バトルロイヤルオブヒーローズ
三兎
光あれ
混沌はこうして訪れる
日本中で、それは発表された。モニターというモニター全てが切り替わり、白衣を着た一人の男が映し出される。笑ってはいるが、子供でも分かるくらいに作られている。
「君たちは知らないことが多すぎる」
男は話しだした。
「宇宙人は実在すると思うか?これだけ広い宇宙の生命が、全て地球に集結しているなんてことがあるだろうか?」
これだけ大掛かりなことをしておいて、あまりにも話題が突飛すぎる。何が言いたいのか。
「宇宙人はいる。理屈ではない。私はこの目で見た。君たちが想像するような、いわゆるグレイと呼ばれているようなものじゃない。全身凶器のような、おぞましい姿だった。宇宙人、と呼ぶのも違うような気がするな。にもかかわらず、人類より遥かに文明を発展させていた」
男は少し間を空ける。
「果たしてその生命体は、人類及び地球をどう思っているのか。その気になれば、地球ごと破壊できてもおかしくない技術を持っていた。そんな奴らが宇宙にいると言われて、君たちは安心して日常を暮らせるか?」
もちろん、暮らせない。その話が真実であれば。この男が本当のことを話しているか、全くわからない。根拠がない。地球外知的生命体を発見するような人間だというのに、映像や写真も何も用意していない。
「宇宙だけじゃない…この地球にも、分からないことはありふれている。ビッグフットとかいう生き物…あれは私は見ていない。しかし、実在しない、とも言い切れない。まぁ、一度宇宙の生命体を見れば、そう思ってしまうのが自然か。とにかく、見たことがない、根拠が無いからといって、その存在を否定するのはあまりにも愚かだ。見ていない、わからないからこそ、存在する可能性がある。そして、ビッグフットなどといった易しいもんじゃない、もっと危険な化け物が潜んでいても何も不思議ではない」
男は次々と不安を煽っていく。内容が内容なだけに、くだらない、愚かなのはそっちだ、と反論する者も現れた。しかしこの男の言っている事が嘘だとしても、現に今、日本の全ての液晶画面にはこの男が映っている。相当な権力者か、優秀なハッカーでも雇っているか。何にせよ、この男がここまでして嘘を言うとも思えない。
「ここからは君たちにとってもっと非現実的な話になると思う。しかし、現実だ。私は見たんだ。もう一つの宇宙をね」
このあたりから、テレビやらスマホやらを怒りに任せて割り出す者が出てきた。
「多元宇宙や平行世界と呼ばれるもう一つの世界は実在する。この宇宙が生まれたビッグバンですら説に過ぎない。だれもこの宇宙の端まで到達していない。もはや想像の世界だ。じゃあもう一つの宇宙も、無いとは言い切れない。君たちはそう思えるはずだ」
嘘を言っている感じはしないが、やはり理屈。ただただ理屈。証拠を見せろと、画面に怒鳴る者も現れた。
「まぁ、とにかく世界は広いということだ。私にも知らないことがあるし、未来が分かるわけでもない。しかし、宇宙にも地球にも、他の宇宙にも、脅威と呼ばれるものが存在するのは、君たちでも理屈とは思わないだろう。そろそろ、証拠を見せろだとか騒がれている頃だろうし」
画面の向こうに何を言っても意味がないとやっと気づいたのか、だいぶ静かになってきた。だいぶ長い前置きだった。
「そこで、そんな脅威から君たちを守る存在が必要となる。しかし生憎、人類の技術では太刀打ちできないようなこともあるだろう。だから、ある手段を用意した」
男がそう言うと突然、画面が切り替わった。地球が映っている、宇宙からの映像だ。人工衛星のようなものが浮かんでいる。
「これはわかりやすく言えば巨大な懐中電灯。先ほどの地球外生命体から盗んできたものだ。日本をまるごと包み込む光を出せる。しかしこの光は特殊でね。地球には存在しないもので、似ているもので言えば、放射線のようなものだ。この光を浴びた生命体は、脳の活動が活発になるのに加えて、体にも影響を及ぼすことがある。賢くなるだけならありがたいが、どうやら効果には個人差があるようで、浴びた瞬間破裂して死んでしまう者もいれば、何も変化が起きない者もいる。そしてこの光と相性が良ければ…素晴らしい能力を手に入れ、超人になれる」
実際の映像を見せられ、男の話を信じる者も出てきた。一方でこれはCGだ、と騒ぐ者も一定数いる。
「スーパーヒーローになれる。地球を守る、英雄になれる。それを今から、生み出す。多少の被害は仕方ない。これで何万人も適合すれば十分だ」
映像が切り替わり、再び男が映し出される。
「今から10分後にこの光を放つ。いい結果になることを望んでいる。では」
画面が暗転し、全て元に戻った。テレビ番組、コマーシャル、SNS。生放送の番組は大騒ぎだ。すぐにSNSもサーバーがダウンしてしまうだろう。男の言うことが本当ならば、10分後に光が放たれ、日本中の人間が光の影響を受ける。一部は何も起こらず、一部は死に、一部はスーパーヒーローに変身する。こんなの、一種のテロではないか。そもそも、あの男は何者なのか。まさか、宇宙から発信していた、なんてことがあるんじゃないか。その場合もちろん、本人は影響を受けない。色々考えていると、突然高校生くらいの男の子に声をかけられた。
「お兄さんも早く、逃げましょう!光が届かないところに!」
珍しく外に出ていた俺は、なんとまぁタイミングが最悪だと、やっと感じた。いくらなんでも情報量が多すぎる。
「お前…高校生か?」
「そうですけど…って早く逃げないと!」
「なら多少は分かるはずだ。放射線なら、物を透けてくる」
「…でも、放射線のようなもの、であって放射線ではないんでしょ?」
「だからだ。放射線なら暗い暗い地下に逃げ込めばどうにかなるかもしれんが、地球には存在しない宇宙の光だろ?もしかしたら何でも透けるかもしれん」
「…」
「あの白衣も馬鹿じゃないだろ。コンクリで防げるようなもんをこんな自信満々に発表したりしない」
「じゃあ、光を真っ向から受けるってことですか?」
「別に受けに行くわけじゃねぇけど、逃げもしない。お前名前は」
「霜月綴です」
「そうか。俺は冬宮修だ。もし二人とも生きてたら、また会おう」
「はい。では」
綴は走っていく。さすが東京、人が多すぎる。しかし今は無法地帯と化し、信号もクソもない。世界の終わりがくるかのようだ。
しかし、地球を守るスーパーヒーローを一般市民から無差別に作り出す計画。これには欠陥がある。それは、適合した人間が、果たして全員スーパーヒーローとして奴に協力をするのか。友人が光で死に、自分が適合したとなれば、奴に恨みを持つはずだ。それ以外にも色々と奴に協力しない理由なんて思いつく。光によって発現するらしい力は、犯罪にも使えてしまうはずだ。適合した人間を全員服従させる術を、奴は考えているのか。もっとも、どんな能力が発現するのかはわからない。能力にも個人差があるのか。人間以外のものと対峙するとなれば、戦闘に特化した能力が基本となるのか。そうなると、奴なんて簡単に殺せてしまうはずだ。奴もすでに光を浴びている可能性も否定は出来ないが。
大騒ぎの東京を眺めながら待っていた。長い10分だった。上を見上げても、衛星は見えない。確認する術がない以上、奴の話を信じるしかない。これだけ大騒ぎになって嘘でした、なんて言われたらたまったもんじゃない。殺害予告が滝のように来るんだろうな。
突然視界が真っ白になり、意識を失った。
意識と視界が戻ってからはもう、地獄絵図だ。それはまさに、世界の終わり。
適合できなかった者。肉片と血液が地面を埋め尽くしている。呆然と立ち尽くしている者。体の形が歪に変化し、ホラー映画にでも出てきそうな動きで助けを求めている者。嘔吐物、多数。
そして、適合した者。しかし、想像していたものよりももっと酷かった。宇宙の未知の物質、なんて言われたときに察するべきだったかもしれない。口が肥大化していたり、体中から植物が生えていたり、目が増えていたり。それはあまりにも、スーパーヒーローと呼ぶにはグロテスクで、おぞましい。そんな姿でも、「適合できた」と喜んでいる者もいるのだから、もっと恐ろしい。俺はどれくらい意識を失っていたのか。立ったままだから、そんな長い時間でもないと思うが、もしかしたら立ち尽くしている者は、意識を失っているだけなのか。スマホを見てみるが、画面がバグり散らかしている。目に悪い色を乱雑に表示している。体感では一瞬だったが、意識を失っているからなんとも言えない。
ふと後ろから、声をかけられた。
「冬宮さん…大丈夫です…か…」
綴だ。よかった。生きていた。
「あぁ、俺は平気…」
振り返って綴を見ると、だいぶ影響を受けているようだった。まありの悲惨さに、声が出ない。全身火傷。ここまで歩いてきたのが不思議なくらい、ボロボロ。今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
「お前…それ…」
「僕は大丈夫です…目覚めたらこれでした。でも不思議と痛くないんです。お兄さんは」
「今のところ何も変化は…」
「そうですか。よかった」
すると突然、綴の体が崩れ始めた。
いや、違う。綴の皮膚だ。火傷を負った皮膚だけが、剥がれていく。
「えっ…?」
皮膚が剥がれたというが、そう見えただけなのか、下からは元の綺麗な皮膚が見える。一体どういうことだ。
「治癒能力…」
自然と出てきた言葉がこれだ。でも痛くないのは何だ。何故全身火傷でここまで。その説明は治癒だけでは説明できない。不死身、という可能性も考えた。確か不死鳥は死ぬと灰になり、その灰の中から蘇るのではなかったか。まさに今見た光景がそれだ。
しかし、やはり疑問点は多い。それは、適合した人間が自分に何が起こったのか、理解していないということだ。体が変化したのであれば見れば分かるが、綴のように目に見えない変化も、あるということが分かった。
「とにかく、逃げましょう、ここから」
「あぁ…そうだな」
走り出そうとしたその時、目の前に巨大な塊が落ちてきた。いや違う、人間。人間、だったもの。
異様に巨大な単眼、首まで裂けた口の四足歩行の化け物。これでも人間の意識を保っているというのか。そう思っていたが、化け物は真っ先にこっちへと向かってきた。完全に狩りの始まりだ。脳内まで化け物になってしまったのか。それとも、人間の意識が残ったまま、倫理観だけ取り払われてしまったか。そうなるとただの快楽殺人やらカニバリズムやらになっていることだろう。
そうだ。脳。奴は脳にも影響があると言っていたんだ。
「綴」
大きさ故に小回りが効かない化け物から逃げながら、綴に声をかける。
「お前も俺も、光を浴びた。体だけじゃなく、脳も変わった。お前は能力が発現してる。なら、その脳は自分の体に何が起こったのか理解しているはずだ。お前の意識では分かっていなくてもな」
「今まで使われていなかった脳の部分を使えってことですか」
「理解が早くて助かる」
「やってみます」
綴は集中しているようだった。にも関わらず、一人で化け物を避け続けているから、脳が活発化しているのも、よくわかる。
もしかしたら、俺も自分で分かっていないだけで、なにか能力があるのだろうか。
「冬宮さん、離れて」
綴が突然俺の前に立ち止まる。
「分かりました。僕に何が出来るのか。冬宮さんも。後で全部話しますから、離れてください」
俺は綴に従った。高校生とは思えない気迫で化け物を見据える。
すると突然、近くで燃えていた木材が爆発した。それだけゃない。無法地帯と化している東京の炎が、全て爆発した。そして爆発したままの形を保ち、大きくなった。そしてその炎は導かれるように化け物に向かい、全身を燃やし尽くした。
「何だ…?」
さっきまでの事例はまだ、ギリギリではあるが説明はつく。宇宙からの光により、体が変化したのだと。しかしこれは説明がつかない。
「僕の能力は治癒じゃなくて、酸素です」
蛇のようにうごめき化け物を襲った炎は、綴がやったことなのだ。
「酸素濃度を操作できる能力。それにより、間接的に炎を操りました。火傷で死ななかったのは、僕の無意識が、血液が流れなくとも体の中の酸素を絶えないようにしたから」
綴は振り返る。
「こんな能力があるのは僕もわけがわかりません。でも今のは実際に僕がやりました」
自分の体だけでなく、他者にも影響を与える能力。触れずとも、念じるだけでものを操ることができる、それこそスーパーヒーローのような。
「無意識で僕が能力を使っていたこと、念力のような力が存在することを考えると」
「治癒能力は俺か」
「そうです」
あのとき、ボロボロになっていた綴を見て、無意識が能力を使い綴を治した。わけがわからないが、綴という前例がある。
「これから…どうしましょうか。二人とも能力が発現してしまったわけですけど。あの人に従う気はあるんですか」
「……最初は、能力が発現したら従う気でいた。正直、憧れはあった。でも、こんな惨状を見せつけられて、従う気にはなれない」
多分、綴も同じことを考えている。恐らく、大多数の適合者が考えることだ。
「あの白衣野郎は、殺す」
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