狂気は少女の姿をしている

末千屋 コイメ

第1話

 僕のおばあちゃんの部屋の隅には、鏡がある。

 鏡にはいつも布がかけられていて、おばあちゃんに理由を尋ねたら「繋がっているからよ」と答えてくれた。

 何処に繋がっているかまでは答えてくれなかった。

 おばあちゃんはその三日後に入院して、そのまま帰らぬ人になった。鏡が何か関係しているかわからない。

 両親に尋ねても「鏡はおばあちゃんのものだからわからない」としか答えてくれない。

 僕はおばあちゃんの鏡を貰うことにした。自分の部屋に運んで、布を外してみた。

 僕が小さい頃はこんな布じゃなくて、着物の帯をかけられていた気がする。

 僕は何度か布が外されている鏡を見たことがあるはずだ。そうでないと、鏡だって、ぱっと見でわからないデザインだから。

 鏡には僕が映っている。おかしなところは特に無い。

 考えていると窓から夕陽が射し込んだ。僕はあまりの眩しさに目を閉じる。

「こんにちは」

 その声は、鏡から聞こえた。目をゆっくり開く。僕の目の前には、オレンジ色の髪に赤い目の女の子がいた。

 鏡に僕の姿は映っていない。女の子が目の前で笑っている。

「あなたが新しい持ち主でございますね。随分と若いご様子で」

「あ、あの、きみは?」

「アラ? なんにもご存知無い? これはこれは……愉快愉快」

 僕の言葉を聞いて鏡の中の女の子は更に笑う。にんまりと裂けた口から尖った歯が見えた。

わたくしは、あなたに永久とわの安らぎをお約束いたします。痛みや苦しみ、ありとあらゆる悪想念から解放いたします」

 そう言って、彼女は鏡の縁を掴む。

 まさか、出て来るのか? 実際に指先はもう出ているけれど。

「私の名は、こやけ。以後お見知り置きを。新たな持ち主さん」

 狂気は、少女の姿で現れた。

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