愛妻再製

そうざ

Beloved Wife Remade

 ドアを開けると、殺風景な面会室の真ん中に妻がつくねんと佇んでいた。

 妻が気に入っていたギンガムチェックに大きなフラワープリントのワンピースは、この日の為に事前に預けておいたものだ。

「亡くなった奥様そのものでしょう?」

 傍らに控えた若い医師が、誇らし気な調子で言った。

 すらりと伸びた脚、緩やかに縊れた腰、豊かな乳房、艶めく黒髪の一本一本まで見事なものだった。

 クローン産業界のトップシェアを誇る技術に偽りはなかったようだ。全財産を投じただけの成果が得られたと言って良いだろう。


 妻が自死を選択した原因――それは他でもない俺にあった。俺の中に生まれた疑念が妻を追い詰めてしまったのだ。

 妻は触れられたくない過去を持っていた。俺は愛するが故にそれを執拗に追求してしまった。

 しかし、愛すればこそ過去に拘るべきではなかったのだ。

 俺は後悔の念に悶え苦しんだ。

 やがてそれは、贖罪の意志へと形を変えた。

 もう最先端医療に一縷の望みを託すしかない。俺は妻の遺髪を手にした。


 ゆっくりと妻の許へ歩み寄り、ぎこちなく微笑み掛けると、自然な笑みが返って来た。

 思わず歓喜の声を上げそうになる俺に、医師が透かさず言い訳めいた説明を加えた。

「残念ながら生前の記憶はリセットされています。今、奥様が微笑まれたのは、乳児同様の反射的な動作に過ぎません。再生出来るのは飽く迄も先天的な形質のみでして――」

 すらりと伸びた脚、緩やかに縊れた腰、豊かな乳房、艶めく黒髪の一本一本までは見事なものだ。

 しかし、不十分だ。不十分過ぎる。

「奥様を生前の通りに戻せるのは、矢張り旦那様の深い愛情ではないでしょうか」

 医師の薄ら寒い麗句を余所に、俺は妻の顔を優しく撫でた――大丈夫、君が直隠ひたかくしにしていた過去は綺麗さっぱり消し去る。

 俺は、の妻を抱き締めたまま、一流の整形外科医への報酬を捻出する術に思いを巡らせた。

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愛妻再製 そうざ @so-za

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