ギルド
この世界で生きる人や魔物には、レベルとステータスが存在する。
ステータス画面には四つの数字が記載され、レベルが上がることでそれぞれの数値も増加していくのだ。
「マナ力」。
体内でマナを生成する能力や、保有できるマナの最大値を表す。
「物理攻防力」。
単純な物理的接触に際し、どれだけ力を発揮できるかを表す。
「スキル攻防力」
スキルを用いた戦闘で、どれだけ力を発揮できるかを表す。
そして――「生命力」。
何らかの攻撃を受けるとこの値が減少し、0になると、人間の場合は気絶をする。
魔物の場合は別で、0にすれば命を奪うことができる。
生命力をどう維持するかが、この世界で生きる上で非常に重要なのは言うまでもない。
「……ふう」
僕はステータス画面を閉じ、あまりにも貧相な数値を思い返してため息をついた。
いくらカミサマから最強のスキルをもらったとはいえ、自分の貧弱さをカバーしきれるかは別問題である。
最強の矛を扱う人間が最弱では、そもそも矛盾は成立しない。
「……やっぱり、ギルドに入るしかないか」
僕はそう結論付け、重い腰を上げた。
村を出て三日。
目指していた街は、もう目の前だった。
◇
村から一番近い街、アルカ。
煉瓦造りの建物が立ち並ぶ、いかにもファンタジー系のゲームに登場しそうなこの街には、冒険者ギルドの支部が存在する。
ギルドとは、エーラ王国各地に支部を持ち、冒険者の管理をしている機関のことだ。
もちろん、全ての冒険者が管理下にいるわけではない……ルッソ村のような田舎には、そもそも支部がないためである。
それに、僕みたいな低級の魔物しか討伐しない人間にしてみれば、ギルドで依頼を請けるより自分でコツコツ魔物を倒した方が実入りがいいのだ。
ただし個人勢のデメリットも当然存在し、ギルドとしか取引をしない商人とは話ができなかったり、王国が管理している地域での討伐が禁じられたりと、制約も多い。
故に、近場に支部があり、これからどんどん冒険者として稼いでいこうと思うのなら、ギルドに属すのが得策である。
もっとも、僕がギルドに入ろうと思った理由は別にあるのだが。
「……着きました」
一時間程市中を練り歩き、僕はお目当ての場所に辿り着いた。
冒険者ギルド・アルカ支部……表の看板にはでかでかとそう書かれているが、しかし見た目は完全に酒場である。
「……」
恐る恐る中に入ると、昼間だというのにそこかしこで酒盛りが繰り広げられていた。
屈強な男から華奢な女性まで、飲めや騒げやの大盛り上がりである。
まあ、冒険者ってやつは職業自由人みたいなものなので、目の前の光景が正しいと言えば正しいのかもしれない。
僕は群衆の間を縫い、受付カウンターであろう場所まで進む。
「ようこそ、アルカ支部へ。ご依頼ですか?」
愛想よく僕を出迎えてくれたのは、いわゆる受付嬢という人物だろう。
「えっと、ギルドに所属したいんですけれど」
「新規での冒険者登録ですね? かしこまりました、少々お待ちください」
初対面の相手にも警戒を与えない柔和な笑顔を見せてから、受付のお姉さんはカウンターの奥へと消えていく。
……さて、特に下調べなくここまで来てしまったけれど、果たして無事にギルドに入れるのだろうか。
勢いで何とかなると思ってはいるが、ほんの少しだけ不安が募る。
「お待たせしました。こちらの用紙に個人情報を記入してください。それから注意事項をお読み頂き、問題がなければマナによる契約を行います」
奥から戻ったお姉さんは、一枚の紙とペンを手渡してきた。
紙には出身地域と名前、年齢を書く欄がり、その下に注意事項が書かれている。要約すると、仕事中の怪我も事故も全て自己責任でお願いしますという内容だ。
僕は個人情報の記入を終え、所定の欄に右手を添えてマナを流し込む。
「はい、これで登録は完了です。冒険証の発行は明日になるので、またこのカウンターまで来てくださいね。もし今から依頼を請けたい場合は、あちらにあるクエストボードから依頼書を持ってきてください。では、よい冒険者ライフを」
随分あっさりと手続きは完了し、僕も晴れてギルドの仲間入りをしたらしい。
となれば、早速目的を果たすことにしよう。
「あの、すみません」
「どうされましたか?」
「パーティーに入りたいんですけれど、どうしたらいいですかね?」
僕がギルドに入った理由。
それは、仲間を見つけるためだ。
個人でパーティを組むのは、レベル1の僕にとってあまりにもハードルが高い……誰しも、こんなステータスの低い相手と一緒に仕事はしたくないだろう。
だが、ここでなら話は別だ。
レベルの低い冒険者の育成も、ギルドの担う役割の一つなのである。
従って、僕みたいにレベルの低い人間でもパーティーが組みやすいと考えたのだ。
「それでしたら、向かいにあるパーティーボードで条件の合う募集を探してみてください。もしくは、ご自分で募集をかけることもできますよ」
お姉さんの指さす方には、何枚かの紙が貼られたボードがある。
なるほど、ああしてメンバーを募集するわけか……積極的にレベル1を仲間にしてくれる人はいないだろうし、自分で募集をかける方がいくらかマシか。
「わかりました。いろいろありがとうございます」
「仕事ですので。では改めて、よい冒険者ライフを」
にこやかな笑顔に背中を押され。
僕は、意気揚々とパーティー募集の用紙を手に取った。
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