『あの日の夜の白煙の』について
初めて書いた小説、と言っていいと思う。
今年に入ってから「自分が小説を書いたら、『何が起きてるかは伝わるが面白くはない』って感じの作品になると思う」とツイートしたら、「何が起きてるか伝わったら大したもんですよ(何が起きてるかなんて、伝わらないだろ?)」というリプをもらっていたので、「何が起きてるかくらいは分かる小説を書く」が今年の目標になっていたのだ。
芦花公園先生に、「こんなコンテストがあるよ! 今井士郎さんも小説書こうよー」と、こむら川小説大賞を紹介された。
なんと、応募作全作に講評が付くという。私が普通に小説を書いて投稿したら、偶然辿りついた読者が数人いて、もしかするとポチポチとイイネを付けてくれる人がいるかもしれない、くらいだろう。まとまった字数で褒めてもらえることが確約されているなんて、あまりに貴重な機会だ。
前述の通り、小説を書いてみたい気持ちは前からあったので、ほどよく背中を押してもらった形だった。
初めてと「言っていいと思う」と微妙な表現になるのは、小説風のTRPGリプレイとか、脚本とか、類似したものを書いた経験はあるからだ。 でも、リプレイで何が起きるかは、ゲームの経緯をなぞるだけ。面白くなかろうが知ったことか、それはプレイヤーの責任だという態度で書くリプレイと、劇中の出来事は全て自分が決めないといけない小説は違う。かなりの『照れ』が目の前に立ちはだかることを知った。
小説に書けることって、「自分が経験したこと」と「自分が妄想したこと」だけだからね。小説をお出しするということは「私はこんなことを日々考えています」という情報の一部を開陳することだ。いい歳こいたおじさんが……いや、私の正体は東京の女子大生だけど。今日もフラペチーノ?をグランデ?で飲んできたし……ファンタジーやバトルについて考えていることをいきなり表明するのは、かなりハードルが高かった。本気の恋愛を描いて「私の持っている『美しい恋愛』観」を披露するのも、恥ずかしかったのだ。
だから、小説一作目において「自分が妄想していること」を題材にすることは諦めた。徹底的に、経験に寄り添った世界・エピソードを書いてやると決心した。
演劇サークルの思い出。脚本家としての経験。「書けない」というシチュエーション。今の自分にもぴったりだ。プロットラインは「脚本執筆に詰まり、書けるようになる」くらい。
面白くなくてもいいから、とにかくリアリティ全振りで書いてやる、と書き始めた作品だった。
現実の執筆で他人と同席することはまずないのだが、ひたすらモノローグが続く可能性を嫌って「部屋で寛いでいる友人」を登場させてみた。リアリティ全振りはどうした、という感はあれど、結局これが正解だった。
「書けねぇんだけど?」「知らねぇよ」「知れよ」のくだりは「日常的な何気ない会話にありそうで、気取っていない感じが良く出ていて、小説としてそれなりに見られる」いい会話だったと思う。
キーボードに指を置きっぱなしの「ああああ……」もあるあるらしいことを知れて良かった。
なにか起きろ、なにか起きろと思いながら会話させていたら、三村の結婚設定が生えた。そこからは本当に、登場人物に身を任せていたらストーリーが形成されていった。
私の鞄の中には、「お盆の時期に、一年以上ぶりに買ったタバコ」の不良在庫が残っている。酒を飲みながら一晩吸えば満足だから、たまに買うと残るのだ。大学時代には、飲み会で「一本だけちょうだい」と、たまにタバコを吸っていた。あの感じのやりとり、女の子におねだりされる側でできたら嬉しいよね、ということで、あの回想シーンが生まれたのだった。
脚本が遅くてせっつかれるとか、自作キャラの思いも寄らない人間性を読解されて驚くなんていうのも実体験。大学サークルレベルでも、結構なネタになる思い出を提供してくれるものだ。
情報の取捨選択ができていない旨の講評を複数いただいた。これは当然だと思う。だって、プロットがなかったのだもの。
この作品は、いきなり水の中に落っこちて、「岸(規定文字数達成の上で、終わりっぽい感じにできるゴール)はどこだ!?」と、半ば溺れながら、当てずっぽうに泳ぎまくったようなものだ。「経路に無駄がありましたよね?」と指摘されたら、胸を張って「はい! でも生還(完結)しました!」と言うしかない。
とにかく、リアリティを徹底的に大事に。世界は滅びないし、能力には目覚めないし、なんなら愛らしきものもよく分からない。肩肘張らない「隣にいそう」な感覚と台詞回しの、ヌルいヌルい冷めた世界を、伝わるように書くことを頑張ってみた。
この「何気なさ」を面白がってくれる読者を一定獲得できたことは、嬉しい限りである。
前述の通り疑問符が付かないでもないが、処女作である。
良い縁で書くことができて満足だ。
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