感情消失
和翔/kazuto
プロローグ
この世界に来てから一体何年経っているというのだろうか。
毎日なにか起きている気がする。退屈をしないと言えばそうだが今では地球で毎日呆けていた生活も良いものだと思う。
地球とは違うここは通称『二次世界』やら『亜地球』というが、俺等からすればただ都合のいいように使ってるだけだと思える。
俺等というのはこの世界に来た日本人、地球人のことを言う。どうやら200年前くらいから若者がどこからともなく現れるという。いわば転生だ。
そもそも地球人は好きで転生しているわけではない。だがそんな地球人のせいで今の二次世界は堕落していると思う。
この世界に元からいた人種を『亜人』と言い差別したり、人と人との対立を生んでいたり、とこの世界に来た地球人は傲慢に生きている。
ちなみに『亜世界』や『亜人』にある『亜』の文字には『次ぐ』いわば『二番目』という意味があるらしく地球人はつくづくこの世界をなめてると呆れる。
この世界には魔法の概念がある。地球人の思うような魔法とは違い意外と原始的だ。
詳しくは「クォークの量と時空間の相対性」とややこしくなるが、いわば火や水、空気に土と作ったり壊したり生成したり破壊したりと錬金術を掌で簡単に起こすことができる。
地球と違った法則があるのはきっと遠い銀河に来たからだ。
きっとどこかのお偉いさんが言ったのだろう。空を見上げれば月と太陽に惑星が見える、それらはすべて地球の周りをまわっていると。
『天動説』と言い『錬金術』と言い考えが古いのはそもそもこの世界の進歩がまだまだなのだろうと思う。
他に古いと言えばこの世界には先にも言ったように差別がある。この世界では元から人間がいた、だがそこに地球人が転生してきた。
もちろん国も違えば世界も違うのだから言葉なんて当然通用しない。だが知能は地球人の方が高い。同じレベル同士でしか争いは起きない。逆に言えば一方が優れていれば対立は成立すらしないのだ。
それがこの世界では起きてしまった。今の世の中では差別アンチもいるが立場は地球人の方が高い。
そんなはたから見ればゴミのような地球人はさらに欲を求めた。地球ではこれ以上はどうすることもない。が、遠い銀河の果てにある別の世界。
この世界で欲を出すのは『正解』だったようだ。
どういう原理なのかはいまだに解明されていない。この世界には不思議な道理がある。
『対等の代償を払い強く願えばなんでも叶う』
例えばリンゴが欲しいとする。心の中でリンゴが欲しいと強く願い同じ価値のものを持っていればそれが消えリンゴが手に入る。
この道理は転生してきた日本人にとってはこれ以上のないギフトだった。
今ではほぼすべての人がアニメや小説のように能力を持っている。どうやら願い事は概念でも叶ようだ。
これは日本人には「チート」と言われていた。確かにチートのようなものだが呼び方が安直だなと呆れる。
「皆、一度黙ってくれ」
どうやら久々の会議で深く考えすぎたようだ。目を開く。
視界には橙、金、茶、青、桃、白、緑と特徴的な7人が円に並んで座っていた。
俺は頭を雑に掻く。手に付いた黒い毛を見て不意にこれら全てが地毛だというのは奇跡と言っていいだろうと考える。
俺含む8人は二次世界の秩序を等しくしようと働く、通称は「感情のないメンバー」だ。
名の通りこの8人には感情が一つずつ欠けている。これもこの世界の道理のせいだ。
まるで中学2年生で発症する例の病気のようだが俺らは失った感情を取り繕うこともできるし感情全てがないわけではない。
もっとも、俺は『喜び』の感情がないが何も不便に感じない。何ならない方が正直冷静でいられて便利だと思っている。
もちろん目に写っているカラフルなこいつらも感情はないが普通にしている。今考えればない感情がお互いかぶってないのも奇跡だと感心する。
ふと考えを現実に戻す。
「そういやお前、なんで俺らを集めたんだ?」
大きすぎる城の一室。円に並んだ皆を見て疑問を感じた。
俺が考えにまた深く入り込む前に例の橙は机を叩いて突然立った。
「旅しようぜ!」
「は?」
冬が終わり暖かくなってきた時期に不意に告げられた旅宣言。どうやら俺等を逃してはくれなさそうだ。
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