第7話 アル視点1 俺を全く無視する女の関心を俺に向けようと思いました

俺の名前はアルフォンス・ネーデルランド、このネーデルランド王国の王太子だ。学園には母の持っていた子爵で通っている。学園生活くらい楽しみたいからだ。両親にも無理言って納得させた。まあ、多くの高位貴族は俺が王太子だと気付いているけれど。


俺は、ほとんど会ったことはないが、隣国フィン王国の王女と婚約していた。そう、していたのだ。ついこの春まで。その王女が何をとち狂ったのか、護衛騎士と出来てしまって、あっさり婚約破棄されたのだ。どうして護衛騎士何かと・・・・。

まあほとんど会ったことはなかったからあれだど、流石に少しは落ち込んだ。そんなに俺は魅力がないのかと。

一部の俺に反感を持っている高位貴族らには『振られ王子』と呼ばれて馬鹿にされていた。


まだこの事実はほとんど公表していないのに、どこから漏れたのだ?


そう、そのやさぐれていた俺の前に、シルフィは現れたのだ。


学園の入学式で、強面で有名な公爵令嬢のタチアナに絡まれている時、その婚約者のクンラートに助けられたにも関わらず、

「ちょっと、あなた! タチアナ様になんて酷いこと言うの!」

と虐めていたタチアナではなく、助けたクンラートに突っかかっていたのだ。


普通は感謝こそすれ怒るなんて逆だと思うのだが。


更には皆がそのきつい性格からタチアナを恐れているのに、タチアナがいかに優しい性格をしているか延々と述べだしたのだ。いや、絶対にタチアナはそんな事してていないって思えることを日々行っているとその子は言い張るのだ。

婚約者のクンラートの絵姿に謝りながら、その日一日侍女らに辛く当たってしまったことを反省するなんて殊勝な事を、鋼鉄の女タチアナがしているはずなんてあり得ないではないか。どっちかって言うと、もっときつい言動を何故しなかったのかと後悔している方だ。絶対に。それを証拠にタチアナまでもが恥辱に震えているではないか。そもそも、真っ赤になって震えるタチアナなんて始めてみた。



その時は変な女がいるなと思っただけだった。



でも、翌日からその女はタチアナを遠くから覗き見し出したのだ。こいつは何をやっているのだ?



そもそも、俺の周りには隠れて護衛が数名ついている。


俺は身分を隠しているが、どうしてもバレていて、俺に近づこうとする子女も多いのだ。俺はそう言うのが嫌で、そう言う輩は排除することにしていたのだ。


その女は学食の端にやってくるとキョロキョロしてタチアナを見つけるとはっと嬉しそうな顔をした。そして、周りを見ると何故か俺の方に一直線に歩いてきたのだ。


な、何だ? 何しに来る? でも、この女の変なのは俺のことを全く見ていないのだ。


なんか横の木の茂みを見ているようで。


なにか花でも咲いているのか? そうか珍しい鳥でも止まっているのか?


排除しようとした護衛を止めると、女は俺を無視して、その木陰に潜むとなんと隠れてタチアナを観察しだしたのだ。


この王子の俺が全く無視されたのだ。こんな経験は初めてだった。俺は唖然とした。


普通女なら、王子でなくても見目麗しい男がいたら少しは気にするだろう。


俺は女性から見てそんなに魅力がないのか?


「うーん、いつ見てもお美しい」

こいつ、王子の俺を差し置いてタチアナを褒めるなんてどう言うつもりだ!

俺は王女に振られたところで、少し自信をなくしていたのだ。それにこの仕打ち、俺は地獄に突き落とされたみたいだった。


「お前そんなところで何しているんだ?」

俺は思わず聞いてみた。


「しっ」

しかし、女はあろうことか俺から話しかけられたのにもかかわらず、俺を無視したのだ。王子の俺から話しかけて無視されたのは、初めての経験だった。どの女も嬉々として俺に応えるのに、無視するだと!


「お前、俺を無視するとは良い根性している」

俺は思わず呟いていた。

何故か影に隠れている護衛達が吹き出している気配がした。後でコイツラは減給にしてやる。


「そう、そこよ。クンラート、声をかけろ」

なんか女はタチアナと婚約者のクンラートしか、見ていないのだ。


「ああ、ボケ!クンラート」

無視して通り過ぎたいとこに対して叫んでいるんだけど、普通これは不敬だろう。

相手は王弟の息子だぞ。


「この前も思ったけど、お前、横で見ていて本当に面白いな」

そう言ってやると、やっと女はこちらを向いた。でも一瞬だけど。


えっ、俺って本当はとても魅力がないんだろうか?

思わず自問自答しそうになった。


「勝手に見て、面白がらないでください」

なおもタチアナを見ながら女が言う。


「俺の真横で変なこと始めるお前が悪いと思うが」

ムッとして俺が言うと

「だって、ここ、タチアナ様を陰から見るのに、最適な場所なんです」



ええええ、そんな理由で俺の横に来たのか。俺は全く関係ないではないか。まあ、この女の態度からそれは薄々わかってはいたが、ここまでコケにされるのは初めてだった。


「お前そんなにまでしてタチアナが見たいのか?」

「良いじゃないですか。私、タチアナ様のファンなんです」

なんかこいつはとんでもないことを言ってきたんだけど。あのきついタチアナのどこが良いんだ? きついことを言われて侍女がいつも泣いていると有名なタチアナの?


この女はタチアナがいかに素晴らしいか言い出したのだ。でも、どう見ても平民のこの女がどうしてそんなにタチアナについて詳しいんだ? それを聞くとなんと夢で見たと言い出したのだ。

何だ、それは、俺が馬鹿にすると、なんとこいつは俺が王女から振られたのを夢で見たと言い出しやがったのだ。


いや待て、それは極秘事項地だ。何故お前が知っている? なのに、何故俺が王太子のことを知っているんだと聞いてきやがった。本人に聞くな本人に! というか、こいつは俺を王太子だとは全く知らないみたいだった。だからこの態度なのは判るけれど、いや、待て、普通の男としても俺はかっこいいはずなんだけど・・・・俺は王太子でなければ魅力が全く無いんだろうか?


なんか護衛達は影で腹を抱えて笑っていやがるんだけど・・・・

余程首にしてやろうかと考えたくらいだ。



「ああ、いたいた、アル探したぞ」

そこにやっとクンラートが来た。


その女にクンラートに対して酷いことを言っていたというと、女は謝ってやっと名乗ったのだ。

「私1年生のシルフィア・バースと申します」

そうか、財務官のバースの娘か。こいつの父には今も色々と教わっている。俺が振られたのは父から聞いたのか。でも、こいつの父は真面目で、俺の父も信頼しているはずなんだが。


一応娘の事を聞いてみると

「今年から学園に入りました。まあ、殿下とお会いすることはないと思いますが、もし会われても私のことはご内密に。娘には仕事の話は何もしておれませんので」

そう言われてもシルフィにはもう父親を知っていると言ってしまったけれど。


「それよりも殿下。この前の書類ですが」

早速仕事の話に持っていく。本当に真面目なのだ。

こいつが俺のことをバラすわけはないと思うし、シルフィがタチアナのことに、何故、詳しいかは判らずじまいだった。


それからも、シルフィのタチアナ観察は続いた。昼の度に俺の横に来るのだ。


しかも、やはり俺を全く無視するんだけど、どういう事だ?

普通は俺と少しでも親しくなったら話しかけてくるはずなのに、全く話しかけてこないのだ。全く無視された俺は面白くなので、俺から話してやることにした。でも、こいつの関心はタチアナにしかないのだ。タチアナに関することは乗ってくるのに、他には全く関心がない。

王子のことを話題に出しても全く無視しやがる。な、何なんだ、こいつは。


こいつは見ていると表情がコロコロ代わって本当に面白い。のだが、タチアナにしか興味がないってどういう事なのだ。


俺の王子としての沽券に関わる。


俺はいつの間にかなんとかシルフィをこちらに向けようとしゃかりきになっていたのだ。

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