「初めて面談した日、久城さん言っていましたよね。いくらムービーが綺麗でも、それだけでは神ゲーにはならないって」


「…………言った……気がする……」


 なんか上手いこと言いたかったのだろうか。にしては我ながら微妙な例え話だ。


「最初は、何を言ってるんだろうって思いました」


 浬のSPが80減った。


「でも、少しずつ理解出来てきた気がします。……星七ちゃんが、さっき言ってました。久城さんは、人の能力スキルを見極めて引き出すのが凄く上手な人。そんな人のもとで働けて、私たちは幸運EXだって」


「……え。天宮が?」


「はい。その言葉を聞いて、私も思ったんです。どんな個性でも受け入れて、その人の能力スキルとして生かしてくれる久城さんがいるから、アスクロチームはここまでレベルアップ出来たと」


 これはボーナスステージだろうか? 先ほど削られたSPが回復するどころか、MAX値をオーバーして気恥ずかしさが込み上げてくる。気を紛らわすためにコーヒー缶を空けようとするが、上手く引っかからない。カツカツと爪があたる音が空回るだけ。


 雪平は、おしるこミルクサワーをぐいっと煽った。当然アルコールは入っていない飲料なのに、その頬が少し紅潮している。どんな味なのかと聞きたい気持ちもあったが、何となく空気がそうさせてくれない。それにしてもこの部屋、こんなに暑かっただろうか?


「久城さんが私を拾って下さったこと、感謝しています。だからずっと、あなたの役に立ちたかった。なのにご迷惑掛けてしまい申し訳ないです。このミスは必ず挽回します」


 おしるこミルクサワーを持つ白い手に、ぎゅっと力が籠もっている。浬は眉をひそめて首を横に振った。


「拾ったなんて、俺はそんな風に思ってない。雪平が優秀だってことは前から噂で聞いてたし、確かに誤解されやすい言葉は多いがゲームを良くしようとする気持ちは本物だと思った。だから是非来てほしいと思っただけだ。それに応じてくれて、こっちこそ感謝してる」


「いいえ、誤認ではありません。ノラ猫だった私を、久城さんは拾ってくださったんです。コミュニケーションの面でも、いつもフォローして下さっていたのを知っています。久城さんは、私にとって……」


 そこで言葉を切られるのは、とんでもなく心臓に悪い。浬の動揺をよそに雪平はたっぷりと沈黙を挟んだあと、意を決したように言った。


「久城さんは私にとって、飼い主のような存在です」


「……………………」


 動揺メーターが振り切った拍子に、カシュッと音をたてて缶コーヒーが開く。目を丸くしてそれを見届けたあと、浬はロボットのようなぎこちない動きで顔を上げた。雪平は頬を赤らめてはいるものの、真面目な表情を崩さない。冗談というわけではなさそうだった。

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