第44話 ただの少年
「ま、そんなことは気にせず鍛錬に励むことだ。【追従】のコラキアの軍勢が来るまで、まだ時間もあるしね」
オリヴィアさんは、さらっととんでもないことを口にした。
「奴の軍勢が、迫ってきているんですか?」
「あぁ、もちろんだ。奴の狙いは世界樹に封印されているベルルの残りの魂を取り戻し、ベルルを完全復活させること。それに、ミソボニアを封印した君のことも脅威と認識している。当然ここに向かってくるだろう」
「じゃあ、早く迎撃に向かわないと!」
「今の君では敵わない。ミカエラさんがいても同じことだ」
「くっ」
ぐうの音も出ない。ミカエラも瞑想修行で霊力を高めているようだが、それでも及ばないか。
王国に次いで皇国も落ちるのは時間の問題と思っていたが、ここまで早いとは。
「コラキアは四大神官となる前、騎士だった人間だ。カルネス王国創建の際の蛮行に心を痛め、聖地ルーラオムを再興させようとする信心深いルーライ教徒だった」
さすがは長命のエルフなだけある。物知りだな。
「無双の武勇を誇ると言われた騎士だったが、決してそれを人に向けようとはしなかった。ルーライ様の不戦の戒律を守っていたからね。ただ、魔物や罪人に対しては容赦しなかったという」
「つまり、霊力だけ持っていても敵わないと?」
「その通りだ。騎士として長年の鍛錬を積んできた人間に勝とうというのだ。君のような若造が。並の訓練では及ばないことが、認識できたかい?」
オリヴィアさんの言う通りだ。魔力もなく、武術の鍛錬もしてこなかった俺のままでは、邪神にたどり着くことさえできない。今まで勝ち星を上げ続け、慢心していたのかもしれない。
俺は、霊力がなければただの十五歳の少年なのだ。
【今はただ、目の前の課題に取り組みなさい、ヴェルデ】
女性の声がした。
霊の声だろう。だが、今まで実家で聞かされてきた凡百の霊たちとは、質の違う声だった。
「オリヴィアさん、今の聞こえました?」
「いや、なにも。それより、鍛錬に戻るぞ」
「はい!」
謎の声の正体はさておいて、俺は訓練を再開した。
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