第2話 大きな公園

 休日の土曜日。私は自宅から少し離れた大きな公園に着いた。広々とした芝生の周りにランニングコースがある。そこでは高校生から50代以上の人まで10人以上がランニングで汗を流していた。私は準備運動をし、ランニングを始めた。


 最初は軽めに走り、徐々にスピードを上げた。心地よい天気の中、気持ちよく汗をかいた。休日は歩道を走ったりしているが、公園で走ると景色が違って新鮮な気持ちだった。先日の嫌な思い出を吹き飛ばしてくれた。


 30分ほど走り、少し休憩した。私は休憩しながらランニングしている人の姿を眺めていた。


 (たまには人に交じって走ってみるのもいいなあ…。顔、覚えてもらえるといいな…)


 10分ほどの休憩をはさみ、ランニングを再開した。1時間ほど走ったが、まだまだ走れそうだ。


 「お姉ちゃん、体力あるねえ。負けんぞ」


 50代の男性が声を掛けてくれた。


 男性は少しスピードを上げ、前の人を抜いて行った。


 私はその後20分ほど走り、コースを離れた。タオルで汗を拭いながら水分補給をした。

 

 すると、30代くらいの男性が声を掛けてきた。


 「お姉さん、速いですね。俺、どんどん離されていって…。どうやったらあんなに速く走れるんですか?」


 「それはですね…」


 私は男性と楽しく会話をした。男性は工場で働いているそうだ。短髪で色黒。まさにスポーツマンという印象だった。しばらく会話をし、挨拶をして別れた。


 (感じのいい男性だったな…。結婚してるのかな。してるよね、きっと)


 そんなことを考えながら帰る準備をした。


 (顔見知りの人ができて嬉しかったな…。多くの人と出会っていろいろ勉強しよう。恋も社会のことも)


 高校時代から遊ばれ続けて、話し掛けてくる男は遊び人ばかりだった。口説かれてついて行ってあられもない姿を晒す。そんなことを繰り返していた。気が弱いからどうしても断れない。そこをうまく利用されたのだと思う。


 今まで話し掛けられた人数は30人を超しただろうか。傍から見ればモテる女の子に見えるかもしれないが、相手に恋愛感情はない。体だけが目当てだった。それは分かっていたが、誘われたのが嬉しくてついて行ったはいいが、結局痛い目に遭う。


 先日の男性の時もそうだった。


 高校時代は先輩と2人で遊びに行った帰りに部屋であんなことをされ。就職しても街で声を掛けられ、そのまま男性の家であんなことをされ。結局、何も変わっていなかった。


 見た目も中身も遊び人だと分かっているのに誘われたのが嬉しくてついて行ってしまう。悪く言えば尻軽なのかもしれない。


 変わろうと努力はしているが、この気の弱さが邪魔をしてなかなか変わることができない。性格を直すのは簡単ではない。直すにしても相当な時間がかかる。


 何とかできないか考えたが、なかなか思いつかなかった。


 自宅に着き、シャワーを浴びた。


 部屋着に着替え、自分の部屋に入った。


 (藍子は今日出勤か…。私は明日出勤で、藍子はお休み)


 ふと、そんなことを考えていた。藍子にもっとアドバイスを求めていたのかもしれない。


 (でも、藍子ばかりに頼ってはいられないもんね…。何とか自分の力でやれるところまでやってみよう)


 翌日、朝8時に出勤し、仕込みなどを始めた。カフェの従業員はみな仲良しで、何でも話せる仲だ。仕事の相談やプライベートでの悩みなど。


 「ユウちゃん、悪い男に引っかかっちゃだめだよ?いい男紹介するよ」


 「ほんと!?でも、自分の力で見つけたいな」


 「そういうところユウちゃんらしいね。男の人に対してもそう言えればいいんだけどね」


 「何とかならないかな」


 「性格ってなかなか直らないからね…」


 「そうだよね…。でも何とか頑張ってみる」


 「頑張って!」


 店が開店し、お客さんが来店した。日曜日ということもあって、ご夫婦でいらっしゃるお客さんも多かった。


 ご夫婦の姿を見て少し嫉妬している自分がいた。なかなか恋人ができないもどかしさがあったからだろうか。だが、それは一瞬のこと。お客さんと話しているとそんな気持ちはなくなった。


 (みんな、いい人ばかりだなあ。お客さんも従業員も。就職する前はなかなかこういう人たちと出会えなかったから…)


 今の自分は恵まれていると実感した。


 (みんな、どうやって出会ったんだろう。聞きたいけどちょっと聞きづらいよね)


 聞きたい気持ちを我慢して仕事をした。


 営業時間が終了し、食器洗いなどをした。従業員はいい雰囲気の中、閉店後の作業をしていた。


 すると、同僚の亜希が声を掛けてきた。


 「ユウちゃんってさ、どんな人が好みなの?」


 「うーん…。私のことを好きでいてくれる男性ひと?かな…」


 「ユウちゃんらしいね、その答え。見つかるといいね。応援してるからね」


 「ありがとう!」


 今まで声を掛けられた男性に好意を持ってくれた人はいなかった。だからこそ出た答えであった。


 (私を好きになってくれる男性ってどんな人かな…。見つかるといいな…)


 そんなことを考え、食器洗いを続けた。

 

 

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