第28話 獣人族タチアナと脱法プロマイドの行方を追え!後編
名称:ラミティエ・マーロウ
体格:161cm、黒髪赤目、背中に一対の黒翼、お椀型おっぱい
種族:天狗族
年齢:22歳
備考:写真家、プロマイド調整技師
――――――――――――――――――――――――――――――――
「抵抗は無意味だオラァ!」
「グワーッ! ラインバッハ家の手練れグワーッ!」
犯人はあっさり見つかった。
ついでに言えば抵抗らしい抵抗もしなかったし、なんなら住居を特定するのにすら大した労力でもなかった。
ヤサは普通の居住区の中にある普通のアパートの一室だった。
こういう後ろめたいアングラ系の物を捌く奴は追跡を振り切る対策をするもんなんだがなぁ。
あたしの経験上だと下水を経由して嗅覚での追跡を妨害したり、自分そっくりの偽装ゴーレムで住居をかく乱なんてしていた。
突入直後に自爆装置で吹き飛ばされたこともあったっけなぁ。
その経験を踏まえて魔術解体要員と肉壁を連れてきたんだが予想が外れちまったな。
犯人の女は玄関を蹴破って突入したアヤメに呆気なく組み伏せられて力なく項垂れている。
背中の一対の黒い羽。
天狗族か。
すかさずボディチェックを済ませて周囲のトラップを確認するが、あるのは一般的な防犯警報装置のみ。
寸鉄一つも身に帯びていなかった。
こんなことをしておいて無防備すぎやしないだろうか。
拘束されたそいつに向けてあたしの隣に立つマリナが口を開く。
「それ君の名前は? そしてなぜこんなことをしたんだい?
これほどの技術を持っているなら、危ない橋を渡らずとも楽に稼げるだろうに」
それだよ。
正直あたしも気になってたんだよな。
マリナでも破れないプロテクトを組める腕前なら態々後ろ暗い手段を取る必要なんてない。
他では見ないレベルの編集技術を駆使すれば普通に商売するだけでも金は稼げるだろう。
いくら裏の売買で値段を吊り上げようとも、そんなはした金ではラインバッハ家を敵に回すリスクと釣り合わない。
なんというかちぐはぐすぎる。
「わ、私はラミティエ、…ラミティエ・マーロウ…」
女…ラミティエは苦し気に声を絞り出す。
演技には見えないがまだ信用できない。
アヤメに目線で首元の拘束を緩めるように指示をだす。
いつでも剣を抜けるように集中する。
場合によっては抑えているアヤメ諸共にぶちのめすことは織り込み済みだ。
さあ、良いぞ。
やれるものならやってみろ。
「私はただ…」
息を吸い込む音。
何をする気だ? 風、もしくは音か?
構うものか。
届く前に叩き切ってやる。
「推しの良さを広めたかっただけなんですぅ!」
……。
推し。
推しとは…?
謎の単語に動きを止めた私の耳に、この部屋に近づいてくる足音が届く。
反射的に剣を抜きそうになって、直前ではたと気付く。
敵ではない。
むしろ知っている足音だ。
おっかなびっくり歩くような独特の間の音。
…出不精のあいつがなんで外を出歩いてるんだ?
まあでもアイツなら推しとやらも知ってそうだし、丁度良いといえば丁度良いのか。
あたしの疑問を余所に足音はこの部屋へずんずんと進み、入り口に散乱する瓦礫を踏み超えてそいつはやってきた。
紅い瞳にぼさぼさの白髪。
いくつものペンネームでちょっとエッチな漫画からドスケベエロ漫画までこなす、一部界隈で名の知れた漫画家にして出不精の吸血鬼にしてヘンリー坊の友人。
ルイーゼロッテ・ガルトナーがやってきた。
脱法プロマイドの密売所に。
寄りにもよってあたし等が突入したこの時に。
「も、もしもし…プロマイドの噂を聞いたんです、が…」
ルイズは侵入時に蹴り壊した入り口からひょっこりと顔をのぞかせて、すぐにあたしらの視線とかち合った。
家主であろうラミティエを容赦なく組み伏せるアヤメ。
腰の剣に手を掛けたあたし。
その後ろで偉そうに腕組みするマリナ。
おそらくは瞬時に状況を理解したのだろうルイズは震える口で言った。
「違う、んですよぉ」
「……」
「これは違うんです」
そうか。
違うのか。
「あ、あくまで漫画に使う資料目的での購入というか決して後ろめたい如何わしい目的ではなくてですね」
「おう」
「そ、そう! これはいわば芸術…ではなく自分の画力の向上の為に…ええと、絵の仕事の…いえエッチなものではなくて…」
分かってるよ。
何も言わなくても良いんだルイズ。
お前がエロ漫画を描いてることをあたしは知っているんだよ。
この間出た新刊かなり良かったぞ。
「その、このことはヘンリー君にはどうか内密に…」
分かってるさ。
あたしにだってラミティエの情けぐらいはある。
今日のことはヘンリー坊には内緒にしておくさ。
御屋形様には報告するけどな。
◆ー〇ー◆
ルイズはその後もあれこれと言い訳をしていたが、要はプロマイドの噂を聞いてここに来たらしい。
ついでに推しという単語を聞いてみると、かなり詳しく説明してくれた。
人に推して勧めるくらい好きな物。なるほど、だから推しね。
「つ、つまり彼ラミティエは金儲けが目的ではなくて、ヘンリーきゅんの格好良さや愛らしさを世に広めたかったってこと、何だと思う…」
「そうなのか?」
説明は助かるがヘンリーきゅんとか言うんじゃねえよ。
あたしがラミティエに目をやると、ラミティエは組み伏せられたままコクンと頷いた。
「その通りです…。
私がカメラを向けても嫌な顔一つせずに、あんな笑顔を。
それに隣でチェキまでしてくれて、それで、いてもたってもいられずに」
「あー…」
「でもそれっきり会えなくて、手慰みにプロマイドを作ってみたら思いのほか良く出来て。
家に飾っていたら、それを見た人が売ってくれって」
「それで販売を始めたと…君、複製できない様にプロテクトをガチガチに固めたのは?」
「複製されてしまってはヘンリーきゅんが嫌がった時にプロマイドの回収が不可能になってしまいますので、そこは念入りに…ぐえっ」
お前もさり気無くきゅん付けすんじゃねえよ。
アヤメもあたし同様にイラついたらしく、ラミティエを一層強く締めあげた。
「なるほど、理に適ってはいるねえ。
そこまでして何で売ったりしたんだい?」
「こ、この愛らしさを世界に広めたかった…!」
「分からなくもないねえ」
「ヘンリーきゅんを知らないなんて、人生を損してますよっ!」
「それな」
「あと身元確かな相手にしか誓って売ってません。
購入者リストは机の2段目の引き出しの隠し収納にあります。
製作したプロマイドの残りもそこにあるもので全てです」
「タチアナ、頼めるかい」
「あいよ」
「あと私が死ぬと自動的にデータはすべて消えるように設定しています」
「なぜそこまで…?」
「ヘンリーきゅんの不利益になるぐらいなら死にます」
「おお…」
本気の顔じゃねえか。
なんて覚悟を据わった変態なんだろうか。
それはそれとして机を漁ると二重底の下から1枚のリストと複数枚のプロマイドが出てきた。
あたしはその内の一枚を抜き取って懐に忍ばせる。
同封してるのは…ああ、売上金か。
購入日の日付、金額、氏名に似顔絵まで付いてる。
最初の一人は…へえ、こいつか。
リストを捲る。
二人目は…んん?
捲る手を早める。
三人目、四人目、五人目六人目!
全員あたしの知ってる奴じゃねえかよ!
嘘だろお前ら。
なんであたしに教えてくれなかったんだよ!
友達だと思ってたのはあたしだけだったのか!?
見事にハブりやがって…!
「どうしたんだタチアナ。尻尾が興奮して膨らんでいるぞ」
「マリナ、これを、このリストを見てくれ」
「これは…なんてことだ。
これが事実だというなら…」
三角帽子のつばの向こうでマリナの魔法族特有の【瞳】が輝くのが見えた。
そうだよなあ!許せんよなあ!
マリナは珍しくあたしと目を合わせた。まるで心が一つになったようだった。
するべきことは決まった。
こいつらからはあたしたちが回収するぞ。
決意を新たにしたマリナは証拠品の中から堂々とプロマイドを一枚抜き取って懐に入れた。
大丈夫だアヤメ、そんな顔をするな。
お前の分もちゃんとある。
「…なあ、何でこんな手段を取ったんだよ。
普通に周りに見せびらかせば良かったじゃねえか」
「私は、その、なんというか人と喋るのが得意ではなくてですね。
あと友達も少なくて…」
「酒場とかなら行けんじゃねえの?」
「お酒も苦手で…」
あたしはマリナやアヤメを顔を見合わせた。
毒気を抜かれるというか、なんか怒る気がなくなるというか。
いやまあやったことはやったことだし、見逃すわけにもいかないんだが。
そしてプロマイドの為にも死なれる訳にもいかないんだが。
「取り合えず当主様の沙汰を待つべきではないかな。
私は怒る気が失せたよ。あとこのプロマイド欲しい」
「俺も右に同じっす」
「あたしも同意見だ…ルイズは?」
「ふぇあ? わ、私も同じかな…ふへへ」
身柄の確保と販売経路を入手できたわけだしな。
ラミティエを立たせて手錠型の拘束具を嵌める。
あたし等で動いても良いんだが、一つ手伝ってもらうとするか。
「売った奴の所に案内してくれよ。
その方がアンタの為にもなるさ」
リストに書かれている名前は全部で6件。プロマイドの数は7枚。
なに、同額を返金すればそう角も立たんさ。
それに御屋形様の心象も多少は良くなるだろうし。
ああ見えて優しい方だから多分許してしてくれるって。
貰ったプロマイド分はあたしも嘆願するからさ。
◆ー〇ー◆
回収は順調に進んだ。
所有者はドワーフ族のダリア、アラクネ族のエレン、ラミア族のベアトリーチェ、馬人族のマーガレット。
なんでヘンリー坊の知り合いしかいねえんだよ。
こっちは返金もするし罪に問わないっつってんだからさっさとと手放せよ。
変に粘りやがって。
こんな時間になっちまっただろうがよ。
そうしてなんやかんやでプロマイドを回収し、残る最後の3枚の在処へやってきた訳だ。
「…一応聞くけど、間違いないんだよな?」
「間違いありません」
「本当だよな? 嘘ついてたら承知しねえぞ」
「ヘンリーきゅんに誓って」
「そうか…誓っちゃうのか…」
あたしたちは貴族街のひときわ大きな屋敷を見上げる。
門前には竜を象ったド派手な紋章がでかでかと彫り込まれた屋敷だ。
もちろん竜の紋章は竜人族だけが使える象徴で、この家の主はその竜人族でも有数の有力者だ。
赫角の竜。
比類なき赤。
偉大なりし火のエスターライヒ。
その後継者と目されるヒルデガルド・エスターライヒの根城こそがリストに記された6件目の在処だった。
「いや本当にどうすっかなコレ」
「ここって竜人族のアレのアレっすよね…」
「そうだねえ。竜人族のアレの家だねえ…」
まあリストを見た時点で分かってたことなんだけどな。
偽名でエスターライヒを名乗る馬鹿がいる訳もねえし。
御屋形様に報告すればそれで済む話ではあるんだが、それはちょっと可哀そうだしな…。
「とりあえずアポなしだけど行ってみるか。夜も良い時間だけど何とかなるだろ」
「ほ、本当に行くんですか…?
ああ、死ぬ前にもう一度ヘンリーきゅんに会いたかった…!」
「君、早く歩き給えよ」
「めんどくせえな、アヤメ担げ」
「うっす」
「ああー…」
側付きのメイドが起きてれば話は早いんだがなぁ。
◆ー〇ー◆《ref》ヒルデガルド視点だよ《/ref》
明日は待ちに待ったヘンリーとの約束の日だ。
早く明日にならんかのう。
私はベッドに飛び込むと、枕もとのプロマイドを起動する。
実に良い買い物であったわ。
ヘンリーのプロマイドの密売など本来ならば製作者のラミティエを脅して独占する蛮行だが、あそこまで頑強に抵抗されれば考えを改めるしかないというものだ。
私相手にだけ専売してくれればそれで良かったのだが。
流石に死を覚悟されてはなぁ…。
そういうのはちょっと困る。
しかし本当に出来が良いのう。
1分以上のプロマイドなど早々見られるものではない。
そして明日は特注のカメラでヘンリーの撮影会よ。
この日の為にローラと共に撮影技術を磨いてきたのだ。
あー!早く明日にならんかなー!
楽しみ過ぎて目が冴えて仕方がないわ!
うはははは!
「お嬢様」
「うはは…なんじゃローラ、私は見ての通りこれから寝るところなんじゃが」
「お客様がお見えです」
「今何時だと思っとるんじゃ。追い返せ」
「ラインバッハ家のタチアナ様が例のプロマイドの件でいらっしゃったと」
「早うそれを言わんか!」
何故バレた。
これは本当にまずいぞ。
いくら健全なものとはいえ、密売された脱法プロマイドを購入して夜な夜な楽しんでいたなどと知られては流石のクラウディア殿もブチ切れる。
そうなれば早朝だろうが深夜だろうが関係なく襲撃されるだろう。
「…む? 来たのはクラウディア殿ではなく、タチアナとな?」
「はい」
「つ、つまりはまだ誤魔化せる可能性が…」
「いえ、例のプロマイド製作者に手枷を付けて担いでお出でですので、誤魔化すには無理があるかと」
「なんでそれを早く言わんのだ???」
もはや言い逃れ不可能ではないか。
予備のプロマイドで買収しようにも、おそらくはガサ入れ時のどさくさで既に入手済みだろう。
もうこれ詰みでは?
クラウディア殿の耳に入れば自動的にヘンリーの耳にも届くだろう。
そうなれば年頃の男児のプロマイドが密売されていることを知りながらも、それを隠れて購入して夜な夜な楽しんでいる破廉恥ドラゴンだと思われてしまう!
それだけは回避せねば…!
「…もう大人しくプロマイドをお渡しになられては?」
「それは嫌じゃ」
絶対に嫌じゃ。
◆ー〇ー◆
「絶対に嫌じゃが?」
「何でお前が偉そうなんだよ…」
「絶対に嫌じゃが」
「だから」
「絶対に嫌じゃ」
「それで押し切れると本気で思っているのかい?」
「…無理かのう?」
「こちらも子供のお使いって訳でもないからねえ」
「そこをなんとか頼めんかの」
「あたしらでダメなら御屋形様の出番になるんだが」
応接間に通されて、ヒルデガルドがやってきてからずっとこの調子だ。
もうあきらめてプロマイドを出せよ。
あたしたちを追い返してもブチ切れた御屋形様がやってきて、力づくで奪われるだけだって。
どちらが賢い選択かは明白だろ?
「渡すのも嫌じゃがクラウディア殿に凸られるのも嫌じゃ! キレたクラウディア殿を説得なんて私には出来ん!」
我儘だなこいつ。
夜も良い時間なんだしもうさっさと出せよ。
前の四人は渋々ながら返したぞ。
誇り高き竜人族ならそれを見習ってプロマイドを寄越せ。
「それに先ほどからプロマイドの回収と言っておるがなあ!だったら貴様らの懐のそれは一体何だというのだ!
ヘンリーのプロマイドをちゃっかり着服しているではないか!
ずるいぞ!」
「こ、これは証拠品だから…」
「貴様ら全員が隠すように懐に入れておいて証拠品もくそもあるかっ!」
「ふふふ、ぐうの音も出ないね」
「というかそこの鬼人族はいい加減こっちを見ろ!いつまでヘンリーのプロマイドを連続再生しておるんじゃ!」
「………」
「おいこら貴様のことだぞ。無視するな」
「アヤメのことは許してやってくれ。こいつはさっき初めて視聴したばかりなんだ」
「…こいつ、よく見たら瞬きしとらんし鼻血も出とらんか? ティッシュ使うか?」
「すまねえな」
田舎から出てきた純情娘には刺激が強過ぎたみたいだ。
顔から出る液体が全部出ていて流石に見苦しい。
鼻血と涎を流しながら声もなく泣くなよ。
顔面が凄いことになってるぞ。
アヤメの醜態のおかげかヒルデガルドも多少落ち着いたらしい。
話すなら今だな。
「ヒルデガルド様。何も我々はプロマイドを奪い取りたいわけではないのです。
内容自体も我々が確認した範囲では健全なものでしたし。
ですが事が事ですのでご当主様の裁定が必要であることもまた事実。
そのため、一時的にすべてのプロマイドを回収したのち、ご当主様の判断で返却という形にさせて頂きたい」
「む…。しかしな…」
「ここで拒まれても後程ご当主様による暴力的な解決手段が実行されるだけですよ?」
「むぅ…」
「その場合、内容に問題なしと判断されても返却されるかは断言できかねます」
「むむむ…」
しばらく不機嫌そうに唸っていたヒルデガルドだが、不満を飲み込んだのかため息を一つ吐くと、背後の鱗人族のメイドに声を掛けた。
「ローラ、例のものを持ってきてくれ」
「すでに持ってきております」
「ああ、助か…なんで二枚とも持って来とるんじゃ?」
「ご命令ですので」
「こういう時は片方だけ渡して予備は残すもんじゃろうが!」
「おっとこれはこれは…てへぺろですね」
「謀りおったな貴様ァ…!」
コントかな?
こっちは仕事で来てるんだからそういうのは後でやってくれ。
それとなローラ。
主人思いなのは良いが、それを通すわけにもいかねえんだよ。
こっちも仕事なんでね。
あたしは苦虫を噛み潰したようなヒルデガルドから2枚のプロマイドを受け取ると、中身をざっと確認する。
ヘンリー坊は可愛いな、よしっ。
2枚とも本物だ。
「最近ではプロマイドがないとよく眠れぬというのに…。
む、何じゃ。もう私は隠し持ってなぞおらんぞ。
正真正銘それで全てじゃ」
「ああ。確かに持っているものはこれで全てだな」
そして視線をメイドのローラに移す。
平常心そのものの顔だが、ほんの僅かに緊張している臭い。
中々の胆力だが騙されたりはしねえよ。
そもそもこっちには購入者のリストがあるから無駄な抵抗って奴だよ。
「主人への忠義は素晴らしいものだが、こっちも仕事なんでね。
アンタが持っている最後の一つを渡して貰おうか」
最後の購入者はアンタだよ。
ローザ・シュピッツ。
私の言葉に最後の抵抗なのか渾身の「てへぺろ」をかましてプロマイドを差し出すメイドの隣で、主人であるヒルデガルドはまるで初めて知ったように驚いた顔をしていた。
……え。マジで知らなかったのか?
「なん…えぇ? どういうことだ…?
いや本当にどういうことだローザ」
「私が事前に購入しておくことで発覚後にお嬢様のものが持っていかれたとしても手元には一つ残る、という算段でした
今回はさらにその上をいかれたようで申し訳ありません」
「そ、そういうことか。流石は我がメイドよ。見直したぞ!」
「これも敬愛するお嬢様の為ですから」
「その割には何度となく再生した記録があるな」
「おっと」
「ローザ? 嘘よな? これはこの事態を予想して私の為に購入したのであって、自分一人で楽しむためではないよな?」
「てへぺろ」
「ローザァ!?」
なにはともあれプロマイドの回収完了。
仕事人のあたしらはクールに去るぜ。
ぎゃいぎゃい言い合う仲良し主従に背を向けて、ちょいおこ状態の御屋形様の元へ急ぐのだった。
ミッション・コンプリートだぜ!
――――――――――――――――――――――――――――――――
御屋形様からは渋々OKサインが出たのでプロマイドは無事返却され、ラミティエちゃんはラインバッハ家に正式に雇用される運びになったよ。やったね。
ちなみに盗まれたのはドワーフ族のダリアちゃんでした。
正確には肌身離さず持っていたら買い物中に不注意で落として、それを置き引きされたんだね。
時系列としては、落としたのは本編の昼ごろで、その2時間後くらいには置き引き犯が捕まって押収品がタマラの目に留まった感じだね。
鼠人族の捜査力が凄すぎるね。
ダリアちゃんは気づいてからタチアナにつかまるまでずっと外を探し続けてたんだって。
ヘンリー君に迷惑がかかるからって落としたことに気付いたら即座に鼠人族を捕まえて洗いざらい吐いて協力を依頼したりもしたんだよ。可愛いね。
≪TIPS≫天狗族
背中の黒い羽が特徴的な種族。
天使族とは違って実用的な翼であり、飛行速度はかなりのものであるり、脚力も他種族と比較して高い。
空間認識や記憶力に優れている他、所属を賭して方角を見失うということがない。
その反面、肉体的な強度はさほど高くはないため、戦場でその姿を見ることは少ない。
性感帯は翼の付け根。
背中に手を回されながらの対面座位が好き。
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