煉獄に嗤う悪役令嬢の王国滅亡RTA
夜切怜
聖女の妹と騎士団に謀殺される癒やし手令嬢
私は侯爵令嬢のアグリヴィナ。
聖職者の端くれとして【
王子の婚約者としてははしたないと感じる皆様もいると思いますが、モンスターがはびこるこの世界では、ある程度の実力も要求されるのです。
妹フロレンティアが聖女様なので、私も修道院に入り、癒やし手の修行を積みました。
珍しく今回の冒険に旅立つ前、フロレンティアが見送りをしてくれました。
「お姉様は美しい金髪を少し短めにしたのですね。羨ましいですね。みんなから愛されています」
「私は世にも珍しいフロレンティアの銀髪が羨ましいですよ?」
妹とすぐ比較され辛い思いをしていたので、外の世界に飛び出したのです。
「聖女では自由もありませんよ。お姉様は私が持っていないものすべてを持っています。王子エリックのお心までも。お姉様、くれぐれもお気を付けて」
「聖女の祈りがあれば心配いりませんよ。ありがとうフロレンティア」
私の仲間は王国騎士団代表で構成されています。彼らの修行のため、冒険者パーティの一員として活躍しています。
私が付き添うような形ですが、彼らはフロレンティアが手配してくれたのです。私の護衛も兼ねています。
「この周囲は最悪ですね。東西南北、凶悪な魔物ばかり。何故王都付近にこんな危険なモンスター地帯があるのか不思議でなりません」
「逆だよ逆。あえてこの場所に王都を作ったんだ。高レベルモンスターを狩る冒険者の戦利品を売りさばく、交易都市としてね。モンスターを配置した人物こそ大昔の聖女様らしい」
斥候のジョアーが教えてくれました。少し世間知らずのところがある私は、素直に耳を傾けます。
聖女とは世の理を司る者。モンスターを配置など容易いことでしょう。
「北に魔王の迷宮。西にアンデッド古代霊園。東に強力な個体の亜人種。南がやや手薄で弱個体の亜人種の集落ですから」
私達は南に位置するリオネス王国の王都から遠征です。騎士団長の【ミックマン】が教えてくれました。彼がパーティリーダーです。私の婚約者であるエリック王子の腹心でもあり、信頼できる人物です。
斥候担当の【凄腕の暗殺者】ジョアー。【戦士】のケル。【魔術師】のバルデマール。そして私【癒やし手】のアグリヴィナで構成された高レベル冒険者パーティ。私を除いては皆様、それぞれ王国の職能組合の幹部でもあります。
「このほこらこそ王国の人間が安全に冒険できることを願ってと、聖女フロレンティア様がお作りになられた聖なるもの。セーブポイントだ」
「フロレンティアが?」
目の前には質素な石があります。
「なんと。
「さすがはフロレンティアですね。そんなものを構築するなど容易ではないでしょうに」
かつて異世界の神々が、モンスターはびこるこの世界で人間が対抗するために、様々な冒険者や呪文体系を用意しました。
今ある職業、経験値、HPはその名残。経験値もそうです。我々はその残滓の恩恵に預かっているのです。
そして聖女はその理を担う者。
「無かったことになるってことはありがたいな。経験値を気にせず修行ができる」
「ここはピースゾーンではありませんよね? またモンスターを大量に釣って、まとめて殲滅狩りをするんですか?」
ピースゾーンはいわば聖域。モンスターが侵入することなど不可能な領域です。冒険者の狩場には少なからずピースゾーンが用意されています。
この辺一帯は高レベル冒険者の修行場。大量のモンスターをかき集めて範囲攻撃で一掃するという手法が好まれるのです。
「そのために君が神の加護で復活できるようにね。
「モンスター釣りは俺たちがやるからさ」
ミックマンとジョアーが申し出てくれました。
通常のセーブポイントは全滅すると経験値消耗や金銭を失うかわりに、冒険者を復活させるというもの。
失敗した時間を巻き戻すという
過酷な環境の秘境ゆえに、救済措置の一種でしょうか。
「アグリヴィナに何かあるといけない。公爵様に怒られては敵わん。俺たちがモンスターを引き連れてくるから姿を確認したら祈りを捧げてくれ」
ケルも私を心配したのか、この場所に留まるように告げました。
「承知いたしました。私はモンスターへの対抗手段がないからですから、まず私がほこらに祈りを捧げます」
ヒーラーは主にHP回復とMP回復が役割でございます。死霊や悪魔に有効な攻撃も多少ありますが、魔王の迷宮や古代霊園に住むモンスターには通じないでしょう。
神々に祈りを捧げます。気難しい逸話の多い主神から、混沌の女神まで。かの神々がいたおかげで冒険者は成立しているのです。
「ではいってくる」
本来ならここで違和感を察するべきでした。
釣り役である斥候のジョーア、騎士のミックマンは当然として、戦士のケルや魔術師のバルデマールまでそれぞれの方角へ散っていったのですから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あなたたちは…… なにゆえに私を
ジョーアの短剣が私の背面を貫きます。肺を貫き、即死ではありませんが致命傷です。
目の前は昏く、彼らの顔もぼんやりと薄れていきます。
モンスターを引き連れた彼らを確認した私は、祈りを捧げてセーブポイントを確保。その矢先に突如としてアンデッドを引き連れたケルにスタン攻撃を浴びせかけられました。
ゴブリンの群れを引き連れたバルテマールが私に足止めの魔法をかけ、動きを封じ込めてきたのです。その魔法攻撃こそ抵抗に成功しましたが、そこにキメラを二匹引き連れたジョーアの奇襲を受けてしまいました。
膝から崩れ落ち、吐血した私は絶命寸前。
目の前にはサイクロプスを引き連れたミックマン。彼なら殴られても、びくともしないでしょうね。自己回復が可能な聖騎士です。
「すまないなアグフィリナ。エリック王子は君の妹君である聖女フロレンティア様との結婚をお望みだ。そして君の妹君たっての願いでもある。何せ侯爵様の長女だ。簡単には婚約破棄できないからねえ。死んで貰うしかできないだろ?」
「そんな!」
「そうそう。君の父上も残念ながら急死した。誰も助けなどこないよ。――冒険にでる直前、殺したのはこの俺様だァ!」
ミックマンの端正な顔立ちが下卑た笑みに歪みます。
私のみならず、父上までも!
「さて俺たちはずらかるよ。達者でなアグリヴィナ。――永遠に死に続けろ。運が良ければ助けがくるかもな」
不可能です。ここで永遠にロールバックして生き返るということは――今この場で通りすがりの英雄でも現れないと不可能ということ。
「帰還しましょう。さようならアグリヴィナ。申し訳ない」
まったく悪びれた様子もないバルデマールが拠点帰還の魔法書を取り出し使用しました! なんと用意周到な! 彼らは城へ戻り、ここに祈りを捧げたた私は高レベルモンスターになぶり殺され続けるのです。
回復魔法を行ったらしたら即座にモンスターは反応して襲いかかってくるでしょう。
「このままでは……」
瀕死状態です。せめて生きる努力をしなければ。使える呪文はせいぜいあと一回。
「【スペリオルヒール】!」
私のヒールに反応してサイクロプスが睨み付けてきました。まずいですわ!
サイクロプスの巨大な棍棒に殴りつけられ、薄れゆく意識のなかで私は誓いました。
――復讐を。
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