統選者
@8931-29
プロローグ
某月某日、某所。
大きな爆発音と共にピーピーという耳に障るエラー音が鳴り始めた。
内部構造が露わになった大型の電子機器が火と煙を上げバチバチと音を立てる。
そんな電子機器の前にはその様子を見つめている一人の中年男性。
爆発音からほどなくして、中年男性の後ろにある部屋の扉から数名の黒スーツ姿の男性が現れた。男たちは中年男性と部屋の悲惨な状況を見るや否や中年男性を取り囲んだ。
「こんなことをして許されるとでも思っているのか! お前のやっていることは国や政府への反逆行為だ!」
男の一人が声を荒らげる。他の男たちも声には出さなかったが同じ意見のようだ。
「許される事ではないだろう。だが政府の今までの行いが許される事とも思わない」
中年男性は淡々と答える。
「どうかしている」
男たちが中年男性に対して理解できないといった表情と態度を示していると、こちらに近づいて来る二人分の足音に気が付いた。男たちが足音の方向に目を向け、近づいて来た人物を確認すると男たちの表情は一変した。
「か、監視長様がどうしてこんなところにいらっしゃるのですか……」
緊張なのか恐怖心なのか、男の声は少し震えていた。
監視長様と呼ばれた男性は五十代といったところか。白髪で長身、体躯はすらっとしていて全てを照らすような純白のスーツに身を包んでいる。汚れがあれば一目見て分かりそうだ。
一歩後ろに下がった場所には秘書らしき黒髪のショートヘアの女性が静かに佇んでいた。監視長とは対照的にこちらは全てを飲み込むような漆黒のスーツに身を包んでいる。
「『どうして』……ですか? 愚問ですね」
監視長が声を掛けてきた男を鋭い目で睨みつけた。
「ッ──⁉」
睨まれた男は体をこわばらせ目を背けた。
監視長はすぐに視線を男から外し中年男性へと向ける。
「やってくれましたね。部下にあなたの監視をお願いしていたはずなんですが、まさか、監視をすり抜けこのタイミングで管理システムを破壊してくるとは思いませんでした。てっきり動くつもりはないのかと思っていましたよ」
「俺を監視対象にした時点で身柄を拘束しておくべきだったな」
「フッ。全くその通り。あなたの言う通りです」
自身の失態に対する指摘に反省していないのか軽い口調で返事をする。
「ですがよろしかったのですか? どんな影響が出ているかはあとで調べるとして、あなたのせいで政府としても必要な対応を取らなければいけない可能性が出てきたわけですが……」
「それは承知の上だ。仮にそうなった場合でも、これからの未来のために今回の子たちには頑張ってもらうしかない」
「頑張ってもらう……何も知らない者を巻き込んでおいて、随分と自分勝手……」
「──どの口が言っている」
中年男性は喰い気味に言った。
「……それにしても残念です。政府のやっていること・選抜制度の全てに否定的なわけではないのでしょう? だからこそ、監視対象止まりで身柄拘束や暗殺にまでは至らなかったわけですから」
「政府の全てを否定するつもりはない。俺が疑問を抱いているのは選抜のあり方についてだけだ」
「選抜のあり方ですか。しかし、気に入らなければ公の場で皆さんに伝えればよかったのではないのですか? 国民からの声が多く上げられたならば政府も動かざるを得なくなるわけですし。わざわざこんなことをしなくても……」
「言ったところで何の意味がある? 誰が俺の言うことを信じる? ただの狂言吐きにしか見られない。そもそもそんな行動を起こそうとすればお前らが黙っていない。行動を起こす前に邪魔されるか、行動を起こした後に殺されるのがオチだ。それなら──」
「それならいっその事、隙を狙って管理システムを破壊した方がいい、と、考えたわけですか。あなたがどんな変化を望んでいたのかは……あえて訊かないでおきましょう」
「『訊かないでおきましょう?』する必要がないだけだろ」
中年男性はこれから起きることが分かっているらしく、事態に備えて身を構える。
「必要がないとはどういう意味でしょうか?」
監視長は中年男性が何を思ってそう発言したのか分かっていて訊き返した。
「……ここで俺を殺すつもりだろ」
中年男性は声を絞り出す。
「はい。尋問をしたところで起きてしまったことを無かったことにはできませんしね。抵抗してくれても構いませんよ」
監視長が満面の笑みを浮かべる一方で、中年男性の額には脂汗が浮かんでいる。
黒スーツの男たちは腰に掛けていた拳銃を手に取り銃口を中年男性の方に向ける。
「彼らと私、どちらに殺されたいですか?」
「殺される以外の選択肢が欲しいな」
「それは無理なご相談です」
「……」
「……」
短い静寂の後、バーンという声が部屋の中に響き渡った。
「では、帰りましょうか」
監視長が踵を返すと、男たちは黙ってその後ろをついていく。
汚れなど無かった監視長の純白のスーツには赤いシミができていた。
赤い汚れは顔にもできている。
監視長は白のハンカチで顔の汚れを拭きとりながら小さく呟く。
「面白くなりそうですね。今回の
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