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「浬ちゃん、みんなで星七の歓迎会ランチ行こうって言ってたんだけど、一緒にどお?」
そう誘われれば、一応はチームをまとめる者として断るわけにはいかなかった。むしろ、誰も言い出さなければ浬自身から提案したことだろう。浬も初めてこのチームにディレクター見習いとしてメンバー入りした時も、当時のプロデューサーは歓迎会を開いてくれたから。
『久城くん、お腹空いてる? ハンバーグランチが美味しいお店とかどうかな?』
――アスクロの二代目プロデューサー……御手洗まどかも、あの頃はまだ、太陽のような明るい笑顔を見せていた。
「私、ハンバーグランチ、ライスでお願いします!」
天宮星七が嬉しそうにメニューを置いて、注文する。「俺もそれ、ライス大盛りで」と浬が便乗し、宇佐見、黒木、花里はパスタランチセットを頼んだ。
レトロな雰囲気の洋食屋『ブルーム』は、オフィスビルから南に五分程度歩いたところにある小さな店だ。グランコーラル光坂の中にも数多くの飲食店が入っているが、昼時はどこも混み合っている。その点、ブルームは知る人ぞ知る名店――いわゆる穴場だ。
「あ、ごめん、ちょっとだけログボ回収していい?」
宇佐見は許可を得てから、慣れた手つきでスマホを操作し始めた。ソシャゲの昼ログボ回収だ。美少女アイドルキャラクターの、キラキラしたイラストが見える。
「はー、お昼の
「あっ、アイ☆スタだ! 私、ピンク・マスカレード箱推しです!」
「あああ、ピンマスいいよねぇええ! もう星七とは語れる気しかしないなー」
嬉しそうに笑い合うふたりに、思わず「もう下の名前で呼んでるのか」と口を挟んでしまう。
「ふふん、星七って可愛いし、すぐ名前で呼んでいいか聞いちゃった。それにアスクロにもぴったりだしね」
アスクロの舞台は、架空の宇宙に浮かぶ七つの惑星だ。浬も天宮の名前を面接シートで目にした時、一番にそれを思い浮かべた。
「星が七つで星七、だっけ。漢字も響きも綺麗よねぇ」
「へへ……ありがとうございます。でも私、花里さんのお名前も素敵だと思いました!」
「あらありがとう。みんな椿って呼んでくれてるから、良かったら星七ちゃんもそう呼んでね」
「はいっ、椿さん!」
女ばかりのチームに配属されて、かなり慣れて来てはいるものの、こういった時はどうしても肩身の狭さを感じてしまう。性別というよりコミュニケーション能力の差かもしれないが。
女性陣がきゃっきゃしている間、浬もスマホを片手に、不具合が無いかの確認がてらアスクロの体力消費を始めた。このくらいなら、会話に耳を傾けつつ操作できる。
「あ、そーだ。浬ちゃんのことも浬ちゃんって呼びなよ、星七」
「…………いや、何で宇佐見が許可するんだ」
「えーダメなの?」
「ダメとかいう話しではなくてだな」
「か、〝浬ちゃん〟は、ちょっと」
「ほら、天宮も困ってるだろ」
「ええと、浬く……じゃなくて、〝浬さん〟は、どうですか?!」
ヴんっ、と浬は奇妙な咳払いで動揺を誤魔化す。しかし手元は狂い、このあとのボス戦用に溜めておいた必殺技を誤って雑魚敵に使ってしまった。アストラのカットインが表示され、画面の中で骸骨型モンスターが派手な爆発エフェクトと共に散っていく。
変な想像をしてしまったせいだ。きっと、こんなことを思ったのは浬だけだろうし、それを口にすれば『きも』の冷たい二文字で片付けられそうなので絶対に口にはしないが――……
「名前にさん付けってさー、なんか年の差夫婦っぽくない?」
宇佐見に心を読まれたかのような錯覚に陥り、どっと汗が噴き出す。
「え。そうかしら」
黒木と花里には理解されなかったようで、余計に微妙な雰囲気になってしまう。
「あ、浬ちゃんはそんなにオジサンじゃないか。26とかだっけ。失礼しやした」
そういう問題ではない気がするが、宇佐見は肩をすぼめて謝罪した。しかし、
「そうよぉ、久城くんは私よりひとつ年下だもの。オジサンじゃないわ」
また別の方向から花里による爆撃が投下され、浬の精神ポイント、SPがごっそり削られる。ゲージで表現するならば、きっと赤く点滅しているだろう。
「や、やっぱり〝久城さん〟でお願いしますっ」
天宮があわあわしながらそう言ったところで、パスタランチセットが運ばれて来た。ハンバーグランチは、もう少し時間がかかるそうだ。
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