「……イラスト担当の、黒木」


「黒い木に夢が実ると書いて、黒木くろき夢実ゆめみよ。どうぞよろしく」


 ゴシック調のファッションやメイクが特徴的な黒木は、それよりも更に特徴のあるアニメ声で自己紹介をする。


「趣味は、ゲーム実況。聴くほうじゃなくて配信するほうね」


「えっ、も、もしかして……!」


 ハッと口を押さえる天宮。どうやら黒木の声に聞き覚えがあるらしい。黒木は頬に手を当てて小首を傾げた。


「あら、もしかして知ってくれているのかしら? ゆめみんチャンネルっていうんだけど」


「ぬわーーーーっっ!!」


 とある断末魔のような悲鳴があがり、近くにいた浬は数センチ床から浮くほどに驚いた。


「あああ、わ、わわ私、ゆめみんの大ファンです! ルール・オブ・ヴァイオレットとか、DAMENTOダメントとか、アイリス・イン・ナイトメアとか、リアタイで全部観てましたっ」


「ほんとう? 長いものばかりなのに、ありがとう」


「おおーああいうの観れるんだ、天宮さん。あたしホラー苦手だからなー」


 そう感心する宇佐見の隣で、東が餌を前にした犬のような顔でこちらを見ている。さすがに無視することは出来ず、浬は雑に紹介した。


「で、東。厳密にはアスクロチームじゃない。以上」


「いやいやいや、そりゃないでしょ浬ちゃん! 毎晩のように一緒に地面舐めてる仲じゃん!」


「え……」


「え……」


「え……」


「妙な言い方すんな! ゲームの話だろ!」


女三人の視線を感じ取り、浬は慌てて正しい情報を上書きする。「あー、はいはい、把握」と宇佐見を初め全員がすぐに理解してくれたので、安堵した。


「んじゃ改めまして。あずま志岐しき、サウンドクリエイター。オレ、どこのチームにも所属してないんだよね。なんつーか、色んなチームから依頼を受けてるサウンド屋って感じ」


「サウンド! BGMとかSEとかですよね?」


「そそ。あとは外注から納品された曲の監修とかー」


 意外と真面目に自己紹介を始めた東と浬は、同期入社仲間だ。


同じバトルロイヤルゲームを好んでプレイしていることを知り、攻略法を語り合う内、いつしかチームを組んでランク戦へ潜るようになって、今に至る。


 金髪の髪にピアスと、ゲーム会社の社員としては珍しい(と、浬は思っている)チャラい外見だが、腹立たしいことに目鼻立ちのはっきりしたイケメンだ。ただそれ以上に、


「特技は目隠し音ゲーと、ペカチューの声真似! あ、アニメじゃなくてゲームのほうね」


 奇人である。


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