推しの悪役令嬢を応援していたら自分がヒロインでした
古里@3巻発売『王子に婚約破棄されたので
第1話 プロローグ 入学式で悪役令嬢の秘密をバラしてしまいました
幾多の物語の中からこの話を読んで頂いてありがとうございます。
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私は入学式に遅れそうになってとても急いでいた。途中の道が混んでいたから?
いや違う。集合時間を30分間違えていたのだ。
この王立学園の入学式の集合時間が8時30分だったのを、開始時間の9時を集合時間と間違えていたのだ。受付で気付いて、慌てて今、講堂に向けて走っているところだ。入学式の初めから遅刻なんて流石に許されないだろう。
こんなことなら時間があると思って、きれいな花畑が途中にあったので、花なんて摘んでいるんじゃなかった。うっかり者の私はその花を花輪にして頭に乗っけているのも忘れていた・・・・
講堂の入り口が見えてホッとした時だ。
私は横から人が歩いてくるのに気づいた。
でも、気付いた時には遅かった。走る速度は、少しゆっくりになっていたが、もろにその人にぶつかってしまったのだ。
「す、すいません」
抱き止められるような形になって私はその人を見た。
そして、私は唖然とした。
その人の髪はきれいな金髪だった。そして、怒った目の色は緑色の目だった。目鼻形も整っている。とても美人な人だった。でも、私が驚いたのはそれが原因ではない。私はその人が誰か判ったのだ。
「タチアナ・ブールセマ!」
私は思わず呟いていた。そう彼女は公爵家の令嬢で、このゲームの世界の悪役令嬢タチアナ・ブールセマだったのだ。
「ちょっとそこの貴方。いきなり私のことを呼び捨てなんてどういう事」
令嬢は怒った視線で私を見た。や、やばい!
「も、申し訳ありません」
私は思わず頭を下げていた。そうだ。彼女は公爵令嬢なんだ。私がおいそれと話せる人ではないのだ。
「それに平民の分際で、この私、公爵令嬢のタチアナ・ブルーセマにぶつかってくるなんて1万年早いわ。学園則で生徒は皆平等と建前で謳っているのを勘違いするんじゃないわよ」
怒りのオーラ全開で平民の私に言い切ってきたのだ。私は固まってしまった。
「ちょっとそこの貴方。聞いているの?」
私はその声にコクコク首を振る。
「本当に近頃の平民は礼儀作法もなっていないのね」
タチアナが言い募って更に文句を言おうとした時だ。
「おいタチアナ、お前、言うことがきつすぎるだろう」
横から誰かが私を助けようと口を出してきてくれた。
男はそう言うと私の前に立ち塞がって、タチアナから守ろうとしてくれた。
「ク、クンラート様。あなた平民の女が少し可愛いからって庇いますの?」
タチアナ様はきっとしてその男に反発していた。この男はクンラート・ベーレンズ、王弟ヨハン大公の子供だ。そして、確かタチアナ様の婚約者のはずだ。
「何言っているんだよ。この子はどう見ても、右も左も分からない平民の新入生だろう。そんなにギャーギャー言う必要はないだろう。お前の態度を見ていると本当に嫌になるんだけど。もう少し優しく接することが出来ないのか? 本当にお前は優しさのかけらもないんだな。可哀想にこの子は震えているじゃないか」
「何ですって、私は・・・・」
タチアナ様は言い返そうとしておられるが、男は無視して私の傍に近づく。それを見てタチアナ様が少し悲しそうな顔をする。
「大丈夫か?」
美男子は私に声をかけてきてくれた。本当に普通ならば紳士の鏡だろう。でも、私は男のことなんて見てもいなかった。
タチアナ様の目の涙を見ていたのだ。私の推しの悪役令嬢になんてことするのよ。私はプッツン切れていた。
「ちょっと、あなた! タチアナ様になんて酷いこと言うの!」
私はきっとして男を睨めつけたのだ。
「えっ」
私を庇った男は唖然として口を開けていた。そらあそうだろう。普通は高位貴族にきつい言葉で注意されているところを庇ったのだ。感謝こそすれ、怒られるとは思ってもいないのだろう。
でも、私はゲームの中のタチアナ様が一番好きなのだ。そんな彼女に酷いことを言う婚約者は許せなかった。
「タチアナ様はツンデレなだけよ。心はとても優しいのよ。
それは発する言葉はきついけれど、恥ずかしがっているだけなのよ。タチアナ様はいつも下々のことをとても気にしてくれているのよ。孤児院に慰問に行って見えないところで子どもたちと遊んだり、子供が病気だと聞いたら、『賞味期限前の安物の薬をあげるわ』と言ってとても高価な薬を無理やり飲ませたり、侍女の子供が寝込んでいたら、『あなたなんか役立たず、今日は必要ないからお帰り』と侍女に辛く当たったふりをしてさっさと帰らせたり、本当に気にしておられるのよ。それにいつも寝る前に婚約者の絵姿を前にして、今日あったことを色々反省しておられるのよ。
『どうしたらもう少し優しく出来るか』って何よ! その言い方。
あなたがきつい事ばっかり言っているから、正直になれないだけじゃない。あなたもたまには優しい言葉をタチアナ様にかけて上げなさいよ」
私は何も考えずに、王弟である大公殿下のご子息相手に言っていたのだ。
しまった、やってしまった・・・・そう気付いたときは手遅れだった。
私は真っ赤になって恥ずかしがっているタチアナ様と唖然として口を開けているクンラート様の前で言い過ぎたことに気付いてしまった。
どうしよう? 私は言い過ぎたことに気付いてしまった。そう、それはゲームをしないと知られないことだったのだ。一平民がどこからそういうことを知ったのだ? と突っ込まれたら答えようがなかった。
「あ、はっはっはっ」
いきなり後ろから笑い声がした。
慌ててそちらを見ると栗色の髪に金眼の整った顔の男がいたのだ。
「お前すごいな。冷たい瞳のクンラートを呆然とさせるなんて」
男は私を見てお腹を抱えて笑っていた。
「アル、笑うな」
むっとしてクンラート様が言う。
「いやあ、すまんすまん。真っ赤になるタチアナ嬢も始めてみた」
「アル様。私は真っ赤になんぞなっておりませんわ」
プイッと横を見るタチアナ嬢はしかし、まだ赤かった。
この男の人はアル様というのか、ゲームには出てこなかったから、私と同じでモブでもない登場人物なんだろう。
「それより良いのか。もう入学式が始まるけれど」
アル様の言葉に私たちは慌てて入学式の講堂に向かった。
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