第10話 母ちゃんと島丘くんの会話

 あのオフ会のことを気にはしながらも、なんとか穏やかに年末年始を過ごし、子ども達を東京と福岡へ送り出した。

 麻智の彼はほんの1時間ほどいただけだけど、仲良くやってるみたいだから良かった。


 でも、夫と2人になった途端に、浮気したかもしれない疑惑がフツフツと再燃してきた。

 とはいえ当日のあの時よりは冷静でいられる。そしてまだ確信もない。

 島丘くんにそれとなく、あの日のことを聞いてみようか?


 私は自然な形で話を聞くことが出来るように、会社で新年のご挨拶をしたいと夫に言って同行することにする。そういうことは過去に何度かしたことがあるから、不自然ではないはずだ。


 夫にそのことを伝えると、微妙な顔をしたけど、それには気付かないフリをする。

 そして会社へ行って社員一人一人に挨拶をする。最後に1番若い島丘くん。


「年末に主人を若い人の仲間に入れてくださってありがとうございました。とっても楽しかったらしくて、なんか若返ったようでしたよ。」


 そう話かけると、目をキラキラと輝かせて、まるで昨日のことのように話始めた。

 島丘くんは本当に素直な子で可愛くて、夫への感情を忘れるくらい普通に話ができる。


 でも、「なんか、東京から来てた女の子が1人酔い潰れてましたけど、社長がちゃんと送って行かれましたし。」と言う島丘くんの言葉を聞いた時、瞬間湯沸かし器のように、また怒りに火が着いたの。

 …やっぱりか!

 そんな気持ちだったわ。


 私は、「その日の写真とか無いの?見てみたいなー。」って、島丘くんに聞いてみる。

 どんな子か、見てみたいと思った。


 「あ、1枚だけあります。撮った時、[まいうい]さんて人に怒られて、消さなきゃいけなかったのに忘れてて…。」

 と言って携帯の画面を見せてくれたの。

「この2人がわざわざ東京から来てくれたんです。こっちが[まいうい]さんで、こっちが[みけりす]さんです。こっちの[みけりす]さんが酔い潰れちゃった子です。この2人が若い人で、ボクと同年代か少し上でした。あとの人たちはもっと年上です。」


 …この子か!


「貴重な1枚なのね。すごく可愛い子!島丘くんのタイプでしょ?この写真、私も欲しいな。」とダメ元で言ってみる。

「いいですよ。あ、でも一応、他の人には内緒で。」

 島丘くんが快諾したので、携帯画面を私の携帯カメラで撮らせてもらったの。データで貰うのも怪しいかな?と思って、軽いノリ風にしてみた。

 写真を結構なアップに拡大してくれたので、これでも充分。


 この[みけりす]って子が夫とタクシーでホテルに行ったのね…。


 これ以上聞くと変だと思われるだろうからここまでにして、後は本人に聞くことにした。


 皆に少しでも気付かれないように、帰る時まで自然に振舞うよう、最大限気を遣ったの。


 その夜、夫が家に帰ってきてからが勝負の時。間髪入れずに問い詰める。


「ねえ、島丘くんとオフ会だって私が送っていったあの日、朝帰りして貴方言ったわよね?“島丘くんが酔い潰れて送って、そのまま島丘くんの家に泊まった”って。

 このレシートが貴方のポケットに入っていたの。これはどういうこと?」


「え?そ、そんなの入っとった?島丘くんの部屋にあったやつかな?

 いやー、あの日の夜は酔っててあんまりよく覚えとらんけえ…。

 あー、そうそう、女の子送ってった後で、島丘くんのところにまた戻ったんよ。」


「はあ?まだしらばっくれる気⁉︎

 このホテルの領収書、島丘くんの名前じゃないけど?」


「あーそうなんや…。じゃあ何でやろうねえ…?」


「やっぱり貴方、浮気したのね⁉︎

 島丘くんが、酔い潰れた東京の女の子を、貴方がホテルまで送って行ったって言ったけど、その後に戻ってきたなんて言ってなかったわよ!!」


「いや、それはしてない!浮気は本当にしてない!

 すみません、嘘つきました!

 あの、東京の女の子を送ってったのは本当で、でもやましいことは全然無いけえ。

 女の子がすごく泣くもんだから、慰めるっていうか…、って違う、ただ話を聞いてあげてただけなんやけど。

 その時缶ビール飲んでたらつい寝てしまって…、気付いたら朝っていうか。

 本当に、本当なんだ!

 本当に眠ってしまっただけで、朝目が覚めたら女の子はいないし、絶対あの…変なことはしてない!」


「じゃあ何で最初からそう言わないのよ⁉︎

 何で嘘ついたの?やましいことしたからでしょ⁉︎

 それに、どうして10万くらいのお金が無いの?そんな大金!まさか、お金を払って、女の子を買ったっていうんじゃないでしょうね⁉︎」


「そ、そうなんや!いや、そうじゃないんや!朝、それも気付いたらお金も無くなってて…何でかワシにも分からないんだ。

 まさかあの子が盗ったとは思えないし…。」


って何⁉︎そういう呼び方する関係⁉︎そして庇うの?

 盗ったんじゃなかったら、やっぱり貴方がその子にあげたことになるけど⁉︎」


「お金のことは本当に知らないんだ!

 …さっきからこんなに違うって言ってるのに、ワシのこと、信じられんのんか⁉︎」


「逆ギレ⁉︎

 信じられるわけないでしょ!どこに信じられる要素があるっていうの⁉︎

 ふざっっけんな!!

 私…私だって信じようと思ってたのよ…⁉︎

 でも、無理だわ!

 あの日から、私の心の中ぐちゃぐちゃなの。何で私がこんな思いしなきゃいけんの⁉︎」


「それなら、あの日すぐにでも聞いたらよかったんやないんか⁉︎

 何で今更?」


「子ども達が帰ってくるけえ、嫌な空気にしたくなくて我慢してたんよ!

 そんなことも分からんの⁉︎

 …もういい。話にならんけえ、出てく。」


「好きにせえ!」


 はいーカッチンきましたー。

 なら出てくわよ!バカにして…!


 とりあえず、いつも財布を入れてるカバンを持って家を飛び出した。

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