ニートとハエの戦い。
僕は虫嫌いで虫の侵入は絶対に許さない。
でも、どこからともなく侵入するのが虫どもの嫌なところだ。
いつもどうり自室で昼飯を食べていたときのことだ。事件は起きる。
耳のそばをブウゥンと飛翔する何かが掠めた。目視する必要もなくわかった。ハエだ。ハエの羽音はわかりやすい。。蚊はプゥ~ンと軽く間抜けな音だ。比べてハエはも重く速い。ブウゥンなのである。
ハエという害虫のムカつくところは見た目の気持ち悪さもさることながら、一番は耳や視界の隅を掠めて俺を挑発するところだ。あいつがいるだけで頭が割れそうに痛くなる。せっかくの食事が台無しだ。俺の怒りをかったハエを生きて帰すわけがない。
食べていた冷やし中華を冷蔵庫へ避難させた。これからは戦争が始まる。自作し手間をかけた冷やし中華なんだ。何かがあってはいけない。
部屋には俺とハエ一匹。
右手に殺虫剤を握り、ヤツの気配を探る。さながら西部劇のガンマンだ。
呼吸を整え集中する。視界、聴覚、触覚を研ぎ澄ませる。
ブウゥン。
背後からの奇襲。ハエが右耳を掠め一瞬で姿をくらました。
しかし、背後から来たヤツは前方にいるはずだ。
目を凝らすが見つからない。
もう逃げ切ってしまったのか?
まだだ。見つけろ見つけろ。壁、カーテン、本棚、積みプラ、ウルトラマンのフィギュア。必ずいるはず。
しかし、いないいないいない。どこにもいない。そんなはずはない。しっかり見ろ。ちゃんと考えろ。ハエが行きそうなところ。見逃しているところ。考えうるすべてを。
あった。
俺はばっと天井を見上げた。
いた。頭上を飛び回り俺を見下ろしている。
俺は殺虫剤の銃口をヤツに向ける。遮るものはない放出される殺虫剤はヤツに直撃した。
これで奴はおしまいだ。ハエは力なく床に落ちた。
俺は死骸の処理を使用をヤツが落ちたであろう場所に向かった。
しかし、ヤツの死骸は見つからなかった。
殺虫剤が命中したのは確かだ。確実に仕留めただろう。
誤算である。ハエが落ちるところを確認したとはいえ、死骸を見つけられるとは限らない。
死骸をロストした。
えも言われぬ不安が俺を包み込んでいた。
数日後、俺の不安は的中することになる。
ハエは1個ずつ卵を産むのがほとんどだ。しかし例外もある。
腹の中で卵を孵し、幼虫の状態で産まれるハエがいる。
基本的にヤツらを食べ物の上に幼虫を産み落とすのだが、死んでしまった場合、自ら母体から這い出るのだ。
そのまま母体もろとも骸になっていればいいものをヤツらには殺虫剤が効かない。
まったく、ハエの生存本能には吐き気がするものだ。
8月もあと数日で終わる。前日の大雨もあってかすこし涼しくなり始めていたころ。部屋の隅に1匹のハエの死骸を見つけた。ハエとの戦いから10日ほどたったている。
ハエはしおしおに干からびていた。俺はティッシュでハエを包みゴミ箱へ捨てた。
そのときだった。
ブウゥン。
ヤツだ。
親の仇と言わんばかりに俺の周りをハエが飛び回っている。
そろそろだと予感はしていた。ハエは大体2週間で成虫になる。やはり幼虫を産んでいたか。新たな戦いが始まった。
俺は壁に張り付いた瞬間を狙って殺虫剤を放つ。
ハエは床に落ち、俺を批難するようにぴくぴくと足を動かしている。
今回はあっさり仕留めてしまった。しっかり、死骸をティッシュに包みビニール袋に入れてすりつぶした。また、幼虫を産まれては困るからだ。
ブウゥン。
やはりまだいたか。
以前、ハエの死骸から幼虫が出てくる瞬間を見たことがある。
大体、3~5匹ていど出てきたことを記憶している。
あと4匹は確実にいる。長い1日になると思った。
しかし、ことは簡単に解決してしまった。
2匹目はトイレのLEDに張り付いているのを見つけ仕留めた。
3匹目はゴミ箱の乗っているところを仕留めた。
以降、もうハエは見当たらなかった。きっと、外に逃げてしまったのだろう。
もう入ってこないことを願う。
夏の終わり。残暑はまだまだ続くだろうけど、虫のいない季節に喜びを感じながら。
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