結んで解いてまた結び

東さな

僕と梨子さん

僕には物事に対するこれといったこだわりが無い。いや、こだわることをやめたと言った方がしっくりくる。何にせよ、今僕にあるのは、一人暮らしには広い、マンションの一室と必要最低限の家具くらい。

テーブルの上には、湯気を立てた紅茶が2人分ある。

そろそろあの人が来るだろう。


インターホンが鳴り、ドアの向こうから大きな声がした。

梨子りこです!開けて下さーい!」


梨子さんは僕の部屋の真下に住んでいて、日曜日には毎週こうして僕の部屋に来る。紅茶を淹れて、それを2人で飲みながら世間話をしている。

半年前、僕がロビーで荷物を落としたのを拾ってもらって、そのお礼に僕の部屋でケーキと紅茶を出したことがきっかけだ。そのまま意気投合して仲良くなった。


ドアを開けると、いつも通りのパーカーとジーンズ姿で、僕の部屋に入っていった。


梨子さんは自称・永遠の17歳。もちろん冗談で言っていて、ほんとは20代後半か僕と同じ年くらいだろう。


「……かない」

「えっ?」

まずい。話を聞いていなかった。なんて返そう。

「そ、そうなんだー」

「うん。楽しみ!」

とりあえず会話が繋がったようで安心した。


次の週、梨子さんは来なかった。2人分の紅茶を1人で飲んだ。


その次の週は来た。僕ほ紅茶を淹れながら、「そういえば、先週は来なかったけど何かありましたか」

と聞くと梨子さんは「あれ?言わなかったっけ?」と言い、「デート」と続けた。

それで僕はこの前聞いていなかったところの話かわかった。また、"デート"のたった3文字「少し胸がチクッとしたけれど、次の「友達と」の言葉で、なんだ友達と遊びに行っただけか。とほっとしている自分がいた。


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