多種族世界で繫栄を謳歌せよ
@katamiti2
第1話 天使族エリーとパンといつものやつ
名称:エリー・マックガバン
体格:160cm、巨乳、金色碧眼、たれ目、ウェーブのついた長髪
種族:天使族
年齢:15歳
備考:実家はパン屋さん+α
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今よりも昔、血で血を洗うような大きな戦がありまして。
種族を問わず多くの死体が積み上げられたそうな。
それがなんやかんやで和平が結ばれてもう数百年。
普人族にとっては教科書に載るような昔の話で、
長命種族にとってはまだまだ当時を知る者がそれなりにいる時代。
そんな多種族共栄の世界を生きるヘンリー少年――の周りの女の子の話。
◆―〇―◆
夜が明けて間もない街を急いで走る。
胸に抱えたパン籠には焼き立てのパンをぎっしりつめた。
重くはないが落とさないように気を付けないと。
大通りを抜けて、角を曲がり、大きな屋敷が並ぶ住宅街の中の邸宅の一つ。
ラインバッハ家の門の前までノンストップで走ってきた。
昨日夜更かししたせいで遅刻するところだった。
私は息を整えて守衛さんに声をかける。
「え、エリー…マックガバン、です…いつもの…ひぃ…パンを」
「落ち着けよ、息も絶え絶えじゃねえか。門を開けるから通って良いぞ」
「はぁー、すぅー、はぁー…ああ、おはようございます。おひとつどうぞ」
「いつも悪いね。濡れタオルあるけど使う?」
「いつもありがとうございます!」
まあ、この私ともなれば顔パスってものよ。
もう何年も通ってるんだから当然なんだけどね。
守衛さんに賄賂のパンを渡した後、手早く身だしなみを整える。
殿方に会うのだから淑女然としなければね。
ちょっと遅れたかもしれないので急がなければ。
っしゃあ行くわよ!待ってなさいヘンリー!
「門の中では走んなよー」
「…はい」
もうちょっと待ってなさいよヘンリー
あなたの幼馴染が今行くわ!
まあ早歩きで行くんですけどね。
煉瓦敷の道を抜けて勝手知ったる庭を横切りショートカットを図りつつ、邸宅の玄関前へと向かう。
これならぎりぎり間に合ったかな?
急ぎ足で角を曲がると、真っ黒な髪がすぐ目の前にいた。
急制動だ。パンを落とさないように抑えつつブレーキをかけて踏みとどまる。
セーフ!
「もう危ないじゃない」
「エリーが突っ込んで来たんでしょ」
「ごめんごめん…おはようヘンリー!パンを届けに来たよ」
目線を頭一つ下に向けると、黒い瞳と目が合った。
彼はヘンリー・ラインバッハ。
私の幼馴染でこの家の嫡男。
将来はきっと私と結婚する。少なくとも私はそのつもりだ。
ラ・ヴィンセルでも珍しい黒髪黒目の少年は、柔らかく笑いかえしてきた。
「おはようエリー、いつもありがとう」
はー、可愛い。
12歳なのにこの物腰と雰囲気よ。
もう結婚したい。
年齢的にまだ結婚できないけど。
家の格は釣り合ってるはずなんだよね。
未婚の男女が二人で会うことを公認してるってことは、もうこれ許可されてるようなものでは?
ヘンリーの成人まであと3年かあ。長いなあ。
まあそれはそれ、これはこれ。
毎朝のパンを届けるのは私の仕事。
仕事はこなさなければならない。
少し離れたラインバッハ家に届けるのは少し面倒だけれども、これがあるから1日を頑張れるのだ。
そう思いつつパン籠に伸びるヘンリーの手からパン籠を離す。
いつものやつがまだでしょうが!
してくれるまでこいつは人質だぞ!
「ね、ほら、ヘンリー。いつものやつ…ね」
この瞬間はいつになっても恥ずかしい。
私はヘンリーの了解を待たずに自分の背中に手を回し、ボタンをいくつか外す。
背中の羽がちょっとずつ膨らんできて窮屈だったんだよね。
人前で羽を晒すのははしたないことだけど、ヘンリーと私の間柄だからいいのだ。
ゆらゆらと前に広げた羽でヘンリーを囲んで逃げ場を奪いつつプレッシャーをかけると、ヘンリーは息をついた。
「仕方ないなあ…」
ふへへ、口はそういっても体は正直じゃねえか。
この羽の感触が忘れられなかったんだろう?
ちょっとおどけつつも慎重にヘンリーの背中を羽で包み、そのまま無抵抗の彼を抱きしめる。
はー、いい匂い。
同年代でこんなことしてるの私くらいでしょ。
勝ち組で辛いわ。
彼の身長は私よりも頭一つ小さいから、ちょうど胸のあたりに顔が来る。
引き寄せた彼の顔を胸で受け止めると、これがジャストフィットするんだな。
無駄に大きな私の胸はヘンリーを抱きしめるためにあったんだ。
これがええんやろ、ヘンリーがおっぱいが好きなことは知ってるんだぞ。
私は髪を手で撫でつけながら、彼の頭に頬ずりする。
彼は口では仕方ないと言いながらも嫌がる様子はない。
むしろ腰に手を回して抱きしめ返してくれるほどだ。
よしよし、今日はこのためにコルセットつけてきたからね。
正直キツくて走ってるときしんどかったけど、ヘンリーが喜びそうだから我慢できる。
私は手と頬っぺたでヘンリーの髪を堪能しながら、彼の背中側に広げた羽でヘンリーの足から腰、背中、首筋と擦るように撫でていく。
羽を擦りつける度にぞくぞくとした快感が背中を走った。
羽先で擽るように動かすと、彼の体がぴくぴくと震えるのが分かった。
いやーたまんねえっすわ。
この時の為に日々を生きているといっても過言ではない。
ただ至福の時間はいつまでも続かないのが辛いところだ。
ひとしきりヘンリーの匂いを嗅ぎつつ深呼吸。
興奮が収まれば羽は小さくなるのだ。
ゆるゆると羽が背中に収まると、ヘンリーが背中に手を回してボタンを留めてくれる。
いいよねこういうの。
ピロートークみたいな事後感が溜まらない。
いや、経験なんてないけど。
「はい、ボタン止め終わったよ、エリー。…エリー?」
「もうちょい、もうちょいだけ…」
「お店の準備だってあるんでしょ? 前もそれで叱られたっておばさんから聞いたよ」
「ん、んー、…よしっ! 補給完了!これで1日が乗り切れるよ
ヘンリーは今日はタチアナさんと訓練だっけ、頑張ってね」
「午前中は剣で午後は勉強だけどね。エリーもお店頑張ってね」
名残惜しいけど淑女は耐えるものだ。
エリー・マックガバンはパン籠をヘンリーに渡して仕事に戻らなければならない。
マックガバン家もただのパン屋という訳ではないのだ。
まだまだ覚えることはたくさんある。
将来の伴侶の為にも頑張るんだぞ私。
私は見送ってくれるヘンリーに淑女らしく力いっぱい手を振ると、鼻歌を歌い我が家に帰還するのだった。
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≪TIPS≫ 天使族
天使族の羽は実はフェロモンの分泌器官
羽の膨張は性的な興奮とリンクしている
未成年の男児に羽を擦りつけるのは淑女の行いではない
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