夢捕獲

@tasogarehigure

第1話

一人で帰る学校からの帰り道。


毎日見慣れた道を通り、見慣れた顔とすれ違う。いつも同じ信号で待ち、同じ踏切で止まる。


夕日を見つめながら立ちこぎをし、土の香りの風を感じる。


赤い金色の地平線を見つめながら、世界が人によって開拓されるずっと前の、大自然を想像する。


この暖かくて切ない気持ちがいつまでも続いてほしい。




「ただいま」


重たいドアを開けて靴を雑に脱ぎながら玄関に重たい荷物をため息とともにどさっと下す。


「おかえり」


夕食の支度をしている母の横からフライパンを覗くと、こんがりと焼けたお肉と野菜が炒められている。


再び玄関で重い荷物を持ち上げ、自分の部屋へと向かう。



気合でお風呂と眠る準備を終えた私は、扇風機をつけ、ベッドに倒れこむように横になる。


今日も疲れたな...


横になりながら真っ暗な部屋でスマホを手に取り、なんとなくいじる。


“フランスで相次ぐ異常気象”

“深夜から早朝にかけて雷に注意”

“人間の脳の新たな可能性”


「......」


液晶を見ているとだんだんと眠気が深くなっていく。





真っ暗...かと思えば灰色。


かと思えば紫の月明りが視界を覆う。


ぼうっとしながら体を起こす。


青紫に光る窓の外を見ると、水色に光る花が、蛍が、星の海のように広がっていた。


外に出てみたくてたまらなくなった私は、跳ねるように体を起こして歩き、窓の横にある玄関のドアノブを捻り、勢いよく開いた。


すると涼しい風と共に金色の光の粒がシャワーのように全身に浴びせられる。


「わあ...」


ゆらゆら光り一面に広がる水色の花々に、瞬きをする小さな金色の光や、七色の星空に浮かぶ大きな月の宝石。


あたりを見回していると、蛍のように光る星屑が飛んできて頬をぽわんと撫でる。


この景色はどこまで続いているのだろう。


わくわくしながら大きく一歩を踏み出そうとすると、体がとても軽く、ふわりと宙に浮いた。そしてゆっくりと着地し、また踏み出してはふわりと着地する。


そして時々立ち止まっては裸足で草むらの感触を楽しむ。


草花の坂道を下ると、かわいらしい屋根の家がぽつぽつと建っていた。


ふと目に止まったのは青い屋根の家。その家からだけ暖かい光が漏れている。


絵本に出てきそう。


中にどんな人が住んでいるのか気になって、好奇心のままにドアをこんこんとノックする。


しかし反応は無く、涼しい風音と、舞っている星屑がぽたぽたと家の壁や屋根にぶつかる音だけが聞こえる。


あたりの息を飲むような景色を眺めながらぼうっとしていると、きぃぃとドアが開き、暖かな光が私を包んた。


はっと驚いてそちらを振り向くが、そこには誰の姿も見えない。


『どこみてるの。』


不意に幼い声が聞こえた。


『えっ...』


周りを見渡すが誰も居ない。


『もっと下だよ。』


靴下を引っ張られるので足元を見てみると、可愛らしい紫の猫がいた。


『あらこんばんは』


なんだ、ちっとも怖くなさそうだ。


しゃがんでにんまりと見つめると、空色の目で不思議そうに見つめ返される。


『こんばんは。今日はどうしたの?』


『あ、いや、特に用があるわけじゃ無いんだけど...。』


『あそう、じゃまたね。』


そう言いながら扉を閉めようとするので慌てて扉を抑える。


『待って、猫さん。』


その言葉に耳をぴくっと動かして、猫の口が笑った。


『ふふ、猫さんに見える?』


『え?』


猫が急に後ろ足で立ち上がり、深く息を吸うと、辺りを舞っていた星屑がゆっくりと加速しながら彼女の周りを渦巻き、集まり輝いた。


私はその眩しさに目をギュッと瞑る。


再び目を開けるとそこには銀髪で紫の帽子を被った小学生くらいの女の子が立っていた。


唖然としていると、満足そうな表情でふふっと笑う。


『一緒にお散歩しようよ』


手を握られ、ぐいと引っ張られる。


『お散歩?...うん、いいよ』


走り出す彼女に訳もわからぬまま手を引かれながら先程の坂道を上り、水色の花の群れを通り過ぎて、見た事もない程大きな笠の木の下で立ち止まった。


『この木はね、なんでも願いを叶えてくれるんだって』


大きな木の根に二人で座り、上を見上げると青く光る丸い木の実がイルミネーションのように飾られている。


『お願い事よくするの?』


『よくって程じゃないけど、どうしても叶えたい時にはね。』


『ふーん...』








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