第45話 覚悟の時

 それから二週間後。訓練を始めて一か月になった。


「修行の成果が出てきたみたいだね。そろそろ、実戦と行こうか」


「今までも十分実践的でしたが」


 実際、技の反復訓練以外はひたすらオリヴィアさんと戦っていた。それ以上に実践的ということは……


「コラキアの迎撃に行くんですか?」


「そうだ。そろそろ皇国が落ちる頃だ。軍勢を増やされる前に討伐しておきたい」


 ようやく修行から解放されるのか。と同時に、今度は死の恐怖が襲ってきた。


 今まで積み上げてきたものが通用するのか。


 負けないか。


 何より、死なずに済むのか。


 下手に自信と経験を積んだせいで、そんな恐怖が押し寄せてきた。


「怖いのかい?」


 全てを見透かしたかのように、オリヴィアさんが問いかけてきた。


「恐怖は成長の証だ。家を追放され、無能の烙印を押され、全てを失った気でいたかつての君には、恐怖を抱く余裕すらなかった。だが今はそうではない。守るものができ、強さを手に入れた」


 確かに、ミカエラやオリヴィアさんを失いたくない。強くなったからこそ、負けるのが怖い。これ以上失うものが無かったあの頃のように、向こう見ずな戦い方はできない。


「それこそが戦士としての正しい在り方だ。もう君はただの落伍者ではない。一人の戦士なんだよ。恐怖と正しく折り合いをつけ、受け入れ、そして、」


 オリヴィアさんは俺の両肩を掴み、言った。


「戦う覚悟を決める時だ。ヴェルデ」


 本当の意味での覚悟など、今まで決めたことはなかった。だが、もう俺は実家を追放された無能次男ではない。一人の戦士として、命を懸ける決意をしなければならない。


「俺は世界のためには戦いません。ただ、ミカエラとオリヴィアさんと、自分を大切に思ってくれる人たちのために戦います。そのためなら、命だって懸けます。でも、命を捨てるつもりはありません」


 自分の口からこんな言葉が出てくるとは、驚きだ。ミカエラや五大勇者との出会いが、知らず知らずのうちに俺を成長させてくれたのかもしれない。


「よく言った。では向かうぞ」


「はい!」


 俺は覚悟を決め、ミカエラと共にオリヴィアさんに続いた。

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