前の世界の元猟師は異世界で狩人となる

信仙夜祭

第1話

「む……。魔物が近くにいる……」


 私は、手でパーティーメンバーを制止した。ハンドサインを出す。

 神経を尖らせる。

 だが、パーティーメンバーの一人が、質問して来た。


「俺……、斥候レンジャーですけど、なにも感じませんよ?」


「……前方、10キロメートルといったところか? ウサギだな」


 パーティーメンバーが、全員ため息を吐いた。


「そんなの、ヘーキチさんだけですって。10キロメートル先の魔物に対して、ハンドサインですか? しかもウサギ? この人数じゃ腹の足しにもならないじゃないですか?」


 彼等は、鹿とか熊を狩りたいらしい。肉が欲しいのだそうだ。

 だが、私から言わせて貰えば、ウサギすら狩れない者が、戦闘などできようはずもない。

 まあ、私は前の世界で虎や熊と素手で格闘していたのだが。


「他に魔物の気配はないのだろう? ボウズで帰るよりは、いいかと思うが……。採集に切り替えるか? 籠は持って来ていないよな? だが、マジックバッグもあるのだし……」


「俺達にヘーキチさんを疑う気はないですよ。従いますって」


 私の信頼度は、それなりのようだ。

 まあ、異世界転移して、半年が経つ。

 それなりに功績も積んで来たと言うことだろう。


「行くぞ」


「「「へ~い」」」





「あれだな……」


「ミスリルラビットじゃあないですか!? 体内に高純度のミスリルの核を溜め込んでいるって言う。初めてみました!」


 レア種なのか?


「……静かにしろ」


 望遠鏡で、状況を確認する。

 取り巻きの雑魚は、十匹……。

 こちらは、四人。

 雑魚を相手にしていると、目的のミスリルラビットは逃げるだろう。

 だが、四人でミスリルラビットのみを狙うと、こちらにも被害が出る……。


『何時もの方法で行くか』


「ジョブス、近くに植物系の魔物はいないか? ミスリルラビットの食料になる魔物だ」


「……ウォーキングトレントが、移動していますね」


「それで行こうか」


 まず、ウォーキングトレントを捕獲する。この魔物は、繁殖域を広げるため、自ら歩く植物だ。

 しかも、移動中は、かなりの無防備。

 捕獲は容易かった。


 ウォーキングトレントを、ミスリルラビットの近くで開放する。もちろん風下は確認済み。

 私達は、少し離れて観察をする。


「ねえ、ヘーキチ……。餌に食いついたらどうするの? 毒でも使うの?」


「トウカ……。弓の準備を」


「りょ~かい」


 トウカは、紅一点の女性だが、弓の腕は確かだ。


「シャドウ……。頼めるか?」


 シャドウは、無言で頷いだ。魔法で、罠の準備を開始した。

 私は、銛を構えた。

 準備完了だ。


 後は、餌に食いつくまで、気配を殺せるかだな……。





 一時間後、ミスリルラビットの群れが餌に喰いついた。

 私は、一斉攻撃の合図を出す。


 トウカが、次々に魔物のラビットを仕留めて行く。

 矢が逸れたラビットは、ジョブスが一匹ずつ片づける。

 それと、シャドウの動きは分からないが、範囲殲滅において、彼ほど信頼できる者もいない。

 魔法の知識……。私も覚えないとな。


 私は、魔力を開放して行く。

 そして、銛を構えた。投槍だ。

 混乱に陥った、ミスリルラビットが、私に背を向けて走り出した。

 ミスリルラビットは、土と光属性を持つレアな魔物だ。二重属性の魔法を使われる前に仕留めたかった。


「……隙だらけだな。私を脅威と認めたか」


 投槍を行う。

 向かって来られるよりは、背を撃ちたい。全てが、私の思い描いた通りに進んでいる。

 そして次の瞬間に、銛がミスリルラビットを貫いた。


「魔法と言うか、魔力は便利だな。身体能力を強化してくれるだけで、敵がいない」

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