも待ってるんだ。


 なあ、まだかよ。お前の書いた物語を読ませてくれよ。


 きっとお前は、俺とは違う夢を思い描いてる。

 その為に、お前は前に進もうと必死なんだろ?

 それが終わってからでもいいんだ。


 俺は待ってる。

 どれだけ時間がかかってもいい。

 それまではお前の為に、俺が物語を書き続けるから。

 だから、俺の為に物語を書いてくれよ。

 それまで、俺の物語を聞かせてやるから。


 なあ、面白い話を思いついたんだ。


 小説家になりたい男と、その親友の話なんだが、お前はどう思う?

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