第3話 木陰に隠れて悪役令嬢を覗き見していたらその婚約者が来て、悪役令嬢に誤解されたなんて知りませんでした
タチアナ様は私を一顧だにせずに立ち去ってしまった。
でも、私は負けない。頑張ってタチアナ様のお力にならないと。まず親しくなるのが先決だ。
しかし、タチアナ様は1年A組、対して平民の私は1年B組だ。
クラスが違う、となかなか一緒になれないのだ。
で、今、私はお弁当を早食いして、食堂の木陰からタチアナ様を覗き見しているのだ。
「うーん、いつ見てもお美しい」
その凛々しいお姿に私は感動していた。
「お前そんなところで何しているんだ?」
「しっ」
木の横のテラス席から声がかかったが、私は無視した。
一人で食事をされているタチアナ様の横を、今、まさに婚約者のクンラート様が通りかかられたのだ。
「お前、俺を無視するとは良い根性している」
横でブツブツ言う声が聞こえるが、私はそれどころではなかった。
タチアナ様はクンラート様に気づかれて緊張されているのが目に見えて判る。
そう、そこよ。クンラート、声をかけろ。
でも、私の念じた声は全く無視された。
クンラートのボケはタチアナ様を無視してさっさと移動して行ったのだ。
「ああああ」
私はがっかりした。
「この前も思ったけど、お前、横で見ていて本当に面白いな」
私は、そう呆れて言われて初めて横の男を見た。
そこにはこの前笑われたアル様がいた。
「勝手に見て、面白がらないでください」
私が文句をいうと、
「俺の真横で変なこと始めるお前が悪いと思うが」
ムッとしてアル様が言われた。
「だって、ここ、タチアナ様を陰から見るのに、最適な場所なんです」
「お前そんなにまでしてタチアナが見たいのか?」
呆れ返ってアル様が言われた。
「良いじゃないですか。私、タチアナ様のファンなんです」
「えっ、あの極悪令嬢のか?」
驚いた声でアル様が言われた。
「何を仰っていらっしゃるんですか。極悪令嬢って、それはタチアナ様はツンデレだからそう見えるだけです」
私はタチアナ様のために言い切った。
「ツンデレって何だ?」
アル様は不思議そうに聞いてきた。
「恥ずかしがりなので、思っていることを素直に言えずに、思わず逆のことを言ってしまう人のことです」
「あのタチアナがか? いつも意地悪なことをズバズバ言うタチアナがか? 到底信じられないが」
アル様が首を振った。
「本当ですよ。タチアナ様は本当にクンラート様のことを想っていらっしゃるんです」
「本当かよ?」
アル様は信じていないみたいだけど、本当なのに!
私がムッとしてアル様を見る。まあ、こうしてみるとアル様も美形だ。
「お前この前、『タチアナがいつも寝る前に婚約者の絵姿を前にして、今日あったことを色々反省しておられる』って言ったけど、そもそも、何でそんな事知っているんだよ」
アル様に言われて私はビクッとした。そうだった。そんな事をつい口走ってしまったのだ。やばい、ゲームで知っているなんて絶対に言えない。
「私夢で見たんです。タチアナ様がそうしていらっしゃるところ」
「何だ、夢かよ」
アル様が馬鹿にしたように私を見た。
「あっ、今、私の夢を馬鹿にしましたね。私の夢はよく当たると有名なんですよ」
「どこでだよ。街のおばちゃん達の井戸端会議とか言うなよ」
アル様は馬鹿にしたように言った。
「もう、馬鹿にして」
私はムツとした。ゲームをやりまくった私はある程度のことが判るのだ。
「例えば、王太子殿下が隣国の姫様に振られるんです」
「えっ」
アル様は驚いた顔をされた。
「何でも護衛の騎士様と良い仲になられたとかで。王太子殿下もいい面の皮ですよね」
「何で知っているんだよ」
なんかアル様は怒ったような顔をして言った。
「えっ、現実になったんですか? 夢の中の事なのに」
私も驚いて言った。確かゲームの中でそんな事があったような気がして適当に言っただけなのに。
「と言うか、何故アル様が知っていらっしゃるんですか?」
私は驚いた顔をしていった。クンラート様と普通に話されているので、高位貴族だとは思ったけれど、王太子殿下ともお近いのだろうか?
「何も知らないのか。本当にこいつは天然だな」
何かぶつぶつアル様は仰っていらっしゃる。
「ああ、いたいた、アル探したぞ」
そこになんと、クンラート様御本人がいらっしゃったのだ。
「何だ、お前もいたのか」
驚いたようにクンラート様は私を見られた。
げっ、せっかく隠れてみていられたのに。この腐れクンラートめ、タチアナ様をほったらかしにして何でここに来たんだ?
「何でここに来たってアルと食事の約束をしていたからだろう」
ムッとしてクンラート様がおっしゃった。
「えっ、私の声、聞こえていました?」
私は驚いて聞いた。
「ああ、バッチリとな、腐れクンラートなんて初めて言われたけれど」
怒った顔でクンラート様がおっしゃる。
「さっきのクンラートに対してウスラトンカチというのもはっきりと聞こえたぞ」
本人を前にして言わなくてもいいのに、横からアル様がおっしゃった。
私は真っ青になった。
「も、申し訳ありません」
私は立上って頭を下げた。
「私1年生のシルフィア・バースと申します」
私は慌てて立ち上がるとカーテシーをした。一応お貴族様にはこうしろと言われている。
「ほう、平民のくせにちゃんと挨拶は出来るんだ」
驚いたようにクンラート様がおっしゃった。本当に言うことは憎たらしい言い方だ。タチアナ様に冷たくするはずだ。
私がムッとしていると
「バースの娘か」
驚いたようにアル様がおっしゃった。
「えっ、父をご存知なんですか?」
私は驚いて聞いた。
「アントン・バースの娘だろう」
「ああ、あの財務省の」
クンラート様までがおっしゃった。
へえええ、お父様って結構有名なんだ。私は初めて知ったのだ。
そうこうしている間に、私はもう一度タチアナ様がいらっしゃった席を見たら、もうそこにはいらっしゃらなかった。立ち去る前に私達の方をきっと鋭い視線で睨みつけられていらっしゃったなんて私は知らなかったのだ。
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