第2話 9999の霊力

 翌日、冒険者登録のためギルドに向かうと、周囲からあからさまに憐れみの視線を向けられた。


 魔力鑑定用の水晶玉に触れるも、無反応。魔力ゼロと断じられた俺は、門前払いされてしまった。


「そんなことより、大丈夫だろうか?」


 適当に人気のない草原まで出て、俺は独り呟く。


 俺はアルバレス家の血塗られた歴史を知っている。


 かつて邪神ベルルを封印した伝説の偉人、五大勇者。アルバレス家は、そんな五大勇者を讒言で陥れ、処刑させた陰謀の黒幕だ。


 表向きの歴史では、五大勇者が自ら命を絶ったことになっているが、実際は違うのだ。


 なぜ俺がそんなことを知っているのか?


 聞こえるからだ。


 怨霊たちの声が。


 なんとなく俺の意志力(?)的なもので、家族に手は出さないよう抑えてはいたが、俺がいないのでどうしようもなくなるだろう。


 五大勇者の魂は強い。なにせ心身ともに鍛え上げられた伝説の偉人なのだから。


「そろそろか」


 俺は頭上の月を見上げる。


 月に亀裂が入り、パックリと割れる。


 亀裂から現れたのは、巨大な眼球だった。ギョロギョロと動いている。


 間違いない。


 五大勇者の一人、【巌の聖女】イエラの大魔法、【天の眼】だ。伝説では岩を自在に操り、岩に命まで与えることができたという。そんなイエラの最も得意とする魔法だ。


「やっぱり、アルバレスの名を捨てさせられたことが原因なんだろうな……」


 もう俺はあの家の一員じゃないから、俺に祟りは来ない。来ないものは抑えられない。


 結果として、冥界に住まう五大勇者の呪いが発動してしまったわけだ。【アルテマカノン】とか言ったか? あの程度のスキルで対抗できる存在ではない。


 五大勇者は、全てが規格外だ。


「ま、祟りを抑えるしか能がないんじゃ、俺もアルバレス家と同じ運命を辿りそうだな」


 実際、俺の取り柄なんて、冥界の霊の祟りを抑えることくらいだ。それに、実家の誰に話しても信じてもらえなかったので、仕事にもできない。


 この国では霊媒師や除霊師の類は法律で禁じられている。除霊を商売にでもしたら牢屋行きだ。


「もう死ぬしかないのか……」


 諦めかけたその時、謎の数字が視界に浮かび上がった。


 筋力:25/9999

 魔力:0/9999

 霊力:9999/259999


 冒険者登録証に表示されるはずの数値が、なぜか空中に表示されていた。しかも、霊力なんてステータス、初めて見た。

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