運命の出会い

 王国滅亡に成功したものの、どうにもタイム短縮するチートが見つかりません。そんなものはないみたいです。

 そこで女神の言葉を思い出します。


【行き詰まったら魔王の迷宮、最深部に行きなさい】


 私は魔王の迷宮最深部に行きます。前転でモンスターの視線を躱すことにもなれてきました。 

 アクティブモンスターに発見されたら死です。


 10回ほど、うようよといるグレーターデーモンたちに殺された私はようやく最深部に辿り着きました。

 かつて勇者と魔王が死闘を繰り広げたという、伝説の広間です。


「玉座が一つだけ。ここでかの勇者と魔王が戦ったのですね」


 当然ながら誰もいないのです。グレーターデーモンや、高レベルのモンスターもいません。


「誰かいませんか……」


 小声を発しても返事があるわけでもなし。あったらそれはきっと魔法攻撃で死んでいます。生きているということは誰もいないのです。

 私はおそるおそる玉座に近付き、座ってみました!


「座り心地は最高ですね。これが魔王の玉座ですか」


 大きすぎて脚が届きません。魔王はきっとコンパスが長いのでしょう。

 脚をついて思わず手前に玉座を引き寄せてしまいます。固定されている玉座が動くはずもありません――


 ガタッ


 鈍い音とともに玉座が動いてしまいました!


「押してだめなら引いてみな! ってことですか!」


 思わず叫びました。こんな古典的な仕掛けがあるだなんて。

 玉座の背後に回ると、下に続く階段があります。


「つまり、ここは最下層ではないということですね? 女神様」


 女神様が嘘をつくとは思えません。

 私は真の最下層に向かうべく、意を決して階段を降り始めました。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 無限に続くかのような広大な広場に出ました。亜空間ともいうべき、異次元の空間。女神の神域にも似ています。

 ただ最下層は薄暗く、正方形のマス目が天地に浮かんでいます。見上げると天井というよりは何もない空間です。


 一人、とんでもない美形が立っていました。見惚れて時間が経過するのを忘れそうなほど。

 整った顔立ちに蒼い肌。切れ長の美しい瞳に、二つの角。


 まさか…… 魔王がまだいるというのですか。ここに封印されている?


 魔王はこちらに気付いていないかのように、目を瞑って彫像のように佇んでいます。


「ホーリーアタック!」


 思わずけ距離を開けて先制攻撃を仕掛けてしまいました。

 魔王が視線を私に向けます。


「ああ!」


 背筋に電撃が走りました。物理的に。

 即死です。

 私は雷撃魔法にて、一瞬にして黒ずんだ塊となり即死したのでした。


 私はいつもの場所で蘇生しました。

 あの方の顔が忘れられません。


「これが……恋?」


 電撃のような出会い。

 これはきっと恋に違いありません!



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 五回ほど魔王に殺されても、私は懲りずに最下層に向かいます。

 あのお方ともふれあい、何度も殺されました。あの方は慈悲深く、毎回必ず私を一撃で殺してくださったのですから。


 即死ですから、苦痛もありません。同じ事の繰り返しは心が折れそうになりますが、あの魔王様に逢える――そう思うと俄然やる気が満ちてくるのです。

 やはりあの電撃のような衝撃は恋、なのでしょう。蘇生する楽しみが増えたことは喜ばしい。


「距離は……」


 ヘイトコントロールは細心の注意が必要です。

 反応だけさせる、というヘイトコントロールが必要です。ちょっとした攻撃でも反撃されて即死してしまいます。

 思わずこちらを向く程度。さざなみのようなヘイトを発生させる必要があります。おそらくそのヘイト調整は距離で可能です。


「ホーリーアタック!」


 魔法がかき消えるぎりぎりの射程で訓練生時代の護身用攻撃魔法を使います。

 魔王様がこちらを注視しています。


「懲りない女だな」


 あれ?

 私のことを覚えておられる?


「覚えているのですか?」

「……いや。初対面だ」


 不自然な間がありましたね。

 魔王様、ひょっとして女神様と同じようにループの輪から外れているのでしょうか。


「油断するな。細心の注意を払え。我は即座にお前を殺す」


 この方はアドバイスまで下さるというのですか! 


「わかっています。――名前をお伺いになってもよろしいでしょうか? 私はアグリヴィナと申します」

「――青藍。かつては青藍の魔王と呼ばれていた」

「ありがとうございます。青藍の魔王様。こたびはわたくしと一緒に王国を攻め滅ぼしていただきます。もっとも、今回は失敗するでしょうが」

「ほう?」

「死んで覚えていくしかないのですよ。私は死しては蘇る、煉獄の中にいます」

「――その瞳。悪くはないな。せいぜい練習して死ね。最後まで付き合ってやる」

「ありがとうございます」


 私は青藍の魔王様を引き連れて、王国に攻め入りました。

 王国は半壊。私は騎士団に闇討ちされて死んだのです。


 私が何度も繰り返しは死んで、蘇る煉獄にいるのはこの方とお逢いするためでは?

 今では何故か、そう思えるのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る