前の世界の元猟師は異世界で狩人となる
信仙夜祭
第1話
「む……。魔物が近くにいる……」
私は、手でパーティーメンバーを制止した。ハンドサインを出す。
神経を尖らせる。
だが、パーティーメンバーの一人が、質問して来た。
「俺……、
「……前方、10キロメートルといったところか? ウサギだな」
パーティーメンバーが、全員ため息を吐いた。
「そんなの、ヘーキチさんだけですって。10キロメートル先の魔物に対して、ハンドサインですか? しかもウサギ? この人数じゃ腹の足しにもならないじゃないですか?」
彼等は、鹿とか熊を狩りたいらしい。肉が欲しいのだそうだ。
だが、私から言わせて貰えば、ウサギすら狩れない者が、戦闘などできようはずもない。
まあ、私は前の世界で虎や熊と素手で格闘していたのだが。
「他に魔物の気配はないのだろう? ボウズで帰るよりは、いいかと思うが……。採集に切り替えるか? 籠は持って来ていないよな? だが、マジックバッグもあるのだし……」
「俺達にヘーキチさんを疑う気はないですよ。従いますって」
私の信頼度は、それなりのようだ。
まあ、異世界転移して、半年が経つ。
それなりに功績も積んで来たと言うことだろう。
「行くぞ」
「「「へ~い」」」
◇
「あれだな……」
「ミスリルラビットじゃあないですか!? 体内に高純度のミスリルの核を溜め込んでいるって言う。初めてみました!」
レア種なのか?
「……静かにしろ」
望遠鏡で、状況を確認する。
取り巻きの雑魚は、十匹……。
こちらは、四人。
雑魚を相手にしていると、目的のミスリルラビットは逃げるだろう。
だが、四人でミスリルラビットのみを狙うと、こちらにも被害が出る……。
『何時もの方法で行くか』
「ジョブス、近くに植物系の魔物はいないか? ミスリルラビットの食料になる魔物だ」
「……ウォーキングトレントが、移動していますね」
「それで行こうか」
まず、ウォーキングトレントを捕獲する。この魔物は、繁殖域を広げるため、自ら歩く植物だ。
しかも、移動中は、かなりの無防備。
捕獲は容易かった。
ウォーキングトレントを、ミスリルラビットの近くで開放する。もちろん風下は確認済み。
私達は、少し離れて観察をする。
「ねえ、ヘーキチ……。餌に食いついたらどうするの? 毒でも使うの?」
「トウカ……。弓の準備を」
「りょ~かい」
トウカは、紅一点の女性だが、弓の腕は確かだ。
「シャドウ……。頼めるか?」
シャドウは、無言で頷いだ。魔法で、罠の準備を開始した。
私は、銛を構えた。
準備完了だ。
後は、餌に食いつくまで、気配を殺せるかだな……。
◇
一時間後、ミスリルラビットの群れが餌に喰いついた。
私は、一斉攻撃の合図を出す。
トウカが、次々に魔物のラビットを仕留めて行く。
矢が逸れたラビットは、ジョブスが一匹ずつ片づける。
それと、シャドウの動きは分からないが、範囲殲滅において、彼ほど信頼できる者もいない。
魔法の知識……。私も覚えないとな。
私は、魔力を開放して行く。
そして、銛を構えた。投槍だ。
混乱に陥った、ミスリルラビットが、私に背を向けて走り出した。
ミスリルラビットは、土と光属性を持つレアな魔物だ。二重属性の魔法を使われる前に仕留めたかった。
「……隙だらけだな。私を脅威と認めたか」
投槍を行う。
向かって来られるよりは、背を撃ちたい。全てが、私の思い描いた通りに進んでいる。
そして次の瞬間に、銛がミスリルラビットを貫いた。
「魔法と言うか、魔力は便利だな。身体能力を強化してくれるだけで、敵がいない」
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