VSドラゴン 002
「……ふう」
一発。
一発だけでいいんだ。
【
充分な間合いがある。
ドラゴンとの距離を一0メートル以内に持っていけば、それでいい。
「……」
僕はミアに目配せをして、タイミングを整える。
……よし。
互いの呼吸を見て、脚に力を込めた。
が。
「うおおおおおおおお! ドラゴン、死すべし!」
そんなシンプル過ぎる口上を叫びながら、僕らより先んじて突撃していく人影。
先程僕らにつっかっかってきた冒険者たちだ。
「【アイスボール】!」
「【ウィンドカッター】!」
「【サンダーウェーブ】!」
「【サンドロック】!」
二0人が陣形を組み、方々からスキルを放つ。
「グギアアアギャアアアアアアアアアアアア‼」
対するドラゴンは、巨大な翼を羽ばたかせて風を起こす。
その風はうねりを上げ、二対の竜巻になった。
「うわあああああああああああああ‼」
「ぎゃああああああああああああ‼」
何人かの冒険者が巻き込まれ、空高く吹き飛ばされていく。
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
すぐさま返しの【ブレス】。
今度は球状ではなく、地面を薙ぎ払うような火炎。
「っ! 【
僕らの前に飛び出したレヴィが、防御スキルを発動した。
蒼い波動が炎とぶつかり、相殺される。
「大丈夫か、レヴィ!」
「ま、まだ何とか……でも、これ以上防ぐのは厳しいかもです」
「わかった。とにかく、一旦離れよう」
僕らはドラゴンの攻撃範囲ギリギリのところまで距離を取り、戦況を窺う。
「くそ……」
冒険者たちは敵を取り囲み、炎を受け流しながら絶え間なくスキルを発動している。
防御役と攻撃役を上手くパーティーメンバーに組み込んだのだろう。
だが、あのままじゃジリ貧だ……いずれ決着はつくだろうが、彼ら自身や街に及ぶ被害が大きくなってしまう。
早く何とかしないと……。
「……」
あそこまで戦闘が激化してしまったら、正面切っての接近は不可能に近い。
一発勝負の先手必勝……それが一番確実で、かつ安全にスキルを発動できる条件だったのだ。
その目が断たれてしまった今、【神様のサイコロ】の射程圏内に潜り込むのは至難の業だ。
「……」
考えろ、イチカ・シリル。
前線で戦っている彼らがダメージを与えているこの状況は、見ようによっては悪くない……ミアに戦闘に参加してもらう必要がなくなったからだ。
僕のスキルでドラゴンの生命力を1にできれば、それで片が付く。
「……」
なら、【
ミアと一緒に行動する必要がない以上、僕一人が無茶をしても問題はない。
……いや、ダメだ。
一度でもあの炎に焼かれれば、スキル防御のない僕は長時間燃え続けてしまうだろう……そうなれば、いくら【不死の王】で傷を癒しても無意味だ。
焼かれて治って、焼死して生き返って、また燃えて。
そんな不毛な炎熱地獄を繰り返すうちに、マナ切れを起こしてしまう。
「……」
パーティーの誰一人欠けることなく、この緊急依頼を終わらせたい。
それは何よりも優先すべき絶対事項だ。
じゃあどうする?
どうやったら、安全にあいつのところまで近づける?
「……」
安全に、か。
捨て去るべきは、その部分かもしれない。
「……なあ、レヴィ。少し頼めるか?」
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